
この「教育訓練休暇給付金」は、労働者が離職することなく教育や訓練に専念できるようにするため、自発的に休暇を取得して仕事から離れる場合には賃金の一定割合を支給することで、その教育・訓練期間中の生活費を保障するものだ。
以下では、スキルアップを目指すビジネスマンなら知っておくべき給付金の利用方法や条件、受給までの手続きや注意点を紹介しよう。
語学や専門資格の修得、大学での学び直しにも活用
教育訓練休暇給付金は、一定の支給要件を満たす雇用保険の一般被保険者(※)が連続した30日以上の無給の教育訓練休暇を取得する場合に、失業給付(基本手当)に相当する給付として、賃金の一定割合を雇用保険から受け取れる制度である。※65歳以上の高年齢被保険者、短期雇用特例被保険者、日雇労働被保険者は対象外。
給付金の活用例として、厚労省は以下のようなケースを紹介している。
- 外資系企業とのやり取りが増える部署に異動予定の社員が、語学習得に専念するため留学する。
- IT企業の社員が、より上位の専門資格を修得するために休暇を取得する。
語学にせよ職業に必要な専門知識・技術にせよ、働きながらだと十分に時間を取れず、また疲労のため集中力が落ち学習効率が落ちてしまうことも多い。
会社に在職したまま、さらに収入の一部を保障してもらうことで、生活と仕事の不安や心配なく集中してスキルアップに取り組めることが、教育訓練休暇給付金制度の最大のポイントといえよう。
受給の条件は「雇用保険の加入期間が5年以上」など
教育訓練休暇給付金の主な支給要件は、下記の通り。(1)休暇開始前の2年間に、12か月以上の被保険者期間があること。なお、原則、11日以上の勤務実態がある月が被保険者期間として算定の対象になる。
(2)休暇開始前に5年以上、雇用保険に加入していた期間があること。なお、離職期間等がある場合であっても、一定の要件に合致すれば加入期間を通算できる。
(3)就業規則や労働協約等に基づき教育訓練を受けるために、業務命令によるものではなく労働者本人が自発的に希望して、無給の休暇を取得していること。
また、「教育訓練」の対象は下記のいずれかとして定められている。
- 学校教育法に基づく大学、大学院、短大、高専、専修学校または各種学校
- 教育訓練給付金の指定講座を有する法人等が提供する教育訓練等
- 職業に関する教育訓練として職業安定局長が定めるもの(司法修習、語学留学、海外大学院での修士号の取得等)
給付日数は、雇用保険の加入期間が5年以上10年未満なら90日、10年以上20年未満なら120日、20年以上であれば150日。
手続きの流れ:ハローワークや事業主に書類を提出
受給手続きの流れ(厚労省「労働者向け 教育訓練休暇給付金のご案内(簡略版)」から)
給付を受けるためには、まず、教育訓練休暇に関する就業規則等を事業主(会社側)が整備していることが前提となる。
労働者は事業主の合意を得たうえで、「教育訓練休暇取得確認票」を提出する。その後、教育訓練休暇の開始日から起算して10日以内に、事業主がハローワークに賃金月額証明書等を提出しなければならない。
次にハローワークが賃金月額証明票や教育訓練休暇給付金支給申請書等の書類を事業主に交付した後に、これらの書類が事業主から労働者に交付される。労働者は書類に必要事項等を記入し、すべてハローワークに提出する必要がある。
提出後はハローワークから労働者に受給資格決定通知が交付され、初回認定の日程等が案内される。原則として、ここまでの手続きは休暇開始日から起算して30日以内に完了されなければならない。
その後は、労働者がハローワークに認定申告書を提出し、審査の後に支給が決定される。認定申告書の提出は初回のみではなく、休暇開始日から起算して30日を経過するごとに提出する必要がある。
なお、原則として、教育訓練休暇給付金の受給後から一定期間は失業給付等の雇用保険制度に基づく他の給付金を受給できなくなる点に注意する必要がある。また、受給期間は休暇開始日から起算して1年間であり、それを過ぎると、所定給付日数が残っていたとしても受給できなくなる。
さらに、偽りやその他の不正行為によって教育訓練休暇給付金を受けた場合や受けようとした場合には、受給できなくなるのみならず、不正に受給した金額の返還に加えて返還額の2倍の金額の納付を命じられる他、詐欺罪に問われる可能性もある。ハローワークからの調査・質問に虚偽の陳述をした場合も納付命令の対象となる場合があるため、正直な回答を心がけるべきだ。
「新しい知識や技術を身につけたいけれど、仕事が忙しくて学習や訓練に集中できない」「しばらく仕事を休んでスキルアップに専念したいが、収入が途絶えるのは不安だ」と悩む労働者にとって、教育訓練休暇給付金は安心して学びに挑戦することを可能にしてくれる制度だ。自分のキャリアを広げるチャンスとして、積極的に活用しよう。