経済的援助を目的とした男性(パパ)と女性が交際する「パパ活」。近年の“ブーム”の裏で、1980年代の「愛人バンク」の流れを汲み、脈々と生き続けてきたのが、会員制の「交際クラブ」という“愛人・パパ活女子斡旋所”だ。

交際クラブは、ある程度の財力がある男性会員から紹介料を受け取り、デートをセッティングすることで利益を得ている。SNSやアプリと異なり、運営会社や生身のスタッフが間に入るため、身元の確かさと安心感がある点が特徴だ。
「風俗ではない」「自由恋愛」と強調されるものの、実際は性的な関係に発展することも想定されたシステムであると言える。
本記事では、漫画家・ラブホテル評論家であり、かつて交際クラブのスタッフとして男女双方の会員の面接などを経験した日向琴子氏の著書『ルポ パパ活』(彩図社、2022年)より、「推し活」の旅費をパパ活で捻出する19歳の女性や、芸能界における「枕営業」のリアルを語る24歳のグラビアアイドルといった、現代のパパ活を象徴する若年層の事例を紹介する。
※『ルポ パパ活』は著者の体験を元に記していますが、プライバシー保護の観点から人名、施設名などの一部を仮名にしてあります。

旅費と宿代をパパ活でまかなう推し活女子Fちゃん

男性会員が地方にいるので東京の女性を地方に招いてデートしたい場合や、女性が地方に住んでいるので東京に呼んでデートしたい場合など、男性が旅費、宿泊費を全て負担するのであれば、国内限定でセッティングを承っている交際クラブは多い。これを利用して、旅費と宿泊費を浮かせて男性アイドルの追っかけをしているツワモノもいる。
福岡に住む19歳のFちゃんは、高校を卒業してフリーターをしている。
大阪、名古屋、北海道にはすでにパパがいるが、東京のパパが切れたので、新たに募集しようと面接にやって来た。
「コンサートのチケットが当たったら、それに合わせて上京するから、そのタイミングで呼んでもらえたらベストだけど、友達のところにも泊めてもらえるから、お小遣い以外に旅費やホテル代を上乗せしてもらえたらラッキーだな、と思って」
とてもちゃっかりした女の子だ。
「旅費とかホテル代をもらえなくても、東京に来た時にお小遣いがもらえれば、それはそれで良いし、交通費をもらえたら3万円以上になるし、家に泊めてご飯奢ってくれるなら、別にお小遣いもいらないかな」
なんて、ニコニコしている。
なるほど、そういう利用の仕方もあるのだな、と妙に感心してしまった。

芸能界の枕営業を語るグラビアアイドルMちゃん

芸能界の枕営業について語ってくれたのはグラビアアイドルのMちゃん(24歳)だ。

過去にDVDを1枚出し、最近は撮影会にたまに参加する程度の活動しかしていないという。
これまでに小さな事務所を転々としていて、今は割と有名な事務所のレッスン生もしている。
ツリ目がちでキリッとした顔立ちなので好き嫌いは分かれるかもしれないが、天然のGカップバストを武器に、ギャラ飲みで生活費を稼いでいるという。
でも、それだけだと心許ないので、もう少し稼ぎたい、とのことだった。
以前は業界限定のクローズドな存在だったギャラ飲みだが、最近では業界以外の人々もギャラ飲みと称して飲み会を開催しているようで、芸能人の卵とかアイドルレッスン生とかモデルとか、知り合いの知り合いといった遠いツテを辿って、女の子たちが集められているという。
女の子を取り仕切る首領みたいな女性もいて、グループLINEで管理されるらしい。
Mちゃんは、飲み会に参加して毎回1万円から3万円のギャラはもらえるものの、愛人のお誘いは滅多にされないらしく、交際クラブに登録しようと思ったと話す。
芸能関係の仕事をしている女の子は、交際クラブ面接の際に「枕営業できる子だと思われるのは困るので業界の人はNGで」とか「アパレル系の社長は紹介しないでください」「化粧品関係の男性は紹介しないで」などと制限を設ける子が多いのに、Mちゃんはどんな職種の男性でも紹介OKで、交際希望内容も「積極的なお付き合い」に丸を付けていた。
「いやいや、むしろこうやって出会って気に入ってもらえたら仕事につながるかもしれないじゃないですか。枕営業って言われても、気にしなきゃいいんですよ」
と、あっけらかんとしている。
「枕営業って、嫌々したり、させられたりするものなんじゃないの?」
「そういう人もいるかもしれないけど、私の周りでは、そういうの枕営業っていう認識はなくて、いろんな男性とお付き合いして経験を積ませてもらうって感覚かな。
Hすることで、自分じゃ行けないような会員制のホテルとかレストランとか旅行とか行けて、バックステージとか入手困難なコンサートにも行けて、ヘリとかクルージングで色んな景色見せてもらって。

その結果仕事までもらえたらそれはそれでラッキーだけど、仕事と引き換えにカラダを差し出す、みたいな考えだと、芸能界にいたら病んじゃうんじゃないかな。
セックスなんて、ほんと挨拶みたいなもんだよ。挨拶しただけで仕事くれとか、ありえないでしょ。可愛がってもらう方が大事だと思うんだけど」
と笑って八重歯を覗かせた。
「お小遣いの額はどうしようかな、2でもいいんだけど」
なんて、謙虚な数字を言ってくる。「Gカップバスト」「24歳」「グラビアアイドル」というスペックなら、平気で8とか言う女の子もいそうなのに。
「それじゃあ、いつものギャラ飲みとかわらないんじゃないの?」
と聞いたら、
「それはそれ、これはこれ。出会いが増えればそれでいいかな」
と、手元のアイスティーに視線を落として微笑んだ。なんだかちょっと、語尾に諦めているようなニュアンスが感じ取れた。少しだけ、投げやりな言いかたのように聞こえたので気になった。
ギャラ飲みにしろ、交際クラブにしろ、お金はある程度コンスタントに稼げているから、男性が持っているお金よりも、その男性が持っている人脈やバックグラウンドによる恩恵を受けたいということなのだろうか?
今はグラビアアイドルをしているけれど、ずっと芸能界にいようと思っているのだろうか?
グラビアアイドルを足がかりにして、いつかは女優になりたいとか思っているのだろうか?
お金持ちの彼氏を見つけて、芸能界を引退しようなどとは考えないのだろうか?
仕事をもらうより可愛がってもらう方が大事って言ってたけど、可愛がってもらうその先には一体何があるのだろう?
「Mちゃん、夢ってあるの?」
もしも、明確な夢があるなら。それを男性に伝えた方がステップアップして行きやすいかもしれない。

「う~ん……ほんとは、ちょっと、わからないんだ」
急な質問に不意を突かれたのか、それがMちゃんの本音かな、と思った。
「あ、そうか、それで、愛人?」
面接の最初に、Mちゃんが「ギャラ飲みでギャラはもらえるけど愛人のお誘いは滅多にされない」と言っていたな、と思い出す。
裏を返せば、愛人のお誘いが欲しいということではないだろうか。Mちゃんは、彼氏はいないのだろうか。いなさそうだけど、なんだかちょっと聞きにくい。
「……誰かの愛人になって、夢を考える時間が欲しいかな」
Mちゃんが、つぶやいた。


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