
これに対し、ジャパネットたかたは同日、公式に反論。法的な手続きの場で正当性を主張する姿勢を示している。
消費者庁の認定とジャパネットの反論の核心
問題となった表示は、2024年10月8日から11月23日までの期間中、ウェブサイト上で行われたもので、「ジャパネット通常価格29,980円」が、「1万円値引き 7/22~11/23」「値引き後価格19,980円(税込)」といった内容だった。消費者庁は、「ジャパネット通常価格」(29,980円)が、セール期間経過後に適用される将来の販売価格であるかのように表示されていたと指摘。実際には、セール期間経過後に当該将来の販売価格で販売するための合理的かつ確実に実施される販売計画はなかったものとした。
そのため、通常価格は将来の販売価格として十分な根拠がないものと認められ、結果的に取引条件が実際のものよりも著しく有利であると一般消費者に誤認させる表示(有利誤認表示、景表法5条2号)にあたると断定した。
なお、本件ではおせちはキャンペーン期間内に完売し、セール終了後の通常価格での販売は行われなかったという。
ジャパネットたかたの反論
こうした指摘に対し、ジャパネットグループホールディングス(ジャパネットHD)は、以下の3点を主な根拠とし、有利誤認には該当しないと反論した。1. 過去の価格表示の正当性
消費者庁ガイドラインでは「過去に販売した価格」を比較対照に用いることが認められており、ジャパネットはキャンペーン直前まで「通常価格29,980円」で販売しており、表示に適切な根拠があったと認識している。
2. 過去の販売実績
2022年、2023年は同キャンペーン終了後に通常価格で販売した実績があり、2024年も同様の販売計画だったが、期間内に完売したため販売を終了した。完売した事実は「早期予約キャンペーン」の企画趣旨に沿ったものであり、お客様に誤解を与えていない。
3. 企業努力と社会的責任
本来29,980円で推奨できる商品を、43万個という大規模仕入れとメーカーとの企業努力により19,980円で提供した。また、おせちは時期を過ぎると廃棄につながりやすいため、早期予約で需要を予測し食品ロス削減に努めることは、企業の社会的責任(CSR)である。
過去に企業が措置命令に反論した事例
企業が消費者庁(または旧公正取引委員会)の措置命令に対し、全面的に反論し、法的な争いを示唆するケースは、特に大企業においては稀といえる。多くの企業は命令を受け入れ、再発防止策の実施を公表することで迅速なイメージ回復を図るのが一般的だ。過去にこうした事例はあったのか。まず、同社自身が景表法に基づく措置命令を受けている。2018年10月にエアコンとテレビの販売価格を巡っての措置命令があり、今回は2回目となる。
また、消費者が「景表法違反」を理由に行動を起こす事例も存在する。優良誤認表示(景表法5条1号)の事案で、商品カタログでの品質偽装に対し、消費者が消費者契約法に基づく不実告知による契約取消し(契約代金の返還請求)を主張し、裁判で争ったケース(大阪地判令和3年(2021年)1月29日)がある。
企業が措置命令に反論するリスク
今回の同社のような行政に対する反論、特に「法的な手続きの場で当社の正当性を主張する」という姿勢に、リスクはないのか。景表法に詳しい永木琢也弁護士は以下の3点を指摘する。(1)評判、名声への長期的な影響
「措置命令は公表されるため、反論を公表しても、社会の評価が直ちに変わるわけではありません。取消訴訟などで最終的に命令を覆すことができたとしても、措置命令が出され公表されたこと自体が、評判、名声にとって大きなマイナスとなります」(永木弁護士)
(2)ブランド方針の毀損
「ジャパネットは『お得さ』を訴求するビジネスモデルが特徴ですが、有利誤認表示の措置命令を繰り返すと、消費者に『ジャパネットの訴求するお得さは不当なものだ』という認識を持たれかねません。自社のブランディング方針への影響は計り知れません」(同前)
(3)刑事罰のリスク
「措置命令が出された後、もし今後同様の販売手法を継続し、それが命令に違反すると判断された場合、刑事罰が科せられる可能性があります」(同前)
ジャパネットたかたの今後
そのうえで永木弁護士は、法解釈における論点を次のように整理した。争点となりそうな価格表示の推移(ジャパネットたかたHPより)
「二重価格表示規制について、ジャパネットの反論のうち、『企業努力で安く提供しており、有利誤認でない』という主張のみでは有効な反論とは言えません。なぜなら、企業努力で安く提供することと不当表示をしてしまうこととは、別の問題だからです。
最も重要な争点は、比較対照価格である『ジャパネット通常価格』が、過去の価格と評価されるか、それとも消費者庁が認定した将来の価格と評価されるかという点です。
消費者庁の見解は、セール終了後に確実に販売される計画がなかったため、有利誤認に該当する可能性が高いというもの。
一般的に『セール期間なら●円、通常価格〇円』という表示は、基本的には過去の販売価格を指すと考えるものの、本件のおせちは年末年始に必要となる季節性を有する商材であるため、消費者がセール以前に販売されていたと認識することに疑義があり、『ジャパネット通常価格』をセール終了後の将来の価格であると認識する可能性が高いと考えます」
こうしたことから、ジャパネットが反論を正当化するためには、セール期間前におせちが販売されていた事実に加えて、一般消費者が「ジャパネット通常価格」を過去の価格であると認識していることを証明する必要がある。これを基礎づける資料としては、消費者に対する意識調査アンケートの結果などが考えられるという。
法廷闘争の行方は?
同社は今後、「法的な手続きの場で当社の正当性を主張することも含め、適切に対応していく」としており、措置命令に対する取消訴訟等の法廷闘争に進む可能性が高いと見られる。もし勝訴し、措置命令を覆すことができれば、同社の「お得さ」を訴求するビジネスモデルの正当性が法的に裏付けられ、ブランドイメージ回復に繋がる。一方、敗訴に終わった場合、有利誤認表示という行政の判断が確定し、消費者からの信頼を大きく損なうことになりかねない。
また、万が一、この措置命令を無視して同様の販売手法を続行した場合、措置命令違反として刑事罰が科せられる可能性もある。従って同社は、再発防止策を講じつつ、並行して法廷での争いに注力することになるとみられる。
景表法における二重価格表示規制の解釈を巡る今回のジャパネットの反論は、単なる一企業のコンプライアンス問題に留まらず、ECや通販業界における「お得感」の表現と法令遵守の境界線を問い直す、重要な試金石となる。
一般消費者もモヤモヤしながらも受け入れている側面があり、今後、同社が法的な場でどのような根拠を提示し、主張を展開していくのか注目される。