障害者5人のうち4人は働けない? 「法定雇用率」の仕組みはあるが…ほとんどの当事者が“枠外”に弾き出される現実
日本で「共生社会」の実現が掲げられて久しい。だが、障害のある人々が実際にどのように社会に参画しているのか。
たとえば障害者に関する雇用・就労のあり方について、具体的に知る人は多くない。
障害者事業所に関する報道も「倒産や廃業の増加」「行き場をなくした障害者の苦境」「障害者虐待」「補助金等の不正請求」など、暗い内容が目立つ。明るい内容は、成功事例や啓発イベント程度だ。
本記事では、自身も障害を持ちながらフリーランスのライターとして働き、博士号を取得した研究者でもあるみわよしこ氏が、自身の経験をもとに、障害者事業所の仕組みと課題、そして「障害者の就労」の現状を考察する。(本文:みわよしこ)

障害者である私の就労は、誰かに必要とされているのだろうか?

中年になってからの中途障害で車椅子を利用している私は、約20年にわたり、障害者として生きている。
高校卒業以後、就労を途切れさせたことがない私は、障害者になった後も就労を続けている。とはいえ、障害によって継続を断念した仕事もある。たとえば多数の機密を取り扱う半導体分野のパートタイム・エンジニアの仕事は、20年前の環境のもとではリモート勤務では継続できなかった。
大きな問題なく継続することができたのは、著述業だけだった。2010年代には生活保護に関する執筆を継続しながら大学院で生活保護政策を研究し、2023年には博士の学位を授与された。苦労も多いが、達成は少なくはない気がする。
しかし実績を重ねるたびに、「障害者に期待されているのは『障害者らしい』就労」と痛感させられる。障害によるハンデは少なくない。
障害ゆえに優遇されているわけでもない。公的制度が就労の障壁となった経験は多いけれど、制度に就労を支援された記憶はない。もしかすると、私の就労のあり方が制度の「想定外」過ぎるのかもしれない。

就労できる障害者は、どの程度の比率で存在するのか?

まず、日本の障害者の内訳を見てみよう。
内閣府の『令和7年版 障害者白書』によると、最新データのある2023年、日本には423万人の身体障害者(障害児を含む。以下同じ)、127万人の知的障害者、603万人の精神障害者がいた。合計では1153万人であり、国民の9.3%にあたる。重複障害者を考慮すると、総数と比率は若干少なくなるが、「国民の9%は障害者」と考えることができる。
就労できる可能性が高いと考えられる18歳以上(精神障害では20歳以上)の年齢に限定すると、身体障害者は402万人、知的障害者は95万人、精神障害者は537万人、合計で1034万人であった。
同年の総人口から年少人口を除外すると、1億10万人。障害者比率は10.3%である。障害者の高齢人口は不明であるが、「就労できる年齢の障害者は、就労人口の10%」と考えても支障ないであろう。
ところが、法で定められた障害者の法定雇用率は、2.5%(民間企業)~2.8%(国・地方自治体)にとどまる。
さらに、民間企業で障害者雇用を課せられるのは従業員40人以上の企業である。民間企業がフルに障害者雇用を実現した場合でも、民間企業の従業員のうち障害者が占める比率は2.5%よりも少なくなる。
言い換えれば、障害者5人のうち4人程度は、障害者雇用の枠に入ることもできない。就労が選択肢とならない障害者の存在を考慮しても、「現在は障害者も働いて自立できる」と言える状況ではない。

障害者の人権と教育の充実が生んだ「作業所」

もっとも障害者の中には、労働力として生産活動に従事することが困難な人々もいる。「就労したい」とは考えていない人々もいる。全員が、雇用されて収入を得なくてはならないわけではない。そもそも労働は、義務である以前に権利である。
しかし労働の目的は、収入を得ることだけではない。生きがいでもあり、自己実現であり、他者とつながる機会であり、社会に貢献する手段でもある。障害者であるという理由によって労働を奪われるのであれば、障害を理由とした人権侵害が行われていることになる。
特に敗戦後の日本では、戦争によって障害者となった多数の人々がおり、国によって障害者となったのに加えて就労の可能性を閉ざされるという状況にあった。このような背景によって、戦後の日本において、「障害者作業所」が生み出された。

