自動運転“公道走行”実現へ前進も…もしものトラブル「法的責任」は誰が負う?
「1年半前、米国アリゾナ州・フェニックスでWaymo車両に初乗車して、本当に運転席に誰もいないことに驚きました。‟これは絶対に日本のためになる。
日本の未来、少子高齢化、労働者不足の日本の移動の足の確保のためになる”と私が感じた瞬間でした」
東京・港区のTAKANAWA GATEWAY CITY(TGC)で4月10日、Waymoの日本でのテスト走行開始にさきだち、あいさつした日本交通株式会社取締役でGO株式会社代表取締役会長の川鍋一朗氏は、その出会いの瞬間を振り返り、日本での展開に胸を膨らませた。

使命は「最も信頼されるドライバーになる」

Waymo は「最も信頼されるドライバーになる」という使命を掲げる自動運転技術企業。これまでに同社が実施したWaymoによる完全自動運転は、カリフォルニア州サンフランシスコおよびロサンゼルス、アリゾナ州フェニックス、テキサスオースティンなど合計 800平方キロメートルを超える米国内の人口密度の高い都市で、その回数は500万回を超える。運行サービスの提供は週20万回超だ。
最先端を走るテクノロジー企業ながら、既存マップデータに依存せず、地道にデータを積み上げ、無人での自動運転を実現した同社の自動運転技術「Waymo Driver」。磨き上げたハードウエアとAI対応のソフトウエアが一体となり、事故防止の安全面ではこれまでに大きな成果を出している。
今回のテスト走行は、同社が昨年12月、都内タクシー大手の日本交通、タクシーアプリのGOと戦略的パートナーシップ提携をした一環だ。Waymoにとって米国以外では初となる、 公道での走行となる。
テスト走行は有人で行われ、米Waymoでトレーニングを受けた日本交通の乗務員が搭乗。東京都心の港区、新宿区、渋谷区、千代田区、中央区、品川区、江東区の7区をくまなく巡回する。目的はWaymoの自動運転技術を用いて、東京の公道で走行することを可能にするためのデータ収集だ。
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日本での展望を語るニコール・ガベル氏(弁護士JPニュース編集部)

国外初の公道走行にあたり、Waymo社事業開発部門・パートナーシップ部門責任者のニコール・ガベル氏は次のように展望を語った。
「当社にとって初となる海外での公道走行。
私たちのパートナーシップは、Waymoの15年にわたる運用実績が、業界のリーダーたちとの戦略的取り組みを通じ、いかに新しい環境に適応できるかを示すもの。
東京においても、私たちは米国で行っているのと同じく揺るぎない原則を順守します。すなわち、安全確保に責任を持つこと、事業を展開する地域社会で信頼されるための取り組み、そして地元自治体や地域団体との連携です」

日本で自動運転が実現するXデーは?

日本のモビリティの未来に希望を描く、自動運転による公道走行。その技術が実装され、日本の公道を自動運転車が走行する「Xデー」がいまから待ち遠しいが、現状では「未定」であり、そこへたどり着くにはまだしばらくの時間を要する。
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多数のセンサーを搭載したWaymo(弁護士JPニュース編集部)

立ちはだかるのは安全面の障壁だ。「本当に無人で事故を起こさずに運転できるのか」「事故を起こしたら誰がどう責任をとるのか」「突然の飛び出しにシステムは対応できるのか」「システムが故障して乗客が負傷したらどうなる?」「複雑な状況で混乱せず、走行できるのか」…。
米国では十分な実績を積み重ねるWaymoだが、日本とは交通事情も、車と人との関係も異なる。特に日本では、歩行者と自動車の事故が欧米に比べて多く、そうした特殊事情も可能な限りシステムなどで解消していく必要がある。
こうした日米の道路事情の違いを、今回のテスト走行で収集したデータなどで修正。日本の事情に適合させていくことで、日本でも安全に走行できる自動運転システムのベースを構築する。

