生成AIの影響は「絵描き」を直撃、“創作の萎縮”も… クリエイター2万5000人回答のアンケート調査結果が発表
1月20日、一般社団法人「日本フリーランスリーグ」が、ChatGPTなどの生成AIが日本のクリエイターの仕事やキャリアに及ぼす影響について約2万5000人が回答したアンケート調査の結果を発表。
特にイラストレーターや漫画家、アニメーターなどの「絵を描く人」が生成AIの浸透によって心理的不安を抱えており、創作も萎縮している現状が明らかになった。

「収入・売上が減少」は12%だが…

「日本フリーランスリーグ」(以下FLJ)は2024年4月1日に発足。俳優・音楽家・イラストレーターなどの業界団体や労働組合とも連携しながら、現場の声を調査で集めて分析し、政策提言や情報発信を行っている。
今回の調査は、生成AIの急速な台頭が日本のアニメ・マンガ・ゲームなどのクリエイターのコミュニティに深刻な混乱を生み出している状況を可視化するために行われたもの。
調査期間は昨年9月30日から10月31日、回答数は2万4991件。そのうちイラストレーターは約54%、漫画家は約15%、アニメーターは約2%と、「絵を描く人」が全体の約71%を占めた。FLJは「生成AIが最も早く、代替可能性を示した領域が画像生成であり、作風模倣や無断学習の問題が大きく顕在化した職業であった」としている。
また全回答のうち、生成AIが自身の生計にとって「重大な脅威となる」との回答は約87%、自身の仕事に不安があるとの回答は約93%に上った。
生成AIに関連する誹謗(ひぼう)中傷や無断利用のトラブルに他者が巻き込まれているのを見聞したとの回答も約78%であり、「現場の心理的萎縮につながっていると推測される」という。
一方、生成AIの影響で収入・売上が「減った」とする回答は約12%と、経済的損失は現時点では限定的だ。しかし、今後のキャリアとしては「創作活動以外の収入源の確保」を選択するとの回答が約11%であり、市場再編の前からクリエイターの態度が変容している兆候が見られる。
また、約93%が、生成AIデータの著作物リスト公開を法律で義務付けることは「重要」と回答。データ学習利用の同意については約62%が「オプトイン(事前許諾制)」を支持し、約27%が「原則禁止」を求めていた。
欧米では生成AIによって得られた収益をクリエイターに還元する取り組みも始まっているが、サブスクリプション型・ライセンス型などのいずれの収益還元モデルについても、最多回答は「共感できない」だった(約33%)。

そして、生成AIに関する日本の政策については「AIの利用からアウトプットされたものの違法性(ディープフェイクなど)の判断基準を明確にして、悪質なものには罰則を設けていくこと」に重点を置くべきだとの回答が最多であった(約35%)。

「AI生成物のラベリング義務化」「収益還元スキームの構築」などを提言

調査結果を受け、FLJは行政に向け5つの提言を行った。
第1の提言は「学習データの透明性義務化とクリエイターが選択権を持てる環境整備」。生成AIの学習データに含まれる著作物について、その出所・範囲・権利情報の透明性(の担保)を義務付け、クリエイターが自らの作品の取り扱いについて許可・不許可を選択できる環境を整備することが必要だという。
第2の提言は「AI生成物のラベリング義務化とアウトプット違法性のガイドライン化」。生成AIから出力されたコンテンツについて、欧州AI法などを参考にラベリング義務を導入し、ディープフェイクなどの悪質なアウトプットに対しては明確なガイドラインを整備すべきだとする。
第3の提言は「AI時代に対応した公正な収益還元スキームの構築」。AIの学習・生成により生じた利益について、クリエイターへ公正に還元する新たなスキームを構築するため、総務省・経産省・文化庁・内閣府などが共同で制度設計を行うことが必要だという。
第4の提言は「『絵を描く人』をコンテンツ輸出の戦略的人材として位置づけた人材・労働政策の整備」。イラストレーター・漫画家・アニメーターなどが萎縮することはコンテンツ産業による国益を毀損(きそん)していると指摘して、労働条件・契約・育成に対する支援(環境整備)を体系的に行うことが必要だとする。
第5の提言は「『クリエイター統括機関』を日本に創設」。現在でも生成AIに関する悩みの相談窓口の設置は文部科学省で進められているが、クリエイター全体での課題の兆候をいち早く察知し、政策への反映や環境整備を一元的に実施する体制を作るため、韓国など諸外国を参考にして枠組みの整備を進めるべきだという。
また、FLJは国内のクリエイターに向けても、「職能団体・ギルドの再構築と『声』を束ねる仕組みの再始動」「契約・権利・制度に関するリテラシーの集団的な底上げ」「エビデンスに基づく意見表明と、政策プロセスへの継続参加」を提言した。

フリーランスの「組織化」が必要

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小池アミイゴ氏(1月20日都内/弁護士JPニュース編集部)

FLJ理事長の西野ゆかり氏は今回の調査について「生成AIの推進・反対の是非ではなく、生成AIの活用とクリエイターを守ることの両立を見極め、コンテンツ産業の未来を守るためのもの」と指摘。
西野氏は、日本の文化・芸術で活躍するクリエイターの多くは雇用されていないフリーランスであり、不安定な立場のなかで長時間労働せざるを得ない状況やセーフティネットの脆弱(ぜいじゃく)さなどの課題があると指摘。また、ファンである一般の人々にもクリエイターが苦しんでいる現実を届ける必要性があると語った。
FLJ名誉会長で漫画家のやくみつる氏は、生成AIの影響で収入が減るなどの実害を被るクリエイターの割合は「今後高まっていくことが容易に想像できる」として、早急な法整備を求めた。
またFLJ理事の高田正行氏(紀尾井町戦略研究所)は、日本ではクリエイターが組織化されていないという問題が長期にわたって存在し続けていると指摘。政府が主導したAIに関するルールメイキングの場においてもクリエイターの声が反映されていないとして、声を届けるためにも労働組合などのかたちで組織化することが必要だという。
「たとえば、(イラストレーターや漫画家、アニメーターなどの)『絵を描く人』を分野横断的に連携する、ギルドのような活動を作っていきたい」(高田氏)
やくみつる氏も「もともと、職種の性質上、クリエイターとは一匹狼の集団だった。しかし現在はSNSによって横のつながりが広がり、組織化への道が開けているのではないか」と語る。
イラストレーターの小池アミイゴ氏は、過去にAdobeからストック用のフリー素材提供を依頼され、当初は協力していたと振り返る。ところが後になって、アップロードした素材がAI学習に利用される機能が実装されていたことが分かり、業界内で問題になったという。
​協議の結果、当初の形式では協力できないと結論づけた一方でAdobeと敵対関係になったわけではなく、「フリー素材として登録され、明示的にAI学習を許可したもの以外は学習の対象外とする」という運用に改められたと、小池氏は説明。
「AIを開発する企業と、きちんと交渉してルールを作っていくことの重要性を感じた」(小池氏)


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