今後、想定される動きはどのようなものか。また、田久保市長に「起死回生」の手段が考えられるとしたら、どのようなものか。
東京都国分寺市議会議員を3期10年にわたって務めた経験があり、地方自治法に詳しい三葛敦志(みかつら あつし)弁護士に話を聞いた。
市議会で「不信任の議決」が可決されたらどうなる?
地方公共団体の議会による首長に対する不信任の議決は、総議員の3分の2以上が出席の上、出席議員の4分の3以上の賛成が要求されている(地方自治法178条3項)。つまり、首長を「辞めさせる」ことに反対する議員が4分の1より1人でも上回ると成立しないしくみになっており、ハードルが高い。しかし、今回は議会の多数派が足並みをそろえており、全会一致で可決された。
三葛弁護士:「決議が成立した場合、首長は、辞職するか議会を解散するかを選ぶことになります。もし田久保市長が後者を選べば、解散された議会の選挙となることで議員も落選のリスクを抱えることになります。
不信任の議決の要件が厳しいのは、議会の多数派が気に入らない首長を簡単に辞めさせることができないようにするためです。
二元代表制の下、住民の直接選挙により選ばれた首長を、議会の多数派が簡単に辞めさせることができるようになってしまうのは、混乱を招きかねません」
また、議員の立場としては一般的に、不信任の議決を避けたいという思惑がはたらくという。
三葛弁護士:「もしも首長が議会を解散すれば、前述の通り、その直後の選挙で自分が落選するリスクを負います。
また、ただでさえ選挙ではお金がかかりますし、自身も支援者も大変な思いをします。
地方議会において、往々にして不信任の議決ではなく『問責決議』や『辞職勧告決議』などが行われる背景には、そのような事情があると考えられます」
不信任の議決が通った場合、田久保市長が辞職せず議会を解散する可能性がある。
では、仮に田久保市長が辞職せず市議会を解散し、議員の選挙が行われた場合、どのような展開が予想されるか。
三葛弁護士:「まず、選挙の結果、現状と同じく、市長に批判的な議員が過半数を占めた場合、議会が再度、不信任の決議を行うことが考えられます。
この場合、決議要件が緩和されており、3分の2以上が出席し、出席数の過半数の賛成で成立します。したがって、伊東市議会の定数がそのままの場合は20人のうち7人が欠席しない限り議決は行われ、過半数の賛成により田久保市長は結局、失職する可能性が高いことになります(地方自治法178条2項・3項後段参照)」
田久保市長が「起死回生」を図れる手段は?
では、田久保市長が市長職を失わずに済むには、どうすればよいのか。三葛弁護士:「ただ辞職して出直し選挙にでるだけでは、仮に当選しても議会構成が変わらないことから、議会との対立構造は続いてしまい、いつなんどきに足元をすくわれないとも限りません。
そうすると、市議会を解散したうえで、同じタイミングで自発的に市長を辞任し、出直し市長選挙と市議会議員選挙を同時に行うという方法が考えられます。これは政治的にもいわば『ウルトラC』で、いわば賭けではありますが、法に則ったやり方であり、論理的には可能です。
田久保市長は自身が市民から一定の支持を得ているとの認識を持っているようですので、もしそれが客観的事実と合致しているとの自信があれば、出直し選挙で当選を目指すことになるでしょう。
他方で、市議会議員選挙で、自身を支持する候補者を立候補させ、それらの候補者が当選すれば、再度の不信任の議決を阻止できるばかりでなく、市政の停滞を打開し、田久保市長が掲げる『政策』を実現できる可能性があります」
現状、田久保市長にそのような動きは見られない。ただし、三葛弁護士は、仮に田久保市長が上記のような方法を実行に移し、成功したとしても、あくまで「当面の延命」を図れるにすぎない可能性もあると指摘する。
三葛弁護士:「学歴詐称疑惑について、公職選挙法の『虚偽事項公表罪』(同法235条1項)の疑いで刑事告発が行われています。
もし、有罪となれば、当選が無効となるだけでなく(同法251条)、公民権停止となります(同法252条)。結局、学歴詐称疑惑が晴れない限り、田久保市長は、市長の地位を失う可能性が高いといわざるを得ません。客観的に申し上げて、ほぼ詰んでいる状況です」
果たして田久保市長は「起死回生の手段」を試みるのか。