「年休取得に診断書はいらないだろう」ーー。
鉄道大手JR東海の組合員の一言から始まった行政訴訟で8日、東京高等裁判所は労組側の主張を全面的に認め、2024年11月の東京地裁判決を維持。
国側(中央労働委員会)の控訴を退け、会社側の団交拒否を違法と改めて判断した。
同日、都内で会見を開いた淵上利和中央執行委員長は判決について「原審以上に裁判所が踏み込んだ判断を示し、労働組合の団体交渉権や活動に対し、正当な評価がなされた」とコメントした。

年休申請も…会社側は診断書提出を強要

JR東海労働組合の組合員Aさんは2016年、手術を伴う入院のため、所定の手続きに従って年次有給休暇(年休)を申請。
しかし会社側は「診断書を提出しなければ年休を認めない」との対応を取り、組合員に診断書提出を強要していた。
これに対し、組合員は「年休は欠勤ではない。なぜ診断書が必要なのか」と素朴な疑問を提起した。
労働基準法上、年次有給休暇は労働者の権利として保障されており(同法39条)、取得理由を問わず付与されるものだ。欠勤とは異なり、本来は病気等の証明として診断書を提出する義務は存在しない。
ただ、労組側によると、JR東海は就業規則や独自の運用を盾に、組合員に過度な負担を強いていたという。

会社側、団体交渉を拒否

この問題を受け、労組はJR東海に対し、診断書強要の運用を是正するための個別団体交渉の開催を申し入れた。ところが、会社側は団交開催を拒否。
同社とJR東海労組の間で結んだ労働協約第250条には、団体交渉を開催する事項を6項目に限定して列挙しており、会社側は「6項目に該当しないため、団体交渉の対象ではない」と主張していた。
その後、組合は2017年7月に東京都労働委員会に不当労働行為として救済の申し立てを行った。一方、会社側は秋の協約・協定改訂団交や春闘の賃金団交の場でこの問題を取り扱おうとした。

こうした会社側の動きに対し、組合側は「協約団交や賃金団交でその場しのぎに取り扱うのではなく、個別に団交を行って議論する課題だ」と主張。
会社の対応を「労働組合軽視だ」として厳しく批判していた。
結局、都労委は2019年3月に組合の主張を認め、救済命令を発出。しかし会社は命令を不服として中央労働委員会に再審査を申し立て、中労委は一転して救済命令を取り消し、組合の申立てを棄却する旨の命令を出した。
これを受け、組合側は2022年7月、中労委の上記命令の取消しを求めて訴訟に踏み切った。
2024年11月28日、東京地裁は組合の請求を全面的に認め、国(中労委)の命令を取り消す判決を言い渡した。

高裁「協約があっても義務的団交は避けられない」

国側(中労委)と会社側は地裁判決を不服として東京高裁に控訴。今年6月9日に控訴審が結審した。
控訴審での争点は2点。
1点目は、団交事項が労使間で締結している基本協約第250条に定める6項目に限定されるのか否か、義務的団交事項に当たるものは団交事項になるのか否か。
2点目は、労使間で発生した問題の解決は、団体交渉ではなく幹事間折衝で議論するという慣行があったか否かであった。
判決で東京高裁は、東京地裁の判断を全面的に維持。
国側の控訴を退けた。控訴審でも、団交拒否の違法性が改めて確認され、労組側の完全勝訴となった。
会見で組合側が特に強調したのは、高裁が「原審以上に踏み込んだ判断」を示した点だ。
組合幹部は会見で次のように解説した。
「JR東海は労働協約第250条に限定列挙した6項目以外は団体交渉に値しないと主張していました。
しかし高裁判決では、協約で6項目に限定していたとしても、そもそも義務的団交事項が存在するので、それを前提として『6項目を具体的に議論するもの』と解釈すべきであり、『協約そのものが間違っている』と指摘しています」
会見の終盤、淵上委員長は「JR東海という会社と労働組合の活動を通じてさまざまなたたかいを繰り広げてきたが、今回の判決は、これからさらなる活動を進めていくにあたって極めて大きな力になる」と述べた。
そのうえで、「ぜひ今回のような、労働組合の活動というものを社会的に広げていき、会社から虐げられている労働者が一人でも救われるような社会を作っていければ」と呼びかけた。
なお、JR東海側は弁護士JPニュース編集部の取材に対し「当社の主張が認められなかったことは残念であり、対応を検討したい」(広報室担当者)とコメントしている。


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