東京・板橋区議から学歴などについて侮辱的な文言をSNSのX(旧ツイッター)上に書き込まれたとして、行政書士のA氏が9月11日、都内で会見を開いた。
「政治家が率先して人権を踏みにじる行為をしたことは看過できない」と、区議に対し、議員辞職などを求めた。

A氏は区議からの発言が侮辱罪に該当するとして刑事告訴しており、今年7月、捜査結果をまとめた書類が東京地検に送付されている。(ライター・榎園哲哉)

「公職者からの侮辱的発言は許されない」

会見を行ったA氏によると、板橋区議会議員B氏は昨年9月、自身のX上に「高学歴なのでプライドばかりやたら高いのでしょう?」などとA氏に関する複数の書き込みを行った。
首長選で落選した経験のあるA氏を揶揄(やゆ)するような文脈での発言で、A氏は「ここまで他人のことをこき下ろす発言はなかなかない」「公職者という立場にある方が、公然と個人の名誉と人格を傷付ける発言をしたものであり、到底許されるものではない」と語った。
また、投稿はA氏の実名がわかるように書き込まれていたため、A氏は「公職者からの侮辱的な発言はストレートに業務上の信用を毀損することになる」とも訴えた。
A氏は昨年10月、B氏の投稿に「深い精神的苦痛を受けた」として侮辱罪で刑事告訴。警視庁は今年7月に捜査を終結し、その結果をまとめた書類を東京地検へ送付した。
なおA氏によれば、B氏は今年4月、警視庁の事情聴取前にX上の多数の投稿を削除したといい、こうした対応について「証拠隠滅とも取れる」と批判した。

書き込みの応酬の後、誹謗中傷の言葉が

A氏とB氏は、およそ4年前に政治活動(選挙)を通して知り合い、X上では相互フォローの関係にもあったという。
A氏によると、昨年9月の誹謗中傷投稿の3時間ほど前、当時、ある政党で離党者が相次いでいたことについて両氏はX上で議論。その後、B氏が他の人へ当てたリプライ(返信)の中で、A氏について「高学歴なのでプライドばかりやたら高いのでしょう?」などと誹謗中傷していたのを発見したという。
また、B氏はA氏以外の人物に対しても攻撃的な書き込みをしていたと指摘した上で、A氏は「被害者の会をつくろうと思っていたぐらいだ」と述べた。

「インターネット空間が健全な環境となることを願う」

B氏からは、事情聴取後の今年5月、代理人弁護士を介して示談の申し入れもあったが、A氏は断ったという。
「インターネット上の誹謗中傷は、人の命を奪うことさえある。そうした中で、政治家が率先して人を侮辱し、権力を持つ立場から人権を軽視する発言を行ったことに、強い憤りを感じる。自らの言動の責任を真摯(しんし)に受け止め、議員辞職を含む社会的責任の取り方を検討していただきたい。

インターネットの言論空間は、民主主義にとって重要なものだ。誰もが尊厳を守られる健全な環境になることを願っている」(A氏)
検察への書類送付後の処理(正式起訴、略式起訴、不起訴)等については、A氏のもとへ検察からの連絡は届いていない(9月12日時点)。
一方B氏は、筆者の問い合わせに対し、代理人弁護士を通して「捜査中の案件ですので、コメントは控えさせていただきます」と回答した。

ささいなつもりの書き込みも「侮辱罪」に該当

侮辱罪は「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した」場合に成立する(刑法231条)。
侮辱とは、その人の社会的評価を下げるような言動をさす。また、「公然と」とは不特定または多数人に対して行うことをさし、口頭か文書等か、インターネット上のSNSや掲示板等かを問わない。
侮辱罪に該当する言葉としては相手の人格を蔑視したり、容姿をけなしたり、差別したりする発言、書き込みが挙げられる。ただし、実際には、起訴するかしないかは検察官の裁量に委ねられており(刑事訴訟法248条参照)、侮辱的な発言を行ったからといって、必ず処罰されるとは限らない。
法務省の「侮辱罪の事例集」には、実際に処罰されたケースとして、「ちまたで流行りの発達障害」「対応が最悪の不動産屋。頭の悪い詐欺師みたいな人」などの文言が侮辱罪に該当した実例として載せられている。
以前は侮辱罪の刑罰は「拘留(※)または科料」と軽く、たとえば上述した2つの事例はいずれも「科料9000円」だった。
※1日以上30日未満の間、刑事施設に拘置する刑罰(刑法16条1項)
しかし、2020年5月に、女子プロレスラーの木村花さん(享年22歳)がSNS上での書き込みが原因で自ら命を絶った事件を受けて刑法が改正され(前述の「侮辱罪の事例集」はそのための法制審議会の資料だった)、2022年7月に「1年以下の拘禁刑(※)もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料」と厳罰化されている。

※当初は「懲役もしくは禁錮」だったが、2025年6月から「拘禁刑」に一本化された
これを受け、軽い気持ちでインターネット掲示板に侮辱的な投稿をして「侮辱罪」で罰せられるリスクに、より一層注意しなければならないといえる。
本件では、両氏ともに実名で投稿していたが、匿名での投稿も、「発信者情報開示請求」により特定され、民事・刑事の法的責任を問われるリスクがあるので、慎重を期す必要がある。
■榎園哲哉
1965年鹿児島県鹿児島市生まれ。私立大学を中退後、中央大学法学部通信教育課程を6年かけ卒業。東京タイムズ社、鹿児島新報社東京支社などでの勤務を経てフリーランスの編集記者・ライターとして独立。防衛ホーム新聞社(自衛隊専門紙発行)などで執筆、武道経験を生かし士道をテーマにした著書刊行も進めている。


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