こうした条件のそろう夜職は、即金で稼ぐための選択肢になりやすい。風俗や水商売に従事する女性たちは、仕事としてのリスクや偏見を伴いながらも、それぞれの事情を抱えて夜の世界に身を置く。
一方で、性風俗の仕事はずっと続けられるものではない。一時的に生活をつなぐため、夜職に足を踏み入れた女性は、その後どのように昼職へ移行していくのか。
11月15日に開催された「夜職サミット」では、ソーシャルワーカーの橋本久美子さんと、社会福祉士・精神保険福祉士の藤井夏子さんが、現場で見てきた実態を伝え、それに基づき提言を行った。(ライター・佐藤隼秀)
「夜職の方が適応しやすい」
まず藤井さんは、女性が風俗に従事する背景には、さまざまな要因があると話す。1つ目は、高収入と即金性だ。
「風俗は、短時間でまとまったお金を得やすい仕事です。家賃や学費、生活費、仕事に必要な美容や衣装代など、今すぐお金が必要な人ほど、効率よく稼ぐ手段として風俗を選びやすい」と藤井さん。
時給制のパートや派遣では、働いても給料日までお金は振り込まれない。家賃滞納が続けば退去を迫られ、携帯が止まれば求人情報にもアクセスできない。「逼迫した状況下にある人ほど、日払いで現金が入る仕事しか選べない状況に陥りがち」と藤井さんは指摘する。
2つ目に、「夜職のほうが適応しやすい」と感じる人もいることが挙げられる。
「(一般的な会社員の場合)決まった時間に会社に行って、期日までに業務をこなすことを求められる。その『枠』がプレッシャーになり、うまくこなせないという相談はよくある。
また、学歴や職歴、コミュニケーション力など、本人が“社会的な能力の低さ” を強く意識している場合も。生きづらいと感じている人ほど、風俗のほうが自分のスタイルで働けて、受け入れてもらえる。そう話す利用者さんは多い」(藤井さん)
3つ目に、生育環境の問題がある。
虐待やDVを受けて育った、児童養護施設などで育ったという当事者は、基本的な生活習慣が身についていない場合もある。起床から就寝までの生活リズムが整っていなかったり、役所の手続きや家計のやりくりといったスキルが身についていなかったりと、社会の中でつまずく女性も一定数存在する。
「生活保護を受けている人の背景を見ると、貧困家庭で育ち十分な養育を受けられなかった人、生活習慣が身につかないまま大人になった人、DVや虐待、精神疾患、依存症を抱える人が少なくない。そうした生きづらさを抱える女性が、働きやすい場所として風俗を選択するケースもある」と藤井さんは語る。
扶養照会が生活保護受給の障壁に
夜職に従事する背景には、さまざまな事情がある一方、いつかは離職せざるを得ないタイミングが訪れる。性感染症などのトラブル、妊娠や出産、加齢による体力低下や需要減、精神的な限界――。その過程で一般職への移行を考えたとき、本来であれば頼りになるのが、生活保護等の社会保障の仕組みだ。
ところが現場では、「生活保護が必要な人ほど制度につながりづらい」現象が起きている。
その背景のひとつが、いわゆる水際作戦だ。
自治体の職員も、急増する相談件数に対応しながら、安易に保護を出してはいけないという意識を持つケースがある。もちろん、限られた税財源のもとで制度を運用する以上、一定のチェックが必要なことは否定できない。
だが、そうした態度は、本来支援を受けるべき人から支援を遠ざけてしまいかねない。
藤井さんは、「過去にDVや虐待を経験してきた女性の場合、自分が責められていることに過敏で、言い返してしまうなど攻撃的になってしまう人は多い。結果として職員との関係がこじれ、支援につながることができないまま帰ってしまう。そこから二度と窓口に行けなくなる人もいます」と話す。
加えて、扶養照会の問題も大きい。生活保護を申請すると、役所は原則として親族に対し「援助できないか」と照会を行う。この仕組みが“扶養照会”だ。
しかし、家族やパートナーから暴力を受けて逃げてきた人や、経済的搾取を受けてきた人にとっては、連絡がいくことで再度被害を受ける恐れすらある。
