非正規雇用や外国人労働者などの権利保障を求めるコミュニティ・ユニオン全国ネットワーク(CUNN)が8日午後、都内で会見。同日までに政府に提出した要請書について、その内容と国側の回答を明かした。

CUNN側は最低賃金や有期雇用労働者、労働行政など10分野について、30を超える要請を行った一方、政府側からは「現行法の運用改善」「適切な対応の周知徹底」といった回答が続き、慎重な姿勢が示された。

「首相が変わっても物価高は変わらない」

要請項目のうち、会見で取り上げられたテーマの一つが、最低賃金の引き上げだ。
CUNNは全国一律時給1500円以上への即時引き上げを求め、経済団体への積極的な働きかけや審議会の公開を要請。
一方、厚労省の回答は「本年度の最低賃金引き上げの目安は過去最大の上げ幅で、目安通りに改定が行われれば、全国平均は1118円となり、初めて全都道府県で1000円を超える」「2020年代に全国平均1500円という高い目標の達成に向け、たゆまぬ努力を継続する」というものだった。
最低賃金の引き上げを巡っては「2030年代半ばまでに全国加重平均で1500円に引き上げる」という従来の政府目標について、昨年発足した石破政権は「2020年代に全国平均1500円をめざす」とし、達成時期の前倒しを進めてきた。
しかし、石破茂首相は9月7日に退陣を表明。CUNNの桃井希生(ももい・きお)氏は次のように述べた。
「石破首相になってから、たしかに(目標達成時期の)前倒しは行われ、厚労省も『たゆまぬ努力を継続する』としていますが、われわれはあくまでも、即時の1500円以上への引き上げを求めています。
今後新しい政権が発足して、最低賃金の問題がどのように取り扱われるか見通しは不明ですが、首相が変わったからといって物価高は変わりません。CUNNとしては引き続き“全国一律1500円以上”を訴えていきたいです」

「雇用の安定が図られているとは到底言えない」

また、CUNN側は要請書で有期雇用労働者の契約が通算5年を超えると無期契約に転換できる「無期転換ルール」について、直前での雇い止め(いわゆる「5年上限」)が横行していると指摘。こうした運用を法律で明確に禁止することを求めた。
対する厚労省側は、「無期転換した人が約118万人いる」と現行制度の成果を強調した。
これらの厚労省側とのやりとりについて、桃井氏は「非正規労働者2000万人のうちの約20分の1に過ぎず、現行制度では、安定した雇用が図られているとは到底言えない」と反論。
加えて、要請では合理的な理由のない有期契約を禁止する「入口規制」の導入を求めたが、これについても厚労省側は「合理的な理由の妥当性を巡る紛争を招きやすい」「雇用機会を減少させる懸念もある」として、「入口規制の導入は考えていない」と回答した。

国は2011年、労働政策審議会で無期転換ルールの創設を盛り込んだ「労働契約法改正」の内容を検討した際、入口規制の導入についても議論を実施。しかし、上述した厚労省の回答と同様の理由から、導入すべきとの結論には至っていない。
「雇用機会に関する状況は、入口規制の導入が議論された2011年とは異なります。
約15年たった今、どこの職種でも人手が足りず、現在では外国人労働者の受け入れを拡大するかどうかの議論も行われているほどです。
このような状況で、合理的な理由のない有期契約を禁止したとしても、雇用がなく働けない、という人がでてくることは考えにくいのではないでしょうか」(桃井氏)

「都合の良すぎる話、行政はもっと対策を」

会見では続いて、育児・介護休業法に関連して、兵庫県の病院での事例が紹介された。
同病院で臨時的任用職員として半年更新で働いていた看護師の女性は、妊娠が発覚すると病院側から「産休は認めるが、育休は取れない。産後8週間で復帰できなければ終わり」と突きつけられたという。
こうした背景からCUNNは、育休中の解雇禁止や、妊娠を理由とする契約更新の拒否を法律で禁じるよう要請したが、厚労省は「育休などを理由とする不利益取り扱いはすでに育児・介護休業法や男女雇用機会均等法9条3項で禁止されている」と回答。「是正指導など必要な対応を行う」と述べるにとどまった。
これに対し、CUNNの川本造之事務局長は「われわれが聞く限り、正規の職員であっても、妊娠を理由に解雇されるというケースはあるようだ」としつつ、以下のように続けた。
「厚労省は、このような状況を放置したまま、看護師不足の問題については『30代40代の子育てが終わった人の復帰をサポートする』という施策を実施している。これは、都合の良すぎる話ではないでしょうか。
少子高齢化が進む中で、女性の権利も含めて、行政にはもっと育児・介護に関する対策を採ってほしいと思います」(川本事務局長)

労働法教育「生涯通じて取り組む仕組みを」

会見の終盤、川本事務局長は労働組合の組織率が過去最低を更新し続ける中、「学校段階での労働法教育を充実させることが重要だ」と指摘。
加えて、生涯教育としても取り組むべきだとして、次のように訴えた。
「義務教育でも労働三権などについて学ぶ機会はありますが、社会人になって、実際に働くころには忘れてしまう人が多いと思います。
現在も自治体で労働法教育を実施しているところもありますが、その場に来ているのはほとんどが、仕事の一環として参加している総務関係の方々です。
学校にいる間だけでなく、生涯教育として労働者自身が労働法を学び続けなければ、万が一職場でトラブルが発生した際、会社側のほうが労働法制に詳しいですから、不利な状況に陥りかねません。こうした事態を防ぐためにも労働法教育の充実が必要だと思います」(川本事務局長)
なお、この日の要請書に記載された主な項目は下記の通り。
  • 最低賃金の全国一律時給1500円以上達成、最低賃金審議会の透明化
  • 有期雇用労働者の「入口規制」推進、無期転換ルール見直し、育休取得支援
  • 会計年度任用職員の正規職員化、給与・手当の改善
  • 育児・介護休業法の強化(解雇禁止・復帰支援等)
  • ハラスメント対策の法整備、被害者救済強化
  • 外国人労働者の言語対応義務化
  • 労災補償基準の見直し
  • 労働基準法、働き方改革法の改正
  • 雇用保険給付の要件緩和
  • 労働行政の体制強化、労働法教育の徹底
川本事務局長は「これでも絞ったほうで、本当はもっと訴えたいことが多々ある」とコメント。
「それでも、非正規雇用や外国人労働者を取り巻く労働環境にどのような問題があるのか、国の担当者に知ってもらいたいと思い、今回の要請書の提出に至った」と説明した。


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