建設業界における慢性的な長時間労働や人手不足などの問題を受けて成立した改正建設業法が、12月12日、完全施行される。今年11月に閣議決定された。

具体的には著しく低い見積りでの契約が禁止される他、著しく短い工期での契約や「原価割れ契約」の禁止が受注者にも拡大されるなど、適正な価格と工期を確保しながら健全な取引関係を築くことを求める内容となっている。
こうした規制強化によって長時間労働の温床となってきた「無理な工程」や「ダンピング競争」に歯止めをかけ、現場の働き手の処遇改善や事業者の持続可能性を高めることが狙いだ。

「労働者の処遇改善」などを目指す改正

国土交通省のホームページには「建設業は、社会資本の整備・管理の担い手であるとともに、災害時における『地域の守り手』として国民生活や社会経済活動を支える極めて重要な役割を担っています」と記載されている。
しかし労働条件の厳しさなどを背景に建設業の就業者は減少が続いている。また、近年の資材価格の急騰により、現場技能者の賃金のもととなる労務費等が圧迫されないよう、増加分を適切に価格へ反映させることも求められている状況だ。
こうした課題に対応するため、①労働者の処遇改善、②資材価格高騰による労務費へのしわ寄せの防止、③働き方改革と生産性向上を柱とした「持続可能な建設業」の実現に向けて、建設業法および公契法(公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律)の改正が昨年6月に公布された。
改正法は順次施行されることになっており、まず、昨年9月から「建設工事の労務費の基準(標準労務費)」の作成・勧告を可能にする規定が施行されている。
また、昨年12月からは、労働者に適正な賃金を支払うよう努めることを建設業者に求める「労働者の処遇確保の努力義務化」や、資材高騰などでコストに変動があった場合のリスク情報の提供義務や契約変更条項の明記、価格変動時の協議義務などに関する項目が施行済。

違反した場合は勧告・公表も

12日からは以下の項目が施行され、完全施行となる。
  • 労務費や資材費を著しく低い金額で見積りとして提示すること、またそのような見積りに基づいて請負契約を締結することを禁止。(標準労務費等の基準に照らして、著しく不当な低価格と認められる場合が対象)
  • 従来は発注者側の禁止行為とされてきた「原価割れ契約(実質的な赤字契約)」の禁止が、受注者側にも適用されるよう拡大。(不当に低い請負代金での契約に受注者が応じることも規制対象に)
  • 「著しく短い工期」での請負契約の締結禁止についても、受注者側にまで適用範囲が拡大。(無理な工期を前提にした契約に受注者が応じることも規制対象)
  • 見積り・契約時に、労務費・資材費の内訳や、価格変更の方法(契約変更条項など)を明記することが義務化。
    (受注者が適正な価格転嫁を行いやすくするための規定)
  • 不当な契約条件(著しく低い金額、過度な工期短縮、不適切な見積りなど)が確認された場合に、国土交通大臣等が「勧告」し、それでも改善されなければ「公表」できる制度が新設。(従来の行政処分に、是正措置としての勧告・公表権限が付与)
適正な価格、適正な工期、そして適正な労務費を確保する仕組みを法律として整備することで、担い手不足の改善や若手の参入促進にもつながると期待されている。建設業界にとって重要な転換点となるだろう。


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