「PTA」の問題は“半強制的加入”だけではない…「年160億円」集まる任意団体が“使途不明金”の温床になる理由
学齢期の子どもがいなくても、たいていの人は「PTA」という単語にはなじみがあるだろう。小さいころに母親がPTAをやっていた記憶がある、という人も多いだろう。
通学路で黄色い旗を振ってもらったことがあるかもしれない。
でも、たとえ現在PTA会員だったとしても、実はよく分かっていないことがある。自分が所属するPTA以外の、別の地域のPTA活動についてはなおさらだ。
だからこの連載では、PTAという組織がどのような仕組みを持ち、どう運営されているのか、またどれほど多様であるのか、基本的なところを説明しておきたい。(全5回)
※この記事は元朝日新聞記者の堀内京子氏による著作『PTA モヤモヤの正体――役員決めから会費、「親も知らない問題」まで』(筑摩書房、2021年)より一部抜粋・再構成しています。

学校単位の「小さなPTA」

PTAとは、学校などに通う子どもの保護者と教職員で作る団体だ。
たいていの学校にあるため、学校の組織の一部だと思われやすいが、そうではない。法律で設置が義務づけられているわけでもない。つまり、サークルや同好会などと同じく、あってもいいし、なくてもよい組織だ。
そして、保護者たちはそこに入ってもいいし、入らなくてもいい。文科省の中では、ボーイスカウトなどと同じ「社会教育団体」という扱いだ。
PTAについて話をするという場合、私たちにとって身近なこの「小さなPTA」を指すことが多い。学校単位で「○○小学校PTA」などの名称を持ち、単位PTA(単P)とも呼ばれる。

PTAのルーツをたどると、1880年代にその前身組織がアメリカで生まれていて、parents and teachers’ association(親と先生の会)という名称だった。PTAはその略称だ。子どもの福祉や教育環境の整備、そして成人教育の推進などを活動の目的としていた。
日本のPTAの組織がどのようになっているのか、見てみよう。単Pでの主な委員は次のようなものだ。
  • クラスごとに選出される「学級委員」
  • 学校での行事や教員の紹介記事などを載せたPTA新聞などを発行する「広報委員会」
  • 教育講演会や社会見学などを企画する「成人教育委員会」
  • 通学路の危険箇所チェックやパトロールなど、学校外での活動が主となる「校外委員会」
  • 校医の話を聞いたりする「保健委員会」
  • 次年度の本部役員を決めるときに活動する「役員選考委員会」
このそれぞれに委員長を置くこともある。どのような活動をするのか等を決めるのは、たいていの場合、年に1回開かれる「総会」だ。
それぞれの単Pには役員会/PTA本部があり、会長、副会長、書記、会計の役員から構成される。組織のかたちや名称、委員会の数、仕事の内容、「地域」との関係のあり方は、PTAによって違いがあり、かなりバラエティーがある(【図】参照)。
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【図】PTA組織の例(『PTA モヤモヤの正体』より)

お金から見たPTA

次にお金の面から、PTAを見てみよう。
PTAは主に、会員から徴集する会費と、バザーやイベントなどで得た収益金で運営される。会費の額としては、年間1000円以下~1万円以上と、こちらもかなり幅がある。
2018年の文科省の「子どもの学習費調査」によると、PTA会費は年間、公立幼稚園で4962円、私立幼稚園で6885円、公立小学校で3058円、私立小学校で1万1485円、公立中学校で3863円、私立中学校で1万3290円、公立高校で6989円、私立高校で1万1360円となっている(調査は標本調査で、得られた回答をもとに全国の1人当たり年間平均額を推計)。

例えば、年間2000円の会費を、800万世帯(=日本PTA全国協議会(日P)の公称会員数。日P傘下にある公立小・中学校に通う児童・生徒数が想定されているが、きょうだいがいる家庭もあるため正確な数字ではない)が支払うとすると、毎年160億円ものお金が集まってくる計算になる。
会費の集め方も、特に統一されているわけではない。世帯ごとだったり、在籍している子どもの人数分だったりする。2人目以降の会費を安くしたり、生活保護家庭などの会費を「免除」したりするPTAもある。
PTAは任意団体であるため、例えば「○○小学校PTA」という名義では銀行口座を開くことができない。そのため、学校の事務局長やPTA会長などの個人名で口座をつくることもある。これが、使途不明金の温床となることがある。

