困窮する若者たちの支援を行う認定NPO法人「D×P(ディーピー)」は、公的機関の休業に伴い支援を受けづらくなる年末年始を前に当事者たちの状況を把握するため、若者を対象にした「年末年始に関するアンケート」を実施。11月26日、同法人の今井紀明理事長が都内で会見を開き、アンケート調査の概要と結果を伝えた。

調査からは、回答者の3人に1人が年末年始を迎えるのが「不安」と回答するなど、経済的・家庭的状況により社会から“孤立”している若者が多くいる実態が浮き彫りになった。(ライター・榎園哲哉)

若者たちはどういう状況に置かれているのか

さまざまな事情により孤立し、困窮している若者たち。
2024年度、不登校の小中高生は約42万1800人(文科省調査)、自殺者数は529人(厚労省・警察庁発表)に上った。
「D×P」では、2012年6月の設立以来、ユース世代の孤立・困窮を救うため、各種活動を実施。そのうち、LINEを用いた「ユキサキチャット」では、オンラインで全国の若者(13~25歳対象)たちの相談を受け付けている。
今回のアンケートは、同チャットの登録者(約1万9000人、2025年11月現在)に対し10月1~19日の18日間実施。531人(平均年齢18.9歳)から回答を得た。

半数が「親や家族に頼ることができない」

質問数は、「孤独感」「不安や悩み」の有無、「年末年始の印象」など自由回答を含む約20問。
現在、自身の「状況・抱えている背景」(複数回答)の問いに対する回答は、物価上昇も背景に「経済的に苦しい」(59.9%)がトップだった。
次に、「親や家族に頼ることができない」(53.1%)、「ひとり親家庭」(46.0%)、「家族関係で心身が傷つく経験・虐待」(43.9%)と続いた。
今井理事長は「家庭環境や家族との関係性に厳しさを抱えている傾向がある」と分析した。
また、「いじめにあった」(33.5%)、「高校を中退した」(10.2%)、さらには「自分の性別に違和感がある」(6.2%)の回答もあり、困難を抱えている背景にはさまざまな事情があることも分かった。
「孤独感」の有無については、「しばしばある・常にある」(31.6%)が「決してない」(2.8%)、「ほとんどない」(12.2%)を上回った。また、「不安や悩み」の有無は、ほぼ全員が「ある」(91.7%)と答えた。

「年末年始の印象」は、「特に何も感じない」(33.9%)が最多だったが、「不安だ・すごく不安だ」(32.8%)と3割以上が不安を抱いていた。
年末年始に「不安」を感じる理由(複数回答)は、「金銭的に余裕がない」(65.5%)が最も多かった。
「光熱費が十分でなく寒さをしのぐのが大変」(14.9%)、「食事が十分にとれないことがある」(13.2%)の回答もあった。

「年末年始に帰らないと、親からの報復が怖い」

「どんなことが不安だと感じるか」「これまでの年末年始の困りごとの状況」の質問に対する自由回答では、より深刻な状況が明かされた。
「相談できる場所がわからないし、相談したところで何かあったらまた話してねで終わるから意味ない」(24歳女性)
「電気代が高く、マイナス10℃の外気温の中でもエアコンをつけられない」(21歳男性)
「母や私は、父親の介護をしながらアルバイトをしているので、家計の経済状況が好転せず、とても困っています」(19歳女性)
「高校時代に実家を出て自立援助ホームに移った。年末年始だけは帰ってくるよう親から言われている。本当は帰りたくないけれど、帰らないとのちの報復が怖い」(19歳女性)
「母は身体障がいがあり働けないので経済的に今後が心配」(18歳女性)
「2日に1食しか食べれない事」(23歳男性)
「同世代の子が、着たい振袖を値段関係なく選んだり、親に欲しいと言えているのが私には別世界の人だと感じた。悔しくなってしまった」(19歳女性)
経済困窮と同じかそれ以上に家庭環境や家族との関係性の“困窮”が孤立に関係していることが、改めて浮き彫りになった。
こうした状況について、今井理事長は「家族との関係性の希薄化が困窮に影響していることを現場でも感じている」と語る。
「(食糧配布・現金給付等の)物理的な支援だけでなく、リアルなつながりを求めているようだ」(今井理事長)

「悪化の状況を何とかしなければならない」

精神疾患を患い、自らもかつて社会から孤立していたという今井理事長。
若者が同じ状況に陥らないよう、「夢=D(Dream)」を持ち、「可能性=P(Possibility)」を切り開いてもらいたいとの願いから、「D×P」を立ち上げた。
しかし昨年、小中高生の自殺者数が統計開始(1980年)以降、過去最多となり、「忸怩(じくじ)たる思いだ。悪化している状況を何とかしなければならない」と焦りを語った。

「D×P」では、孤立・困窮している若者たちの卒業・就職等を支援するため、食糧配布・現金給付等を行っている。その多くを寄付でまかなっているが、財源が足りていないという。
現在、クラウドファンディング「物価高でごはん食べられない若者に今すぐ食糧を/緊急支援2025冬」を実施(12月19日まで)。食糧支援や現金給付等に充てる。
プロジェクトURLは下記の通り。
https://readyfor.jp/projects/dxp-sos-2025winter
■榎園哲哉
1965年鹿児島県鹿児島市生まれ。私立大学を中退後、中央大学法学部通信教育課程を6年かけ卒業。東京タイムズ社、鹿児島新報社東京支社などでの勤務を経てフリーランスの編集記者・ライターとして独立。防衛ホーム新聞社(自衛隊専門紙発行)などで執筆、武道経験を生かし士道をテーマにした著書刊行も進めている。


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