東京都内の医療機関、介護施設、調剤薬局など、約100病院・160施設で働くケア労働者約9000人で組織する東京医労連(東京地方医療労働組合連合会)は12月2日、都内で会見を開き、年末一時金(賞与)の回答が昨年比で減少したことなど、厳しい賃金事情を伝えるとともに、処遇改善を訴えた。
会見には第一線の現場で働くケア労働者も出席。
「看護師の退職が止まらない。負の連鎖が起きている」と、危機的状況を語った。医療・介護の現場からは、体制の維持が難しくなる“崩壊の危機”を指摘する声も上がった。(ライター・榎園哲哉)

昨年比で平均額「マイナス7262円」の年末一時金

会見には、東京医労連の青山光書記長ら10人が臨んだ。
青山書記長の説明によると、東京医労連では「25秋 年末闘争」として、ケア労働者の大幅賃上げを求め、ストライキなども構えて交渉を進めてきた。
12月1日までに回答があった48単位(労組)によると、年末一時金の平均額は54万6229円(1.742か月)。昨年比でマイナス7262円(マイナス0.095か月)となった。
東京医労連も加盟する全国組織の日本医労連(日本医療労働組合連合会)の年末一時金は、平均45万6920円(1.753か月)=11月28日時点=で、昨年比マイナス2万3672円(マイナス0.099か月)だった。

プラスでも「一昨年の水準には達していない」

青山書記長は「単体で見れば昨年(2024年)比よりもプラスと回答している労組もあるが、昨年時がその前年(23年)より大きく引き下げられており、いずれも一昨年の水準には達していない」と指摘した。
また、保険調剤薬局を運営する法人では、同じ企業グループ内でも“分離回答”が広がっているという。
「これまでは組合に対して企業グループ全体として一つの回答を示すのが通例だったが、近年は薬局法人だけ別に切り離して回答し、その水準を大幅に引き下げる傾向が広がっている」(同書記長)
会見では、東京医労連の35歳の看護師をモデルにした、ここ数年の賃金比較も示された。
それによると、新型コロナウイルス感染症が発生した2019年と比べて、コロナが収束し医療機関への補助金が打ち切られたこともあり、2024年は年収でマイナス22万3127円となっている。
こうした厳しい状況に対し、東京医労連では引き下げられた組合を中心に交渉を重ね、上積みを図っているという。12月中旬頃までに交渉を予定している組合も複数あり、同じく上積みを目指す。

看護師「定員18人のところを12人で対応している」病院も

さらに会見では、現職の看護師らも声を上げた。
大島野江子さん(看護師)は「病院内で退職者が続出している。一人の看護師が20人近くの患者さんを診ている。人手不足で患者さんの思いをじっくり聞くことなどまったくできない。ただただ必要なルーティン業務だけを行っているような状態だ。
仕事量の多さから患者さんに優しく接することができず、つい邪険にしてしまいそうになる。日本の医療はこのままでいいのか、という思いにもさいなまれる」と、声を詰まらせながら語った。
小倉喜子さん(看護師)は「(勤務する病院で)去年1年間だけで58人が退職している。病棟の看護師が少なくなり、一人一人がどんどん忙しくなる。そのためにまた辞める人が出る。負の連鎖が起きている。ある病棟では、定員18人のところを12人で対応している」と病院で起きている危機的な看護師不足の状況を伝えた。
上野太一さん(介護福祉士)も「特養(特別養護老人ホーム)で45人の利用者の生活を支えている。
決められたプランに沿って、食事や排せつ、入浴を時間内に行っている。利用者の命や健康に影響が出るため、事務作業のように後の時間に回すことはできず、決められた時間内に行わなければならない。本当はもっと余裕を持って利用者にかかわりたい」と、スタッフの増員を求めた。

「私たちの背後には患者さんがいる」

国民の命・健康を支える基幹的な分野でありながら、診療報酬や介護報酬の公定価格によって収入を得るため、利益を追求する民間の他産業と比べ低い賃金体系にあるケア労働者の現場。厚生労働省の「毎月勤労統計調査」などから、医療・福祉分野の平均月収は、全産業・職種の平均を下回っていることが明らかになっている。
東京医労連では、このままでは人材流出がさらに進めば、医療・介護体系の維持が困難になるとして、①ケア労働者の大幅賃上げ、②医師・看護師・介護職員の大幅増員、③診療報酬の10%以上の改善・介護報酬緊急改定を掲げ、会見後、厚労省前でもアピールを行った。
嘉瀬秀治・東京医労連執行委員長はマイクを手にこう訴えた。
「経営者も労働者も(診療報酬の)10パーセント以上の改善がないと、経営も労働も続けられない。私たちの背後には患者さんがいる。命がある。命を守るために、私たちが安心して働き、暮らしていける賃金を保障してほしい」
■榎園哲哉
1965年鹿児島県鹿児島市生まれ。私立大学を中退後、中央大学法学部通信教育課程を6年かけ卒業。
東京タイムズ社、鹿児島新報社東京支社などでの勤務を経てフリーランスの編集記者・ライターとして独立。防衛ホーム新聞社(自衛隊専門紙発行)などで執筆、武道経験を生かし士道をテーマにした著書刊行も進めている。


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