天井裏にアライグマ「自力駆除はダメ」なのに10万円超の自己負担…行政に相談も“理不尽なルール”に絶句
近年、全国的に「アライグマによる被害」が増加している。かわいらしい見た目に反して、攻撃的で凶暴。
しかも夜行性で、ガサゴソと家屋に侵入してくる。
畑を荒らし、天井裏に棲みつき、フンで健康被害を引き起こす。都市部の住宅街から山間部の農地まで、アライグマの生息地は広がっている。
じつは筆者の実家も、アライグマの被害に遭っている一軒だ。業者に駆除を頼むと高いと聞く。自治体は無料で対応してくれないのか? 困り果てて市に問い合わせてみたところ、なんとも“かわいくない現実”が返ってきた。その顛末をお届けしよう。(ライター・倉本菜生)

「ゴソゴソ」物音を立てる犯人は“小型犬以上、中型犬未満”のアライグマ!?

アライグマは「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」(以下、外来生物法)で特定外来生物に指定されている哺乳類だ。
1962(昭和37)年に、愛知県の動物園から12頭が集団で逃げ出し、以後国内で野生化が確認され、その数は増加している。
環境省が発表した「アライグマ防除の手引き (地域から構築する効果的な防除)」(※平成23(2011)年3月作成、令和7(2025)年3月改訂版)によると、アライグマによる農作物被害金額は、2022(令和4)年度には全国で4億5000万円を超え、捕獲数も9万6000頭を超えているという。
幼い頃、動物園で見たときは愛おしく思ったアライグマ。“ヤツ”が我が家の敵として現れたのは、昨年3月のことだ。
夜中に2階で寝ていると、なにやら天井裏からゴソゴソと大きな音がした。
筆者の実家は九州の田舎にある寺だ。寺は建築の構造上、野生動物が屋根裏や床下に入り込みやすい。イタチだろうかと耳を澄ませてみたが、イタチにしてはどうも足音が大きい。
そのうち、天井裏から窓の外へと移動する音が聞こえた。気になって窓を開けてみると――本堂と庫裏(くり)をつなぐトタン屋根の上で、何かがこちらをじっと見ながら固まっている。とっさにスマホのライトを向けたところ、ずんぐりむっくりした体とちょこんと立つ耳が見えた。
「え!? タヌキ!?」と驚いたが、どうにも違和感がある。タヌキにしては鼻先が鋭く、しっぽが長い。耳の縁取りや、目の周りの黒いマスクもやけに鮮明に見える。
「……アライグマだ」
そう確信した瞬間、予想外の生き物の登場に思わず息を飲んだ。たまにSNSで「アライグマとたぬきの見分け方!」という情報を目にしていたが、なるほど、暗がりで見ると一瞬どちらか分からないものだ。至近距離で見る“ヤツ”は、小型犬以上、中型犬未満のサイズ。
飛びかかられたらケガをしそうだと、背筋に冷たいものが走った。
追い払うこともできずに呆然と見つめていると、アライグマはそそくさとどこかへ逃げて行った。

民間業者に頼むと駆除費用は5~30万円…頼みの行政は?

その日を皮切りに、ヤツは天井裏を生息地とし出したようだ。昼はそこで寝ているのか、天井付近から獣臭がする。夜になるとバタバタと暴れ出す。ほうきの柄で天井を突いて追い出そうと試みたが、夜には戻ってくるので効果がない。
寒い時期を過ぎ、夏になると気配が消えた。ほっとしたのも束の間、冬になると暖を取りに戻ってきたのか、再び足音を響かせるようになった。さらには勝手口のすき間から土間へ侵入してくるように。
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人間の生活空間にも出没するように…(撮影:倉本菜生)

どうにかせねばと調べてみるも、民間の駆除業者の相場は約5~30万円。
一般的な一軒家での価格なため、造りの大きな寺社では2倍ほどの費用がかかるかもしれない。
そこで筆者は、鳥獣害対策を掲げている市役所の農林水産課へ相談の電話をかけてみた。
「家庭菜園や農作物への被害があるなら、捕まえるための小型箱わなを貸し出しています。
屋根裏などの住宅被害となると、農林水産課ではなく環境課の対応になります」(農林水産課担当者)
現状では家屋の被害のみだったため、電話口でそのまま環境課へつないでもらうことに。
環境課の担当者に再び被害状況を説明すると、こう回答があった。
「市役所では駆除等は行っていませんが、民間の駆除業者の取りまとめをしている協会を紹介しています。有料ですが、どこから侵入しているのかなどは調べてもらえると思います」(環境課担当者)

