エッセイストの石田月美さんとルポライターの鈴木大介さんの対談形式の共著『好きで一緒になったから――死にたい私でも恋愛・結婚で生き延びる方法』(晶文社)の出版を記念したトークイベントが9月16日、東京・杉並のイベントスペース「阿佐ヶ谷ロフトA」で開かれた。
石田さんは、摂食障害で精神科に通う中、医師に勧められるまま“生き延びるため”に婚活を行い、結婚・妊娠・出産を経験した。
自身の人生を書籍『ウツ婚!! 死にたい私が生き延びるための婚活』(晶文社)、『まだ、うまく眠れない』(文藝春秋)などにまとめている。
一方の鈴木さんは、援助交際・売春をする家出少女や、貧困にあえぐ女性たちを取材してきたルポライターだが、脳梗塞を発症し、その後遺症として高次脳機能障害(注意力・記憶力・言語・感情のコントロール等がうまく働かなくなる認知機能の障害)を抱えることになった。経験をもとに著した『脳が壊れた』『脳は回復する――高次脳機能障害からの脱出』(いずれも新潮新書)を出版している。
今回のイベントのテーマは、「『生きづら系女子』が恋愛に救いを求めたらなんでだめなの!」。障害や孤独、生きづらさを抱える女性が、恋愛や結婚というパートナーシップに救いを求めることの是非について率直に語り合った。(ライター・渋井哲也)

売春女性は「恋愛」を求めていた?

鈴木さんは組織売春をしている女性たちを取材する中で、彼女たちが一番求めていたのは「恋愛」だと気付いたという。また、売春を生業として子育てをしているシングルマザーは、ほぼ全員がDVの被害者で何らかの精神疾患を抱えていたといい、彼女たちもまた、恋愛関係を求めていたというのだ。
「売春相手を探しながら、あわよくば、そのうちの誰かと結婚したいというモチベーションを持っていたり、実際に口にしていたりします。しかし、困窮女性を支援する側の人たちは、支援の条件として『恋愛に依存するのをやめなさい』と言うそうです。
女性たちを社会制度(公助)につなげるような支援活動も素晴らしいとは思いますが、彼女たちとは親和性が低いと感じました」
鈴木さんは、“恋愛”支援やパートナーシップを選ぶための議論こそ、当事者に必要なのではないかと感じるようになったという。
また、鈴木さんが取材していた少女・女性たちはすぐに連絡が取れなくなる場合が多かったが、異性との恋愛・パートナーシップ関係がうまく行っていた人ほどその後もやりとりが続いたという。
「売春などをしていて困窮している女性たちも、子どもを産むと必然的に社会制度と関わるようになります。でもそれは自然な流れというよりも、同じ境遇の先輩たちが恋愛・出産しているのを見て、『自分もそうしなければ』と求めた結果なのではないか――と推論を立てました。
それでパートナーシップ形成としての婚活をしていた石田さんと対話を始めたんです」

恋愛を求める根底には「さみしさ」

「私の周りには、世間様と足並みが揃わない、いわゆる“生きづら系”女子ばかり。精神疾患を抱えている人が多いです。今日も『恋愛優先』のシングルマザーの友人から連絡がありました」
そう話す石田さんは、自身も鈴木さんに取材されるような「家出少女」だった。
小学校時代に性虐待のサバイバー(加害者は非公表)となり、高校を中退後、家出。渋谷の街をうろうろしたり、路上生活をしたりしていたという。
高卒認定試験を受けて大学に入学するが、摂食障害やうつ病などの精神疾患を抱え中退。先述した通り、通院していた精神科の医師に勧められ「生き延びるための婚活」を実践し、結婚・妊娠・出産に至った経緯がある。
そんな石田さんは、鈴木さんの推論に「当事者には、恋愛・出産などいわゆる社会規範への同調とは別に身を裂かれるような強烈な“さみしさ”があるんです」と語る。
「過去の私も含め、私が会ってきた女の子たちは、困難がもつれ合っています。どこから手をつけていいのかわからない。問題を見ないようにしたい。そんなとき、猛烈に“さみしい”んです」

現実から逃れるための恋愛

こう話す石田さんに対し、鈴木さんは売春する女性たちも「さみしい」という言葉を使っていたと振り返る。
しかし、鈴木さんは女性たちを取材しながらも、その言葉の意味がわからなかったという。「さみしいから売春する、恋愛したいという論理の流れが意味わからなくて…」と石田さんに率直に問い直す。

「さみしいから誰かと肌を合わせるというのも意味がわからないんです。(石田)月美さんが言っているさみしさは、自分自身が抱えきれないような不安とか心の痛みから生まれるものだと思うんですけど、それに対して“恋愛”は特効薬的な鎮痛剤として作用するようなものですか?」
石田さんは恋愛の効果として、“現実からの逃避”があると答える。
「恋愛ってものすごく時間と体力を使いますよね。恋愛しているときは、恋愛以外、何も考えなくて済む。どれだけ親が暴れていようが、書類がたまっていようが、恋愛していれば、見えなくなる。そういう作用はあると思います」

求められる「正しい当事者像」に当てはめない支援を

鈴木さんは当事者の立場に立った支援の現実を考え、言葉を慎重に選びながらこう述べた。
「女性の困窮者支援は、当事者の“自助”的な行動は否定され、制度としての『公助』が優先される。当事者が公助につながるためには、売春等の違法な行為だけでなく、恋愛そのものまでが制限されてしまう。
だから、僕の取材した女性たちは、(売春等を行って)補導されてしまう家出少女たちだけでなく、シングルマザーも同様に『公助』につながるのを嫌がりました」
石田さんも「公助は使い勝手がよくない」と指摘して、恋愛を求め、恋愛で救われる当事者の気持ちも尊重した支援を行ってほしいと語った。
「支援者側は『女性、子どもを守ってやらなきゃ』という(男性優位社会の)構造を無意識のうちで内面化しています。シングルマザーの支援を充実させてほしいですが、その制度や支援が当事者にとって本当に役立つものなのかを考えてほしいと思います」
困難に陥った女性を救うのは社会制度(公助)か、それともパートナーシップ(自助)か。対立させる必要はあるのか。

重要なのは、支援者に都合の良い「正しい当事者像」に当事者を当てはめることではなく、当事者の立場に立ったケアやサポートを行うことだろう。
■渋井哲也
栃木県生まれ。長野日報の記者を経て、フリーに。主な取材分野は、子ども・若者の生きづらさ。依存症、少年事件。教育問題など。


編集部おすすめ