10月上旬、北海道釧路市で30代の男が逮捕された。男は建物内の女性用トイレに侵入。
報道によれば、その後、別の日に再度建物に忍び込み、建物内で勤務する職員の通報により建造物侵入の容疑で逮捕に至ったという。
「音を聞くために女子用トイレに入った」
それが被疑者の男の“動機”だった。

音を聞くためにトイレ侵入、どんな罪に?


女性にとっては、直接的な被害はなくとも、不快極まりない理由・行為といえるが、性犯罪として立件される可能性はあるのか。性犯罪などに詳しい若林翔弁護士に聞いた。
「盗撮をしている可能性がありますので、そこが立証されれば性的姿態等撮影罪で立件できるでしょう。この被疑者は女子トイレに入った後、逃走しているようなので、その間に証拠隠滅がなされた可能性があり、データの復元等を含めて盗撮を立証できるかどうかがポイントになります」
では、本当に女性用トイレで排泄時の音を聞くことが目的で、男がそうした性癖だった場合はどうなるのか。
若林弁護士は「性犯罪としての立件は難しいと思います。建造物侵入罪での立件が妥当でしょう」と見通す。
昨今は電車内などで密着して、うなじあたりに鼻を近づけるといった「触らない痴漢」なども問題となっている。やられる方にとっては、一般的な痴漢同様に不快で恐怖を感じるこうした行動を、性犯罪として立件する判定基準は存在しないのか。
「都道府県等の迷惑防止条例では、『卑わいな言動』を処罰対象にしています。これに該当するかどうかの判断になります。
程度としては、『著しくしゅう恥させ、又は不安を覚えさせるような行為』といえるかどうかを客観的に判断します。

判例では「40m付け回し、でん部撮影」で有罪も


判例の事案では、『被害女性を約5分間、40m余りにわたって付けねらい、背後約1~3mの距離から被害女性のズボンを履いたでん部を11回撮影した行為』が卑わいな言動にあたるとして有罪になったものがあります(最高裁平成20年11月10日決定)。
この判例には裁判官1名の反対意見も付されており、『卑わい性』が肯定される限界事例になると考えています」
若林弁護士によれば、こうした卑わいな言動での逮捕事例として、「路上で女子高校生に対し、『ハグさせて。性欲処理したいよ』などと声掛けした」「路上に、卑わいな格好をしたアニメの女性キャラクターがプリントされた抱き枕カバーなどを置いた」といったものもあるという。

卑わいな言動に科され得る処罰とは


これら言動に対し科され得る処罰は、たとえば東京都の迷惑防止条例では6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金。常習の場合は、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金となる。
いわゆる「触らない痴漢」の類で、不同意わいせつ罪にあたる場合は、6か月以上10年以下の拘禁刑に処される可能性がある。
また行為内容や常習性の程度にもよるが、加害者側が治療を受けることが必要となるケースもあり得るという。

卑わいな言動でも対処は慎重であるべき?


「音を聞くため」に女性用トイレに侵入した今回の事案が、さらなる捜査を経て性犯罪として立件されるかはわからないが、若林弁護士は「変質的にみえる行為」を無秩序に「卑わいな言動」とすることには慎重であるべきと話す。
「卑わいな言動については、前述のように判断基準があいまいな部分もあります。ですから、具体的な行為を証拠からしっかりと認定し、その悪質性を判断する必要があります。
そこを軽視して、安易に卑わいだと決めつけて性犯罪を適用するのは適切とはいえません。そんなことをしたら、満員電車に乗っていて、単に心の中でそう感じただけで、何ら行動を起こしていなかった人が冤罪で犯罪者に仕立て上げられるリスクがあるからです」


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