この記事をまとめると
■サーキット走行を前提にしたレース用車両を一般人が動かすことができるかを解説■現代のレース用車両はほとんどが2ペダル化されており、ただ動かすだけなら誰でもできる
■しかし、レーシングスピードで走らせるには特殊なドライビングスキルが不可欠だ
ただ動かすだけなら普通の人でも走らせることができる
F1やスーパーフォーミュラ、スーパーGTマシンなど、レース専用車両はさまざまなカテゴリーに分類され数多くある。どれもレース専用に設計されていて、サーキットを速く走ることが前提で作られているものだ。
こうしたレース専用マシンを一般のドライバーが運転したらどうなるだろうか。
確かに、サーキットをプロのレーシングドライバーと同じような速さで走らせるのは一般ドライバーには不可能だと思っていい。とくに、上位カテゴリーになるほど一般乗用車との性能乖離が大きく、ドライビングは容易ではなくなってくるだろう。

しかし、ただ動かすだけなら、じつは誰にでもできる。大昔のレーシングマシンはエンジンを高回転型にチューニングし、低速トルクが小さく、また強化クラッチが装着されてクラッチペダルを踏むこともままならないほど重かった。エンストを起こさないように半クラッチを駆使して走り出すのは大変だったのだ。だから、一般ドライバーが試乗すれば確実にエンストを引き起こしていた。
ただ、近年のレースマシンは2ペダル化され、ステアリングパドルのクラッチスイッチでアクチュエーターを操作するなど、手順を守れば誰でも動かすことができる。3ペダルのマシンではクラッチペダルが重く感じるだろうが、エンジンの制御で十分な低速トルクを引き出せるので、通常の乗用車と同じように走り出せるはずだ。

シフトアップもダウンもステアリングパドルで行い、走行中はクラッチペダルを踏む必要もなく、むしろロードカーのマニュアルトランスミッション車のほうが難しく感じるかもしれない。
ステアリングには電動パワーアシストが装着され、「重ステ」と言われていた時代のレーシングカーからは想像もできない軽さで操舵できる。
レーシングスピードで走らせるにはスキルと強靭な肉体が必要
しかし、車速が上がってくると、その印象は激変する。

だからといって、そのままコーナーを曲がっていける訳ではない。レーシングマシンに装着されているレース用スリックタイヤは、本来のグリップを発揮できる作動温度領域が高い。したがって、速度を上げてダウンフォースだけ高めていても、タイヤのウォームアップが正しく行われていないとハイスピードのままコーナーを曲がることができないのだ。素人ドライバーがレーシングカーを試乗すると、多くの場合でタイヤウォームアップ不足によるグリップ不足でコーナーを曲がり切れず飛び出してしまったり、またはスピンしてしまうことになる。とくにタイヤが温まりにくい低温の冬場などは危険だ。

レーシングカーは各パーツが高価でクラッシュしたらとんでない修理費用がかかる。
コクピットはタイトに設計されていて、多くの場合はドライバー毎に専用のシートを作って取り付ける。さらに5点式以上のシートベルトでガチガチに固定され、息をするのも苦しいほどだ。さらにHANSという頸椎損傷を保護する専用の装置にフルフェイスのヘルメットを固定し、腕を動かすことも、首をまわすこともし辛い状況だ。

ヘルメット越しに見える視界は狭く、メーターを見ることも難しい。
さらに、LAPを重ねてタイヤ温度が高まり、タイヤが本来のグリップを発揮しはじめると、強烈な横Gが全身を襲う。たとえば右コーナーで先を見ようとしても頭が左に傾き、黒目を右に向けることもできない。シフトレバーを操作しようと手を伸ばしても、すぐそこにあるレバーに手が届かない。腕に横Gがかかって思うように動かせないのだ。

また、両足は横Gを受けてコーナー外側に傾き、アクセル操作を正確に行えない。レーシンググリップが発揮され、アクセルやブレーキのペダルを強く踏み込んだら加速Gと減速Gで頭部は前後に振られ、抗することもできないだろう。1周もしないうちに全身の筋肉は疲労し呼吸も苦しくなっているはずだ。
レーシングカーは誰でも動かすことは難しくない。しかし、本来のレーシングスピードで走らせるには、特殊なドライビングスキルと高いGフォースに耐えうる強靭な肉体が不可欠だ。モータースポーツがドライバーにとって過酷なアスリートスポーツであることを深く認識することができるだろう。

ただ、一般ドライバーがトップカテゴリーのレーシングマシンをドライブする機会は、国内ではほとんどない。