PTAの独自ルール

それぞれのPTAの運営は、PTA規約や会則に従って行われる。
PTAの改革を実現させるには、この会則を改定する必要がある。先ほども述べたように、PTAの設置を義務づける直接的な法律はない。
同じ学校に通う子どもたちとその保護者を活動対象としているにもかかわらず、建前上は学校とは別団体のため、PTAでいじめや会費の不正使用などの問題があっても、訴える先がない。教育委員会や文科省も直接、指導・監督することはできない。

参加が法的に義務づけられていない「任意団体」なのに、実質的には全員が半強制的に加入することが前提となっていることが多い。
登校班や子ども会、町内会などとひもづけられている場合、PTAに入ると、それらにも自動的に参加するものと見なされ、会費や旗振り当番などの義務が生じるところもある。
組織のかたちや名称、運営方法だけでなく、行事やイベント、動員される圧の強さも負担の度合いも、PTAによってかなり違う。それは「地域によるお正月のお雑煮の違い」ぐらいに違うと言ってもいい。
自分のPTA経験だけで、PTA問題全般を語るのが難しいのはそういう事情があるからだ。
「ウチの小学校の場合、父親は会長のみ、他の役員は母親と決まっている。総会などに出席の時、ブラックか紺のスーツを着用する義務がある」(東京都・40代女性)というルールに驚く人もいれば、「うちも」という人もいるだろう。
PTAにおける独自ルールには、次のようなものもあった。
「PTA関係で手紙を書くときには、銀座の老舗文具店の便箋を使わなければいけない」
「PTAの役員になれば、運動会で子どもの写真を撮るために朝早くから『場所取り』をしなくても、正面の席で見られる」
「(住民に在日外国人の方が多い地区の学校で)会長になれるのは日本人のみ」
繰り返しになるが、PTAは入るのもやめるのも自由な『任意団体』だ。でも、学校活動との境目があいまいだったり、安全パトロールなど地域活動と一体化していたりして、子どもを通わせる保護者は入会を拒みにくいのが現実だ。
役員決めは毎年の懸案事項で、「くじ引き」「じゃんけん」「在校中のポイント制度」「1人1役」など「公平な負担」をうたうローカルルールを持つPTAも多いが、どれも全員参加を前提としている点では変わらない。
以前と比べてPTA活動に積極的な父親も増え、父親がメインで集まる「おやじの会」などができたりしているが、PTA活動に参加している大多数は、いまも母親だ。

行政が主導する「社会を明るくする運動」や「交通安全運動」「青少年健全育成運動」などに駆り出されることもある。こうして、思わぬ時間を取られてしまう。
行事などの見直しや組織のスリム化などの工夫もされているが、会員が毎年入れ替わって問題意識が継続しないことや、校長、そして会員「以外」でPTAとつながりのある人たち――例えばPTAのOB・OG、同じPTA上部団体に加盟する他校のPTA、教育委員会、「地域」の顔役や自治会役員、議員など――が多数いることもあり、PTAで合意形成にこぎつけるには、さまざまな困難を伴う。そのため、変えるよりも前例踏襲になりがちだ。

「大きなPTA」の仕組み

この単Pが、市区や県などのまとまりごとに集まると、「大きなPTA」となる。
例えば、市区レベルの「○○市PTA連絡協議会」(市P)、「○○区PTA連合会」(区P)、その上部団体である○○県PTA連絡協議会(県P)などだ。これらの団体の頂点に立つのが、公益法人日本PTA全国協議会(日P)だ(【図】参照)。
「PTA」の問題は“半強制的加入”だけではない…「年160億円」集まる任意団体が“使途不明金”の温床になる理由

【図】PTAの組織図(『PTA モヤモヤの正体』より)

上部団体への参加も、単Pへの参加と同じく法的義務はない。あくまで任意だが、100パーセント近い加盟率となっている県も珍しくない。そして、多くのPTAは、保護者が払った会費の一部を上部団体に「上納」したり、PTA大会や講演会に保護者らを動員したりしている。
この連載ではおもに公立小・中学校のPTAを取り上げるが、私立幼稚園、国立大付属学校、高校などにもそれぞれPTAがあり、日Pのような上部組織もある。
順に挙げると、全日本私立幼稚園PTA連合会、全国国立大学附属学校PTA連合会、全国高等学校PTA連合会となっている。
いずれも、「大きなPTA」と共通するような問題を抱えていて、組織構造も似ている。
「大きなPTA」については本連載でもまた取り上げるので、そちらをご覧いただけたらと思う。


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