自転車の歩道走行、警察が「取り締まらない」宣言!? 「反則金6000円」来年4月導入も…態度“軟化”の真意とは
2026年4月から道路交通法改正により、自転車の取り締まりとして新たに青切符制度が導入される。この件に関するパブリックコメント(実施期間:4月25日~5月24日)では5926件の意見が寄せられた。
そのうち約7割にあたる4000件超が「自転車の歩道通行違反」に関するものだったという。
自転車が歩道を走行することは半ば常態化し、事実上黙認されてきていた面がある。それが新ルール下では反則金の対象となり、日常生活に支障をきたしかねない…。そうした危機意識の表れが、寄せられた意見に占める「自転車の歩道通行違反」の圧倒的な割合といえるだろう。

圧倒的な「自転車の歩道通行違反」への疑問に対する警察の意外な対応

市民の声を受ける形で警察庁がみせた対応は意外なものだった。なんと、自転車の歩道通行を「取り締まらない」と宣言したのだ。
「単に歩道を通行しているといった違反については、これまでと同様に、通常『指導警告』が行われます。青切符の導入後も、基本的に取締りの対象となることはありません」
「指導警告」とは警察が口頭で指導や注意喚起を行うこと。つまり、自転車の歩道通行を「違反」と認めながら、スタンスとしては基本的に取り締まらず、「見逃す」ということだ。矛盾をはらむこの取り締まり姿勢にはどんな意味があるのか?
真意は次の通りだ。
「自転車の運転者による反則行為のうち、交通事故に直結する危険な運転行為をした場合や、警察官の警告に従わずに違反行為を継続した場合といった、悪質・危険な行為が自転車の交通違反の取締り対象となります」
要するに、特段、危険がないような状況で歩道走行する場合には、「指導警告」で済ませるが、自転車運転者にそれを逸脱するような悪質な行為が認められた場合は、容赦なく反則切符を切るということだ。
具体的には、たとえばスピードを出して歩道を通行して歩行者を驚かせ立ち止まらせた場合や、警察官の警告に従わずに歩道通行を継続した場合などが該当する。
ただし、次のような状況の時は、自転車も歩道を「通行」(走行ではない)できる。

  • 「歩道通行可」の標識がある所
  • 運転者が13歳未満と70歳以上のとき。または運転者に身体障害があるとき
  • 安全確保のため、自転車が歩道を通行することがやむを得ないと認められるとき

「自転車の歩道走行OK」の解釈は勘違い

「なんだ、結局、自転車はいままで通り、歩道走行してもOKということじゃないか」
パブコメを受けた警察の取り締まりスタンスをそんな風に捉えたのだとしたら、大いなる勘違いだ。

取り締まりの対象となる自転車の主な違反と反則金額

今回の法改正にも携わった、自転車活用推進研究会理事長の小林成基氏が補足する。
「そもそも自転車は歩道を走行してはいけないんです。あくまで歩道を通らせてもらっているだけ。通行とは記載されていますが、走行は許されていません。自転車の歩道通行が青切符対象となることに不便を感じる人は、いま一度そのことを考えてみるべきです。
ただし、車歩道全体の状況から、安全性も考慮してやむを得ず自転車で歩道を通行せざる得ない場合も当然あります。その時はルール通り、歩道を徐行(※)すればいいんです。
そもそも自転車の歩道走行に対し、なんでもかんでも青切符を切るのは人員的にも現実的ではありません。車歩道においては最も弱者となる歩行者の安全を脅かさないよう配慮してくださいというのが‟取り締まりしません”宣言の真意です。
勘違いして、我が物顔で歩道を自転車で走行し、警察の警告を無視したり、抵抗したりすれば、青切符どころでは済まず、前科者になる可能性だってありますよ」
※徐行とは、直ちに停止することができるような速度で進行すること(警察庁資料より)
道路交通法上「軽車両」に分類される自転車が本来、走行すべきは車道の左端。ところが、道路の整備状況によっては自動車の圧に危険を感じる場面もある。
その感度には個人差もある。
今回、警察が示した柔軟なスタンスはそうした点に配慮したものであることも認識しておく必要がある。

いま一度立ち止まって考えるタイミング

参考までに、自動車専用の高速道路を除く、日本の車道は全長約127万キロ(国土交通省)。そのうち歩道があるのは約14%といわれる。都心と地方で違いがあるものの、ハード面で自転車が安全・快適に走行できるに足る道路状況にないという側面も、警察が「自転車の歩道走行」取り締まりに、ある程度の弾力を持たせていることと無関係ではないだろう。
小林氏が解説する。
「これまでは道路整備において、歩道を設置するにしても、無秩序だった感は否めません。歩行者、自転車、自動車の区分けの認識が不十分なまま、設置工事が進められ、必ずしも実状にフィットした道路整備がなされてきたとはいえません。
ところが、今回の自転車の取り締まりに青切符を導入することをきっかけに、良くも悪くも歩行者と自転車の通行区分けに意識が向くようになりつつあります。だからこそ、いま一度立ち止まり、車歩道でどうすれば歩行者、自転車、自動車それぞれが気持ちよく快適に通行できるのかを考えてみてほしいですね」
道路環境の今後に目を向ければ、自動運転カーが車道を走行する日も着々と近づいている。実用化となれば、専用レーンが必要となり、自転車の定位置はさらに追いやられることにもなりかねない。
道路環境の整備、交通ルールの理解と遵守。
この2軸を、車歩道利用者が最低限、徹底するのは必須として、車歩道における「弱者にやさしく」の意識をいま一度、反すうすることも重要となる。
その先に初めて、歩行者が安全に、自転車は快適に、自動車はストレスなく移動できる、日本の国土にフィットした理想的なモビリティの未来が待っている。


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