“たらい回し”の末に得た回答は…

そして紹介されたのが、「公益財団法人日本ペストコントロール協会(JPCA)」だ。害虫・害獣の駆除や防止に関する業界団体で、全国47都道府県に支部がある。無料の相談窓口が設けられており、内容に応じて加盟事業者を紹介しているという。
たらい回しにがっくりきたのは言うまでもない。結局、民間に頼るしかないのか……と落胆しつつ、JPCAへも問い合わせを行った。
最初に担当者から、家屋の大きさや被害状況、以前にも同様の被害があったのか等の詳細な聞き取りが行われたのち、「協会本部となっている業者を紹介する」との返事があった。もっともこの時点で、費用については教えてもらうことができた。
「まず家屋を見て侵入口を特定してから、天井裏に捕獲器を置きます。捕獲器の1か月のリース代が1台3万8500円(税込)です。一般的な住宅であれば1台仕掛けて1か月間様子を見ますが、お寺なら数台必要でしょう。

捕獲できた場合、アライグマは外来種なので殺処分しなければなりません。処分費は成獣で1匹2万7500円(税込)、幼獣で1匹1万1000円(税込)です」(JPCA担当者)
なんと、処分代までかかるという。
ちなみに前述した環境省の資料には「外来生物法の改正法により、都道府県には『被害防止に必要な措置を講ずる責務』が生じた」こと、同様に市町村には「『被害防止に必要な措置を講じるよう努める責務』が生じた」との記載がある。
なのになぜ、被害に遭った家が死骸の処理代まで負担しなければならないのか。理不尽である。
そして、侵入口を簡単に防ぐ程度なら料金の範囲でやってもらえるが、本格的なものは大がかりな工事になるため、別途で料金がかかるだろうと説明された。駆除を頼む場合は、JPCAが業者に連絡を取り、業者から折り返しの電話がくるとのことだった。
捕獲器を2~3台仕掛けて1匹捕まえたとして、処理代まで含めると約10~14万円。再侵入防止の工事代まで含めるといくらになるか。しかし、屋根裏に溜まったフンから感染症にかかるリスクもある。人間の健康には代えられないとはいえ、痛い出費には違いない。

自力での駆除は「違法」

こうなったら、自力で“駆除”するしかないのか。
市役所環境課の担当者に「ほうきで撃退するなど、自力で駆除してはダメなのか」と聞いてみたところ、答えは「NG」。
「アライグマは鳥獣保護管理法(※鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律)の対象であり、許可を持たない個人による捕獲や処分は禁止されています。個人宅の敷地で見かけても、殺さずに追い払ってください」(環境課担当者)
近所の公道や私道で死骸を見つけた場合も、勝手に埋めるなどしてはならないという。
「必ず土地の権利者や所有者に連絡してください。市道であれば市が回収し、県道や国道であれば県が担当します。分からなければ市役所に電話してもらえれば対応します」(環境課担当者)
結局、筆者の実家では、工事の費用のこともあり駆除は保留中だ。
JPCAには、アライグマの被害が増えていて、さまざまなところから日々相談が寄せられているというが、被害の拡大に対し公的な制度が追いついていないように感じた。
自治体によっては、有害鳥獣捕獲許可を有する個人や業者を対象に捕獲報奨金などを交付しているそうだが、一般住民の被害に対する費用を負担している市区町村は筆者が探した限り見当たらなかった。
愛くるしい姿とは裏腹に、家計も心も削ってくるアライグマは、筆者にとって心底「かわいくない」存在である。
■倉本菜生
1991年福岡生まれ、京都在住。龍谷大学大学院にて修士号(文学)を取得。専門は日本法制史。
フリーライターとして社会問題を追いながら、近代日本の精神医学や監獄に関する法制度について研究を続ける。 主な執筆媒体は『日刊SPA!』『現代ビジネス』など。精神疾患や虐待、不登校、孤独死などの問題に関心が高い。 X:@0ElectricSheep0/Instagram:@0electricsheep0


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