この記事をまとめると
■ターボエンジンのタービン製造を担っている「IHI」について解説■海外にも大手メーカーはあるがIHI製タービンの信頼は絶大だ
■F1やスーパーカー、チューニングメーカーにも採用されている実績がある
工業製品ならなんでもお任せな「IHI」はタービン製造の老舗だ
日本が世界に誇る重工業メーカーといえばIHI。古くは「石川島播磨重工業」だったのだが、IHIのHはじつは播磨じゃない、ヘヴィー・インダストリーだという、そんな公式ツイートが昨年末、話題になった。
ちなみにIHIの最初のIは、当然「石川島」。
※写真は石川島造船所の跡地周辺
というわけでIHIの前身は、明治の富国強兵の頃から軍艦や商船、発電所や機関車を造る国策企業で、日清・日露の戦時特需で得た利益が自動車や航空機部門に再投資された。それ(とくに前者)が、いすゞ自動車のルーツとなったのだ。いわばインフラ施設に始まって陸海空の動力機関を動かすため、大小に関わらずタービンを回すのはお家芸というわけだ。
戦後、クルマの世界で何よりIHIの名を上げたのは、バブルもたけなわの頃。第2期ホンダF1のテクニカルパートナーとして1984~1988年にエンジンの出力向上のカギそのものであるターボチャージャーを供給し、1988年の16戦15勝という、ほぼほぼ完全制覇に貢献したのだ。

しかもその技術と信頼性はサーキットだけにとどまらなかった。同時期に公道を走れるレーシングカーと称されたフェラーリF40にも、IHIのターボチャージャーが採用されたのだ。当時も今も、世界中でターボチャージャーのサプライヤといえば、アメリカのハネウェル傘下に入ったギャレット、ボルグワーナーに吸収されたKKK、そしてIHIと同じく日本の重工業メーカーの雄、三菱重工が有名だったが、ターボ技術華やかなりし時代、IHIは名実ともに頂点に立ったのだ。ついでにいえば、ブガッティEB110が装備していた4基のターボチャージャーもIHI製だった。

世界規模で見てもタービン製造のパイオニア的存在
ホンダF1との関係はつい最近、2020年シーズン初めまで続いたが、フェラーリとの関係は現在進行形で続いている。

IHI製ターボチャージャーの数ある強みのひとつは、インペラにインコネルニッケルクロム合金ではなく、TiALと名づけられたチタンアルミナイド材料を用いている点だ。材料費は高いが慣性を30%以上も抑え、しかもインペラ自体、鋳造でなくマシニングによる削り出しで、フローティングメタルベアリングではなくボールベアリングを介して取り付けられているという。ラグの少なさ・レスポンスよさで秀でるのだ。

しかも最新のハイブリッドV8ツインターボである296GTBに採用されたIHI製ターボチャージャーでは、より高性能の合金に進化。タービン自体の最大回転数は18万rpmにも上るとか。

ダウンサイジングやバリアブル・ジオメトリー・ターボがガソリンでもディーゼルでも常識化した今や、IHIのターボは高性能なスーパーカーに限らず、VWゴルフのような欧州車、ダイハツ・タントのような軽自動車にも積まれている。現在ではIHIのターボは自動車メーカーへのOEM供給だけでなく、ここ数年はサードパーティのチューニング・パーツとしても販売され、ますますその裾野を広げている。そればかりか、FCV(燃料電池車)用の電動ターボも手がけるなど、未来へのソリューション・テクノロジーとしても注目されており、やはりターボなくして脱炭素化は無さそうな気配すら漂ってきているのだ。