市販薬と有効成分が似ている「OTC類似薬」と呼ばれる処方薬の保険適用継続を求め、全国保険医団体連合会(保団連)は12月4日、計約20万筆のオンライン署名を厚労省職員に手渡した。
竹田智雄・保団連会長や関係団体代表、患者らは、OTC類似薬の保険適用除外は受診控えなどを招き「命にもかかわる」と訴えた。
(ライター・榎園哲哉)

「OTC類似薬」の保険外し閣議決定される

処方箋なしで薬局やドラッグストアのカウンター越し(Over The Counter)に買えるOTC医薬品。これと有効成分が似ており医師の診察を経て出される処方薬が「OTC類似薬」と呼ばれる。
政府は、医療費抑制を目的に、このOTC類似薬を健康保険等の適用から外す(全額自己負担とする)ことを検討している。
2025度補正予算に関する11月21日の閣議では、OTC類似薬の保険外しも視野に入れ、「現役世代の保険料負担の抑制につながるよう2025年度中に制度設計した上で、26年度中に実施する」と決めた。
しかし、OTC類似薬は、関節症・リウマチやぜんそく、胃炎・十二指腸炎、各種感染症に用いられるものなど、多岐にわたる。
これらがすべて保険から外され全額自己負担となると、患者にとっては、経済的負担が大きくなる。患者らは、受診控えを招き、健康や命にも影響が出てくると指摘する。
保団連などは、インターネットの「Googleフォーム」を用いて9月22日から11月18日までOTC類似薬の保険適用除外に関するアンケートを募り、10代から80代まで幅広い年代から約1万2300人の回答を得た。
また、併せて同じくオンライン上では、いずれもOTC類似薬の保険適用存続を求めた署名を3つ実施。計約20万筆が集まった。

「死ぬまで必要な薬が保険外になるのは恐怖」

アンケートの質問は、自由回答も含め約10問。
10~60代の回答者のうち約9割がOTC類似薬を「処方されている」「処方されたことがある」と答えた。
「OTC類似薬の保険外しをどう思いますか」の問いには、全世代合わせて約9割が「反対」と回答。
「OTC類似薬の保険外しで何が起きると思いますか」(複数回答)の問いには、8割強(84.9%)が「薬代が高くなる」。
さらに、「医師に診てもらわずに自己判断で薬を買うようになる」(62.0%)、「薬が必要量用意できずに症状が悪化する」(55.3%)と続いた。
自由回答では、OTC類似薬が保険適用から除外された場合に暮らしに影響が出るとする切実な声が寄せられた。
「乳がん治療のため、痛み止めの服用は必須。保険適用できない薬で治療を続けると子を育てることができない」(30代)
「肺がん患者で、抗がん剤に加えて、咳止め、痰きりの薬を処方されている。これから先、死ぬまで必要な薬。保険外になるなど恐怖でしかない」(50代)
「処方されている薬が保険適用外になり(抱えているアトピー性脊髄炎が)難病医療費から外されると、毎月1万円で収まっていた医療費が(市販薬としての購入で)7~8万円程度まで跳ね上がる」(30代)

受診控えなどによる健康被害の懸念も

所管する厚労省保健局職員への要請では、冒頭、竹田会長が「OTC類似薬を含む薬剤自己負担増の閣議決定に強く抗議します」とする抗議文を読み上げた。
また、OTC類似薬の保険外しも念頭にしたこの閣議決定については、「経済・物価対策と同列に薬の自己負担を増やす施策を明記したことは前代未聞」と訴えた。
さらに、「(OTC類似薬は)急性疾患、慢性疾患、重症疾患などさまざまな患者の治療継続や症状を緩和・安定させるために欠かせない薬だ」と強調。
政府が、自己負担の増加により医療費の抑制、さらには社会保険料の引き下げを目指していることについて、「OTC類似薬が医療費総額(24年度、48兆円)に占める割合は、最大でも2%(7000品目、1兆円)であり、医療費増額の要因とする根拠はない」と、これを否定した。
日本アトピー協会の倉谷康孝代表理事は、アトピー性皮膚炎患者を例にした約1か月分の医薬品代の試算結果を公表。処方薬(OTC類似薬)から市販薬に切り替えた場合、ある患者は9995円の負担増になると伝えた。
息子が魚鱗癬(ぎょりんせん)という皮膚の難病を患っている大藤朋子さんは、薬を保険適用から外すことによって、患者らの“受診控え”が増える可能性があるとし、「患者が医師にかかることをためらうような制度にしないでいただきたい」と求めた。
ぜんそくなどの疾患を持つ女性Aさんは、「自分だけではどんな薬の飲み合わせが悪いかが分からない。
きちんとお医者さんにかかって、症状や体にあった薬を飲みたい」と、医師の処方を受けず自らの判断で市販薬を買うことによる不安も語った。

「制度だけ残して誰が喜ぶのか」

竹田会長は、「持続可能な(社会保障)制度をつくることは確かに大事だが、目の前の患者を救えずして、持続可能性はない。患者を切り捨て、制度だけ残して誰が喜ぶのか。命は平等。切り捨てられていい命は一つもない」とも訴えた。
こうした声に対し、厚労省職員は「現時点でOTC類似薬について一律に保険適用から除外すると決定したわけではない。厚生労働省の関係審議会で議論を進めており、しっかりと丁寧に検討していきたい」と答えるにとどめた。
■榎園哲哉
1965年鹿児島県鹿児島市生まれ。私立大学を中退後、中央大学法学部通信教育課程を6年かけ卒業。東京タイムズ社、鹿児島新報社東京支社などでの勤務を経てフリーランスの編集記者・ライターとして独立。防衛ホーム新聞社(自衛隊専門紙発行)などで執筆、武道経験を生かし士道をテーマにした著書刊行も進めている。


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