並行して、障害児教育も充実していった。1970年代までは、障害を理由として義務教育を受けられない障害児は珍しい存在ではなかった。
1979年、養護教育が義務化され、障害児の保護者は養護学校で義務教育を受けさせる義務を負うこととなった。養護教育義務化は、障害児が地域の小学校・中学校に通学する機会を狭め、障害のない子どもたちとの間に分断をもたらした。
しかし1973年以後に生まれ、2025年現在は52歳以下の障害者は、生まれつきや幼少期からの障害であっても、少なくとも義務教育の機会は保証されてきたわけである。卒業後の障害児たちが日中を過ごして社会生活を営む場として、さらに生産活動を行う場として、作業所は増加した。
1970年以後は、行政による補助金などの支援や公的福祉サービスとしての制度化が行われ、障害者作業所は障害者福祉制度の中に位置づけられるようになった。さらに2005年、障害者作業所は「障害者事業所」と呼ばれるようになり、「就労移行支援」「就労継続支援A型」「就労継続支援B型」の3類型に分類され、現在に至っている。

「就労移行」「A型」「B型」の違いとは?

障害者事業所の「就労移行支援」「就労継続支援A型」「就労継続支援B型」は、それぞれ「就労移行」「A型」「B型」と略されることが多い。一般の雇用形態も含めて位置づけると、下の図のようになる。
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【図】障害者就労の区分(筆者作成)

「働いていない障害者が雇用を目指すクエスト」として考えると、スタート地点は右端の「B型」である。「B型」は、日中どこかに通って日中を過ごし、作業をしてみる訓練の場である。工賃も得られるかもしれない。

一定の継続就労が可能になると、「A型」にレベルアップする。継続して生産活動を行い、時給で最低賃金以上の工賃を得る。フルタイム就労している場合、単身者の生活保護費(生活費+家賃補助)を上回る工賃が得られる事業所もある。
一般企業での就労が可能な段階になると、「就労移行」にレベルアップする。一般企業の障害者枠での就労を目標に、生産活動や職業訓練を行いつつ、支援を受けて就職活動を行う。あくまで訓練の場であり、工賃は支払われない原則であるが、支払う就労移行事業所もある。利用期間は、原則として最長2年間である。長くとどまっていることはできない。
障害者枠での就職に成功することは、障害者事業所の「福祉的就労」から「一般就労」へのダンジョン移行である。「就労移行」を経ず、「B型」「A型」から「一般就労」に成功する障害者もいる。障害の内容やタイプによっては、「障害者雇用」から「一般雇用」へのレベルアップもありうる。その先には、出世レースを勝ち抜いて役員になる可能性もあるかもしれない。

ただし、障害者事業所を利用すると利用料が発生する点には注意が必要である。家族と同居しており一定の世帯収入がある場合、1か月あたり最大3万7200円の利用料(他の障害福祉サービスとの合算)を支払う必要がある。「B型」で1か月あたり1万円の工賃が得られても、利用料を考慮すると収入はマイナスになる。
生活保護世帯や住民税非課税世帯の場合は利用料の自費負担は減免されるので、工賃により可処分所得が増える。生活保護の場合、月あたり1万5000円以下の工賃は、収入申告すれば全額を手元に残すことができる。
とはいえ、「障害者の就労は、一般会社員との違いが少ないほど良い」とは限らない。生産活動のプレッシャーから症状が悪化することを避け、快適に日中を過ごせることを収入よりも優先すべき場合もある。
その人に適した仕事が地域にあるけれども、1日あたりでは1時間か2時間程度の作業量しかない場合もある。逆に、フルタイムで就労できるけれども多様な福祉的配慮が必須なので、「A型」が最適となる場合もある。
何が就労の「最適解」になるのかは、人にも環境にも地域にもよる。
なお、厚生労働省の文書「令和5年度工賃(賃金)の実績について」によれば、2023年の平均工賃月額は「A型」で8万6752円、「B型」で2万3053円だった。
「A型」は「別途、住居が確保されていれば、なんとか暮らしていける」「障害基礎年金を受給していれば、なんとか暮らしていける」という水準、「B型」は「小遣いにはなるけれども、『推し活』などをするには足りない」という水準である。

障害者事業所で働く障害者の人数、作業内容や収入源は?