法的にはどんな障壁があるのか

システムによる安全性の追求が順調に進んだとしても、次なるハードルがある。法律の壁だ。事故が発生した場合、「誰の責任になる」のか。この点は、ドライバーが自動運転車を選択するうえでも非常に重要なテーマとなる。

日本では、自動運転車が満たすべき車両安全の定義を、国際合意を踏まえて、「許容不可能なリスクがないこと」、すなわち自動運転車の運行設計領域(ODD)において、「自動運転システムが引き起こす人身事故であって、合理的に予見される防止可能な事故が生じないこと」と定めている(国土交通省自動車局「自動運転車の安全技術ガイドライン」)。
また、保安基準として、「自動運行装置の作動中、他の交通の安全を妨げるおそれがないものであり、かつ、 乗車人員の安全を確保できるものであること」(道路運送車両の保安基準の細目を定める告示【2023.9.22】 72条の2(自動運行装置))とされている。
これらが、現状の自動運転に求められるひとつの安全性基準とされる。基本的にはシステムが得意とする領域でもあり、磨き上げることである程度の精度まで高めることは可能だろう。
これらを踏まえ、自動運転システムにおける法的責任の考え方について、松田綜合法律事務所で自動運転関連法務チームリーダーを務め、名古屋大学未来社会創造機構客員准教授でもある岩月泰頼弁護士は次のようにポイントを説明する。
「まず、重要となるのは、自動運転が走行するルートにおける道路交通法で順守すべき義務の整理です。判例と法令解釈に基づき、車両義務の定量化できる部分とできない部分を仕分けし、定量化できる部分は、現行の技術水準において検討。できない部分は、自主基準を作るなどすることが望ましいでしょう。
また、自動運転システムでは、道路交通法の順守では足りないことを認識し、現在の人間ドライバーに課されている注意義務が、『合理的に予見される防止可能な事故が生じないこと』を確保することに有用であることを踏まえておくといいと思います。
判例については、『運転手が道路交通法を順守しても、過失が問われた事例』『運転手が道路交通法を順守していて、過失が否定された事例』などが参考になるでしょう。
われわれが自動運転の安全基準の策定に向けて行った判例調査の報告書(※1)も参考になると思います」
※1 自動運転に向けた裁判例調査 報告書 | RoAD to the L4(https://www.road-to-the-l4.go.jp/activity/courtcases/)
道路交通法がベースになるとしても、その対応をシステムに組み込めば万事OKとはいかない。むしろ、予見が難しい状況も十分に想定し、どのようなケースでシステム側の責任が問われるのかの類型的な検証が、トラブル発生時に法的責任は誰が負うかの議論で重要になる。

自動運転の人身事故における刑事責任の考え方

そのうえで、岩月弁護士は、レベル4(※2)での自動運転における刑事責任について、次のように対策の方向性を示した。
※2 特定条件下で、運転者がいなくてもシステムがすべての運転操作が可能な段階
「事故が発生した場合、日本の刑事責任は、基本、自動運転に関わるそれぞれの組織における関係者個人(法人ではない)の過失が問われることになりますが、特に『システム設計・製造者の過失』『設計・製造者の監督者の過失』『オペレーターの過失』の3場面を想定すると良いでしょう。
そこで、類型的に事故の起こり得る場面の抽出を行い、責任者の注意義務を整理・特定しておくことです。さらに各場面における基準を策定しておくことが重要になるでしょう」
たとえば、自動運転システムの設計についての責任を問うなら、設計が適切だったかを検証できるようにしておく。遠隔での監視の場合、それが適正に行われたかの基準を設けておく。監督者の責任を問うならば、どういった注意義務違反があり得るのかを想定しておく、などだ。
自動運転については、インフラも含め、多角的に仕組みを整備することで、可能な限り安全性を確保する必要がある。併せて、責任の所在を明確にできれば、実用化への道は大きく開けていくだろう。


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