厚生労働省は2021年2月26日付けの発表では、夫の暴力から逃れてきた母子や、 虐待等の経緯がある者など、扶養を求めることにより明らかに要保護者の自立を阻害することになると認められる場合は、照会の省略が可能とされている。
ただその際も、生育歴やこれまでの職歴を説明する必要があると考えれば、一定の障壁が残る。
過去に虐待やDVを受けてきた人ほど、こうした質問がトラウマを刺激しやすい。結果的に、役所との意思疎通がうまく図れず、申請を諦めてしまう。そこに、申請に失敗したという挫折感や、過去のトラウマを刺激された二次被害が重なり、支援から遠ざかってしまうケースが懸念される。
風俗に従事しながら生活保護の選択肢も
他方で、橋本さんは、風俗などの夜職を続けながら、生活保護を利用する選択肢を提示する。職業に関係なく、自身の収入が、各自治体ごとに定められた最低生活費より下回れば、生活保護を受給できる可能性は高い。
ソーシャルワーカーの橋本久美子さん(11月15日都内/佐藤隼秀)
もちろん完全出来高制で、バック率が変動しやすい風俗産業は、収入証明が不透明な側面が大きく、実際の収入より少なく申告してしまう場合もある。こうした申告の揺れが、世間的には不正受給だと取り沙汰されることで、本来の支援が届きにくい構造を生み出している。
こうした現状に対して、橋本さんは「半就労半福祉」という考え方を提言する。
「風俗の仕事は、交通費やうがい薬、衣装代など、必要経費がかかります。あるいは性病などの病気やメンタルの不調で働けない時期もある。
前出の藤井さんによれば、都心部で月13万円以上の稼ぎがあると、生活保護受給の基準に引っかかりづらいと話す。
一方で、性産業は、労災・有給・休業補償・退職金といった安全網が整備されていないケースも多い。性感染症にかかれば即収入ゼロ、精神的に不安定になれば働くことすら難しい。こうした不安定さが前提にあると考えれば、夜職と生活保護の併用を検討することも合理的な選択肢として考えられる。
入居者が夜職に戻ってしまう背景
また、女性自立援助ホームや母子生活支援施設などで、生活を立て直しながら、生活保護を受給する選択肢もある。福祉事務所の就労支援員や、ハローワークの担当者、就労移行支援事業所など、地域の支援機関とも連携しながら、風俗以外の働き方を模索していく。あるいは精神疾患がある人であれば、障害福祉サービスを使い、コミュニケーションや職業スキルを訓練してから就職を目指す道筋もある。
一方で課題も残る。施設での支援が原則、現物支給である点だ。
一見、住環境が整っていても、手元に使えるお金が乏しいと不安やストレスがつきまとう。経済的な自立感が持てず焦りを募らせる中で、施設に内緒で、再び夜職に戻ってしまうケースが散見される。
本来であれば、施設で心身を休め、通院や服薬でコンディションを整え、生活リズムを取り戻すことが優先されるべきだ。
しかし、当事者からすれば、「早くお金を得て退所したい」という思いが勝ってしまう。支援者に言い出せないまま夜職で働き始め、あとから福祉事務所に収入が発覚して保護が打ち切られる――。そんな事態も起きていると明かす。
風俗で働いた女性は、その後どう生きるのか――。
この問いの答えは、風俗に従事した経緯や環境の違いが千差万別だからこそ、明確な方程式はない。
ただ、貧困や生育歴におけるトラウマ、生活保護の高いハードルなど、複合的な困難が女性を夜職に追い込み、また戻らざるを得なくさせているのは事実だ。
現場の声が示しているのは、女性を夜職へと追いやる構造そのものに、社会全体で向き合う必要性だ。夜職という属性だけで判断せず、一人ひとりが背負ってきた事情に応じた支援が整わなければ、出口は遠いままだろう。
■佐藤隼秀
1995年生まれ。大学卒業後、競馬関係の編集部に勤め、その後フリーランスに。ウェブメディアを中心に、人物ルポや経済系の記事を多く執筆。

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