厚労省「令和5年 社会福祉施設等調査の概況」によると、2023年、「就労移行」を利用する障害者は3万8487人、「A型」は10万8488人、「B型」は46万1003人、合計60万7978人であった。
日本の労働人口における障害者比率は約10%、人数で言えば約1000万人である。このうち2%が障害者雇用の対象となるとしても、800万人は雇用されない。事業所を利用する約60万人を考慮しても、740万人には職場がないことになる。
障害者の就労を促進して収入を増加させるという意味では、障害者事業所は「焼け石に水」なのかもしれない。一般企業での雇用を目指す「就労移行」は、そもそも利用者が年間約4万人しかいない。
また、障害者事業所の作業内容は、農作業・手工芸・食品製造・データ入力・清掃(現場に移動して行う)・部品組み立て・商品袋詰め・シール貼りなど多様である。近年の傾向としては、健常者向けの作業を受託し、障害者各自に適した作業に分割する形態が目立つ。
そして障害者事業所の主な収入源は、市町村から支払われる障害福祉サービス報酬・生産活動による売上の2つである。
工賃は、生産活動の売上から支払うこととなっている。サービス報酬から持ち出すことは認められていない。
スタッフの人件費・固定費・光熱費などは、サービス報酬から支払う。サービス報酬に対しては、体制・稼働率・生産活動の収益・支払った工賃などによる加算・減算が行われる。
加算と減算に関しては、政策に基づく多様なインセンティブが設定されており、最高額と最低額の差は2倍以上になる場合もある。このため各事業所は、減算を避けて加算を獲得するために努力を重ねる。
就労支援事業所では基本的に生産活動はなく、工賃の支払いもないが、サービス報酬には就労実績や定着実績によるインセンティブが設定されている。各事業所は、やはり減算を避けて加算を獲得するために努力を重ねる。
気になるのは、利用者である障害者たち自身の希望を尊重することが、事業所の報酬につながるようには見えないことだ。
むろん、あまりにも利用者の希望に添えない事業所は、「利用者が減少して報酬が得られにくくなる」という形で淘汰(とうた)されるであろう。しかし事業者は、政策の風向きを読みつつ経営とスタッフの雇用を安定させ、利用者が安心して通い続けられる環境を整備しなくてはならない。利用者は、選択できる範囲から自分の希望に近い事業所を選択するより他にない。

誰が、障害者の就労を必要としているのか?

ここで、冒頭の私自身の疑問に立ち戻る。フリーランスのライターであり障害者である私の就労は、行政や社会から、どのように必要とされているのだろうか?
答えは、「誰も必要としていない」「想定外」「例外」といったところだろう。障害者に期待されている就労のあり方は、どこかに雇用され、理解と配慮と保護のもとで働くことである。万が一にもフリーランスや自営業者となり、健常者にとっても厳しい荒波を乗り越えていくことではない。
障害者事業所をめぐる暗いニュースの数々、特に障害者が「ダシ」として利用されるタイプの不正請求を見るたびに、私は「結局、世の中そんなものか」と溜め息をつく。
もちろん、このままで良いわけはない。いつか、「労働は権利なんだから、私は労働しない自由を行使したい」という障害者の選択も尊重しつつ、障害者の起業も推進され、障害はあっても各人が自分らしく職業生活を発展させることが評価される社会を作りたいと思う。自分自身も、そのような社会の中で生きたい。しかし、何をどこから変えていけばよいのだろうか。


■みわ よしこ
フリーランスライター。博士(学術)。著書は『生活保護制度の政策決定 「自立支援」に翻弄されるセーフティネット』(日本評論社、2023年)、『いちばんやさしいアルゴリズムの本』(永島孝との共著、技術評論社、2013年)など。
東京理科大学大学院修士課程(物理学専攻)修了。立命館大学大学院博士課程修了。ICT技術者・企業内研究者などを経験した後、2000年より、著述業にほぼ専念。その後、中途障害者となったことから、社会問題、教育、科学、技術など、幅広い関心対象を持つようになった。
2014年、貧困ジャーナリズム大賞を受賞。2023年、生活保護制度の政策決定に関する研究で博士の学位を授与され、現在は災害被災地の復興における社会保障給付の役割を研究。また2014年より、国連等での国際人権活動を継続している。
日本科学技術ジャーナリスト会議理事、立命館大学客員協力研究員。約40年にわたり、保護猫と暮らし続ける愛猫家。


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