若者の間で急速に広がる違法薬物「ゾンビタバコ」。使用すると手足がしびれ、ふらつきながら歩く姿が“ゾンビ”のように見えることから名付けられたこの電子タバコは、指定薬物「エトミデート」を含む危険ドラッグだ。

今年の夏ごろ、沖縄県内で複数の若者が摘発されたことから、当初は局所的な流行とみられていたが、その後は大分県三重県でも摘発が相次ぐなど、いまや全国に広がっている。

「深刻な健康被害」官房長官が取り締まり強化を表明

12月10日、東京都内で2000万円相当のゾンビタバコをタイから密輸したとして59歳の男が逮捕された。都内で初の所持目的での逮捕者だ。
事態を重く見た政府も動き出した。12月12日、木原稔官房長官が記者会見で「深刻な健康被害を生じる恐れがある」と警告し、取り締まり強化を表明。SNSを用いた啓発活動や相談体制の整備を進める方針を示した。
エトミデートは本来、海外で医療用麻酔薬として使用される物質だが、違法業者によって電子タバコのリキッドに加工され、「合法」「安全」といった誤った情報とともに販売されている。
厚生労働省は今年5月16日にエトミデートを「指定薬物」と定め、製造、輸入、販売、所持、使用を禁止したが、規制の網をかいくぐる形で流通が続いている。
なぜ、若者の間で「ゾンビタバコ」がこれほど広がったのか。
見た目が通常の電子タバコとほとんど変わらず「笑気麻酔」などとも呼ばれ、価格も数千円程度と比較的安価であり、SNSや暗号化メッセージアプリを通じて簡単に購入できる環境が、若年層への浸透を加速させていると見られている。
しかし、使用者は意識障害や手足のけいれん、精神錯乱、意識喪失といった症状を引き起こし、過剰摂取すれば命に関わる恐れがある。さらに、強い依存性も指摘されており、電子タバコとして容易に吸入できる手軽さが、依存症への入り口となるリスクを高めているという。

もし、子どもがゾンビタバコを所持していたら…

では、もしわが子がゾンビタバコを所持していることが発覚した場合、親はどのように対応すべきなのか。刑事事件に詳しい雨宮知希弁護士に、具体的な対応を聞いた。

「最初に確認すべきは、所持している物が本当にゾンビタバコなのか、という点です。その上で、いつ、どこで、誰から、どのような経緯で入手したのか、使用歴があるかどうかを確認する必要があります」
ゾンビタバコは指定薬物に当たるため、年齢に関係なく所持・使用・譲受・譲渡等が禁止されている。
そのため、未成年であっても刑事責任は問われ得るが、実務上は少年法の適用を受け、家庭裁判所送致となるのが通常だという。
「もし、子どもがゾンビタバコを所持していることを見つけた場合、弁護士への相談はもちろんですが、場合によっては警察の少年係や生活安全課への相談も検討すべきです」(雨宮弁護士)
「子どもを守りたい」という親心から、警察への相談を躊躇し、自宅でゾンビタバコを廃棄してしまうケースも想定される。しかし、この行為には大きな法的リスクが伴う。
「親自身が『指定薬物を所持した』と評価される可能性があります。さらに、証拠隠滅や、犯人隠避に加担したとみなされる恐れもあります。
特に子どもの違法行為を認識した上で、警察の関与を避ける目的で意図的に廃棄した場合は、法的に不利な評価を受ける可能性が高いでしょう」(同前)
つまり、善意で子どもを守ろうとした行動が、かえって親自身を法的な窮地に追い込む結果となりかねないのだ。

親自身が法的責任を問われるケースも

では、子どもがゾンビタバコを所持していた場合、親が法的責任を問われる可能性はあるのだろうか。
雨宮弁護士は「子どもが単独で所持しており、親が関与していない場合、親は刑事責任を問われないのが原則です」としつつ、例外的なケースについても指摘する。
「親がゾンビタバコの入手を助けた、黙認していた、購入資金を渡していた、明確に知りながら放置していたという場合は、幇助(ほうじょ)や教唆したと評価されるリスクがあります」
さらに、親が管理責任を著しく怠っていた場合についても、注意が必要だという。
「明らかに常習使用を知っていた、何の指導・監督も行っていなかったという場合には、刑事責任までは至らなくても、児童相談所の介入や保護者指導につながる可能性があります。
また、前述したように隠蔽行為をした場合には、廃棄・隠匿に当たるとして、犯人隠避などの別個の犯罪が成立する可能性もあります」
つまり、親が子どもの問題行動に気づいていながら適切な対応をとらなかった場合、あるいは事態を隠そうとした場合には、親自身も法的な責任を問われるリスクがあるということだ。

「早期相談」が子どもの未来を守る

ゾンビタバコをめぐる問題は、単なる違法薬物の所持という枠を超え、若者の健康と未来、そして家族全体に深刻な影響を及ぼす可能性がある。
もしわが子の所持が発覚した場合、親がとるべき行動は明確だ。
まず冷静に事実関係を確認し、速やかに弁護士や警察の少年係へ相談すること。決して一人で抱え込まず、また隠蔽しようとせず、専門家の助言を仰ぐ。それが、結果的に子どもの将来を守ることにつながる。
沖縄から始まり、いまや全国に広がりつつあるゾンビタバコ。「局所的な問題」から「全国的な蔓延の恐れ」へと状況が一変した今、「うちの子に限って」という考えは通用しない。
もし子どもの異変に気づいたら、早期の相談が「取り返しのつかない事態」を防ぐ第一歩となる。


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