賃上げの動きが広がる一方、依然として医療・介護分野では低迷が続いている。
日本医療労働組合連合会(医労連)は10月21日午後、都内で記者会見を開き、診療報酬・介護報酬の10%以上の引き上げを求めるとともに、11月6日に全国一斉の産別統一ストライキを実施することを明らかにした。

他産業との賃金格差拡大

医労連の調査によると、2025年の医療・介護分野で働く人の賃上げ額は平均5725円にとどまり、民間主要企業の1万8629円とは約1万3000円もの開きがある。月額で1万3000円の差は、年間にすると約15万6000円にも及ぶ計算だ。​
さらに深刻なのは、ベースアップを実施した医療機関・介護施設の激減である。昨年は103の組織がベースアップを行ったが、今年はわずか60組織と4割も減少した。
一時金(ボーナス)の格差はさらに顕著だ。2025年夏の民間主要企業のボーナス平均支給額は94万6000円。これに対し、医療・介護分野でのボーナス平均支給額は42万7000円と、半分以下の水準となっている。​
また、厚生労働省が10月14日に発表した「2025年賃金引き上げ等の実態に関する調査」でも、医療・福祉分野の賃上げ額は15産業中最下位の5589円で、全産業平均の1万3601円を大きく下回る結果となった。
医労連の米沢哲(よねざわ・あきら)書記長は「他産業との賃金格差が年々広がり、それにより人手不足が生まれ、地域医療の崩壊につながりかねない」と指摘する。
「医労連の入退職調査では、年間の採用者数が減少する一方で退職者数は増加しており、現場の職員が確実に減っていることが明らかになりました。
特に2024年度に一時金を大幅に削減した施設では、全体平均よりもさらに退職者が増えていて、賃下げが退職をさらに助長していることは明らかです。
職員がいなくなれば当然、医療や介護の提供体制にも影響が出ます。ですので、もしわれわれの訴える賃上げが実現できなければ、病棟閉鎖等が進み、地域医療に影響を与えかねません」(米沢書記長)

現場からの悲痛な叫び

会見では、全国各地の医療・介護現場から寄せられた切実な声が紹介された。​
北海道の公的病院で働く看護師は「病棟では常にナースコールが鳴り、多重業務を抱え、私たちはいつも走り回っている。
患者さんに『待っててね』と言わない日はない」と訴えた。​
また、ある病院からは「人員不足から入浴が週2回から1回に減らされ、清潔ケアが後回しになる事態が発生している」「なぜ人員不足になるのか。それは賃金が低いからで、(賃金が低いため)人が定着しません」との声が上がった。
沖縄県の介護職員も「生活のため退職する職員が多く、代わりの人材も全然確保できず、残された職員が疲労を抱えたまま業務をこなしている状況だ」として、次のようにコメントした。
「月に夜勤を5回から7回入り、それでも月給は約23万円で、手取りは16万から17万円しか残っていません。育ち盛りの子供5人を抱えているので、親としての義務を果たせるか不安です。
利用者様に安全安心を提供できる、魅力のある職場環境を作るためにも、せめて他産業並の水準に賃金を引き上げてほしいです」(沖縄県の介護職員)

診療報酬10%以上の引き上げを要求

こうした状況を受け、日本医労連の佐々木悦子委員長は「このままでは地域医療も介護も守ることはできない。今すぐ全てのケア労働者が働き続けられる賃上げが必要だ」と強調した。​
同組合は、診療報酬・介護報酬の10%以上の引き上げを国に求める団体署名を実施しており、10月30日には厚生労働省の事務次官に署名を提出する予定。
10%という数字は、日本医労連が要求している月5万円の賃上げを実現するために必要な改定率として算出されたもの。米沢書記長は「報酬改定は国の決断次第。国民の命と暮らしを守る気があるのかどうかが問われている」と訴えた。​
また、冬のボーナスをめぐる交渉に関しても、10月24日に一斉要求提出、11月5日に回答指定日として交渉を行い、11月6日には全国で産別統一ストライキを実施する方針を示した。

「高市首相誕生は一定のプラス」も…自維連立政権に懸念示す

この日は首相指名選挙が臨時国会で行われ、自民党の高市早苗総裁が第104代首相に指名された。
米沢書記長は「高市首相は総裁選のときから、医療や介護分野の現状解決について『喫緊の課題』だと言っていた」として以下のように述べた。
「この間、社会保障の膨らみが政府にとって大きな懸念材料になり、報酬の引き下げなどが行われてきました。
ですが、報酬の引き上げがなければ、確実に医療・介護は崩壊してしまいます。
今はまだ、現場の人手不足に注目が集まっていて、患者さんが次々に亡くなっているというニュースはありません。しかし、それは、賃金が安く、人がやめていっているという状況下でも、現場の人間が休みを返上し、あるいは夜勤を何回も何回もこなしながら現場を守っているからです。
ただ、そうした現場のがんばりも、本当に限界を迎えています。
こうした医療や介護の現場で起きている実態を直視し、首相にはぜひ、報酬の大幅引き上げを実現していただきたいです」(米沢書記長)
一方、医労連の森田進副委員長は、高市氏の首相就任について「一定のプラス材料にはなる」と評価しつつ、次のように懸念を示した。​
「本年度予算を成立させる際に、日本維新の会は自民党公明党の予算案に賛成する条件として『国民医療費を最低でも年4兆円削減する』ことを打ち出しました。
その日本維新の会が連立入りしたことが、われわれにとって、どこまでマイナスとなるのかという点で不安が残るというのが率直な意見です」(森田副委員長)


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