
犬がCFOを務める「フェアモント東京」
7月1日、東京・芝浦に「フェアモント東京」が開業した。世界で90以上のホテルを展開する「フェアモント」ブランドにおいて、日本初となるこのホテルは、「真のラグジュアリー」を追求し、心からの「おもてなし」を通じて、特別な体験を提供することを目指している。開業セレモニーでひときわ注目を集めたのは、最高ハピネス責任者(CHO:Chief Happiness Officer)として登壇したラブラドール・レトリバーのセリーンだ。
セリーンの役割は、訪れる人々に幸福を届けること。可能な限り宿泊者の希望をかなえ、心に残るサービスを提供するのがミッションであり、彼女の存在は、その象徴といえる。
7月にオープンしたフェアモント東京
都心型のラグジュアリーホテルでは、コンラッド東京、ホテル椿山荘東京、マンダリン オリエンタル東京などもペット同伴宿泊プランを提供しており、「フェアモント東京」も「ワンタスティック」という名称で愛犬と過ごす特別な宿泊プランを用意している。
「ペットは家族の一員」という考え方は、愛犬家にとってはごく自然なもの。飼い主は、人間と同様にホテル体験を満喫し、癒やしや楽しさ、優雅さを愛犬と共有したいと願っている。
ペット同伴可のホテルでの注意点
その願いを実現するために、ホテル側もペット向けサービスの提供にあたってさまざまな状況を考慮していると考えられる。しかしながら、ペットが予期せぬ行動をとる可能性は否定できず、同伴での宿泊には注意すべき点もある。では、どのような状況が想定され、どの点に注意すべきか。動物の法律問題に詳しい荒木謙人弁護士に話を聞いた。
ペット同伴可のホテルで起こり得る法的トラブルには、どのようものが考えられますか?
荒木弁護士:まず考えられるのは、ペットがホテル内で予期せぬ行動を取り、他の宿泊客や従業員と接触してしまうケースです。たとえば、リードが外れて走りだし、他の宿泊客にぶつかってケガをさせてしまったり、噛みついてしまったりする可能性もあります。
また、ペットが客室の備品や壁を傷つけてしまうケースも考えられます。
さらに、ホテル敷地内での散歩中に他の宿泊客のペットとけんかになってしまうことや、人にかみついてしまうなどのトラブルも、あらかじめ想定しておく必要があります。
ペット自身のケガや体調不良も懸念材料です。慣れない環境でストレスを感じて体調を崩したり、ホテルの設備でけがをしたりしてしまう可能性もあります。
ペットの行動に対する責任は基本は飼い主に
このようなトラブルが発生した場合、ホテル側と飼い主の責任の範囲はどのように分かれるのでしょうか?
荒木弁護士:基本的に、ペットの行動に対する責任は飼い主にあります。たとえば、民法718条では、「動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う」と規定されています。
ただし、ホテル側に過失が認められる場合、つまり適切な管理を怠っていた場合や、設備に欠陥があったような場合には、ホテル側にも一部または全部の責任が認められる可能性があります。
具体的には、従業員がペットの存在を認識しながら適切な注意を払わなかったりした場合やペットの行動を適切に制限するための設備(ドッグランのフェンスなど)が不十分であった場合、客室の床がペットにとって極端に滑りやすく転倒事故を引き起こした場合、などがこれにあたります。
飼い主が事前に確認すべきポイント
ペット同伴の宿泊者が、事前に確認しておくべき点について教えてください。
荒木弁護士:以下の点は必ず確認しておくべきです。- 損害賠償に関する規定:ペットによる施設の破損や汚損に対して、飼い主がどのような費用を負担するか
- 緊急時の対応:ペットが体調不良となった場合やけがをした場合の連絡体制、近隣に動物病院があるかどうか
- 共用スペースでのマナー: 無駄吠えや他の宿泊客への配慮についての規定
都市型ホテルでは他の宿泊客との兼ね合いもあり、サービス提供にはリスクもあるかと思います。うまくリスク回避している事例があれば教えてください。
荒木弁護士:たとえばフェアモント東京の「ワンタスティック」プランでは、以下のような詳細な注意事項が規約に明記されています。- 予約時の予防接種証明書の提出
- 1部屋につき1匹まで、体重15キロ以下
- ロビー通行時のリード使用
- エレベーター・廊下利用時には抱っこまたはキャリーバッグの使用
「ペットホテル」と「ペット同伴ホテル」の違い
愛犬家にはなじみのある「ペットホテル」と「ペット同伴ホテル」では、責任の範囲にどのような違いがあるのでしょうか。
荒木弁護士:ペットホテルは、動物愛護管理法に基づく「動物取扱業」であり、ペットを預かる事業者として動物の管理責任を負っています。一方、ペット同伴ホテルはあくまで飼い主がペットと一緒に宿泊できるホテルです。トラブルが発生した場合、原則として責任は飼い主にあります。
つまり、ペットホテルでは「預かる側」の過失が問われやすく、ペット同伴ホテルでは「飼い主の監督義務」が前提とされています。
最後に、ご自身も愛犬家であり「もふもふ弁護士」として活動されている荒木弁護士から、犬を飼っているみなさんへのメッセージをお願いします。
荒木弁護士:私自身も柴犬の「磯野いくら」といろいろな場所を訪れ、共に過ごす時間に日々幸せを感じています。一方で、ペットとの暮らしには責任が伴うことも強く認識しています。ホテルはもちろん、公共の場では「動物が苦手な人もいるかもしれない」という想像力を持ち、周囲への配慮を心がけています。
夏休みに入り、愛犬との旅行を計画されている方も多いと思います。気温が高く暑い日が続きますので、熱中症対策を万全にして、愛犬の安全を最優先に考えてあげてください。 そして、周囲への配慮を忘れずに、素敵な夏の思い出を作っていただけると嬉しいです。