この記事をまとめると
■ボール・ナット式ステアリング操舵方式はキックバックが少ない■かつては多くの本格派クロカンモデルに採用されていた
■いまではジムニー以外のほとんどのクロカンモデルがラック&ピニオン式を採用する
クロカンモデルの定番もいまや絶滅寸前
自動車のメカニズムは、まさに日進月歩のペースで発展を遂げているが、ふと見渡すと、かつては中心的存在だったメカニズムが現在ではごく少数派、かろうじて生きながらえている例を目にすることがある。
ステアリング・ギヤボックスのリサーキュレーティング・ボール形式(ボール・ナット)などもそのひとつだ。ステアリング機構そのものは、ステアリングホイールをまわす円運動をステアリング・ギヤボックスを介して左右方向の動きに変換。
このステアリング機構を構成するパーツのなかで、時代の変化を反映してるものがギヤボックスの形式である。現在の主流はラック&ピニオン方式で、ステアリングシャフトの先端にピニオンギアを設け、歯切りした平板(ラック)と噛み合わせ、ステアリングの円運動を平板の左右運動に変え、その動きをタイロッドを介してステアリング・ナックルアームに伝えることで、前輪に舵角を与えるギアボックスだ。
長所は、力の変換方式から生じるステアリングのダイレクト感、バックラッシュが少ないことも操作感の向上につながり、構造がシンプルであること、コストを抑えることができること、などが挙げられる。一方、短所としては、操舵力が重くなりがちなこと、前輪からの衝撃を直接ステアリングホイールまでフィードバックしてしまうこと(キックバック)などが挙げられる。
ジムニーのみが採用を続けるボール・ナット方式
こうした長短を考えると、ラック&ピニオンは舗装路向き、スポーツカーやレーシングカーに向くギヤボックスであることが理解できるものの、操舵力の点から普及に時間を要したギヤボックス形式でもある。この問題を解決したのが、パワーステアリング機構の実用化で、パワーステアリングの一般化とともに急速に装着例が増えた方式である。

一方、古くから存在したのがボール&ナット方式で、ステアリングシャフト先端に切られたスパイラル状のウォームギアと、ボールベアリングを内蔵したボールナットラックを組み合わせ、ステアリングの回転運動をセクターギアを介してピットマンアームに伝え、この動きによって前輪に舵角を与えるステアリング・ギヤボックス形式である。
回転運動から左右方向への力の変換を、ベアリングを介したウォームギアの動きによって行うため、ラック&ピニオンのようなダイレクト感、シャープさは体感できない反面、操作感が滑らかなこと、前輪からの衝撃をギヤボックスが緩衝することで、キックバックの少ないステアリング・ギヤボックス形式という特徴を持っている。
現在、このボール・ナット方式を使う車両はきわめてまれで、本格的オフロード走行を想定したスズキ・ジムニーがその代表格となっている。以前は、メルセデス・ベンツのGクラス(ゲレンデバーゲン)やジープ・チェロキーなどでも使われていたが、フロントアクスルの形式を独立懸架方式に変えたこと(Gクラスはタブルウイッシュボーン、チェロキーはストラット)で、それぞれステアリング・ギヤボックス形式もラック&ピニオン方式へと変更を受けている。

逆に言えば、ボール・ナット方式は、フロント・リジッドアクスル方式と相性がよい方式ということもできる。
もちろん、リジッドアクスル方式とはいっても、大型商用車を除いてさすがにリーフリジッド方式を目にすることはなく、ほぼ100%コイル/リンク・リジッド方式が主力となっている。ジムニーのように本格的クロカン4WDを目指す車両が、依然としてフロント・リジッドアクスル+ボール・ナット方式のステアリング・ギヤボックスを採用し続ける例は、世界的にもまれな例となっている。