自民党・日本維新の会・国民民主党・参政党などが制定を求めている「スパイ防止法」について、2月24日、日本弁護士連合会(日弁連)は内閣総理大臣らに対し、慎重な審議を求める意見書を提出した。
各党はスパイ防止法について明確な定義を行っていないが、主にインテリジェンス機関(※)の連携等を図るための行政組織整備、外国の利益を図る目的で行われる活動の届出(外国代理人登録制度)、その他政府によるインテリジェンス活動の拡大強化のための施策をまとめて「スパイ防止法」と称している。

※政府が国家安全保障上の政策判断を行うための情報を収集・分析する機関
これについて、日弁連の意見書は「スパイ防止法」は一義的に内容が定まっているものではなく、どのような人物を法規制の対象とするのか、あるいは「スパイ」であるとするかは論者により見解が分かれ得るとしつつ、いわゆる「スパイ」は、一般の市民に紛れて行動をしているため、スパイに対する調査は、不可避的にスパイではない市民への調査も含むことになると指摘。
意見書は、主に次の3点を求めている。
(1)インテリジェンス機関の監視権限とその行使について厳格な制限を設け、独立した第三者機関による監督を制度化すること。
(2)インテリジェンス機関の増強(統合機能の強化、機関の格上げ等)につながる立法については、憲法上の人権侵害につながる可能性があることから、その必要性や人権への影響を十分に検討したうえで慎重に審議すること。
(3)外国代理人登録制度についても、自衛隊法等の既存法制で一定程度対応し得ることを踏まえ、その必要性や人権への影響を十分に検討したうえで慎重に審議すること。

独立した第三者機関の設置を求める

意見書は、インテリジェンス機関の監視権限には公開情報・非公開情報の収集や分析、個人・団体の動向把握など市民生活に密接にかかわる活動が含まれ得ることをふまえ、こうした活動が市民のプライバシー等を侵害し得ることから、その監視権限と行使について厳格な制限を定める必要があると指摘している。
また、上記のようなインテリジェンス機関に対する制限が実際に守られているかどうかをチェックするため、独立した第三者機関を設置し、その機関がインテリジェンス機関の運用や個人情報の取扱いを監督する制度が必要だとしている。
「公共の安全確保にとって不必要な個人情報(例えば、法律事務所に相談に行ったこと等)の取得制限等の厳格な行動制限とその履行を監督する第三者機関が存在すれば、訴訟をするまでもなくインテリジェンス機関の取得した個人情報の消去等が可能となり、市民として容易に権利救済を受けることができることになる」(意見書から)

市民の権利が侵害されるおそれ

意見書は、強化されたインテリジェンス機関の活動がスパイ以外の一般市民に及ぶものとなり、プライバシー権(憲法13条)、思想・良心の自由(憲法19条)、表現の自由(憲法21条)、適正手続(憲法31条)などの権利が侵害されるおそれがあるとしている。
また防衛省における情報保全事案として紹介された中に、スパイ活動による漏えい事案が含まれていないことなどを指摘し、立法提案者は、抽象的な危機感ではなく、現行体制では把握できない具体的事例を示したうえで、増強により何がどのように改善されるのかという立法事実や必要性を合理的に説明しなければならない、としている。
「安易にインテリジェンス機関の統合、増強を図ることは相当でなく、日本における必要性等について慎重かつ十分に検討すべきである」(意見書から)

外国代理人登録制度は報道の自由や「知る権利」を侵害すると指摘

1938年に制定されたアメリカの外国代理人登録法は、アメリカ国内で、「外国主体」の代理としての政治活動、広報活動の相談、広報代理人・情報サービス被用者・政治的コンサルタントとしての活動、寄付・借金・お金・その他の価値ある物を外国主体の利益のために求め、集め、支払うことをするなど、アメリカ政府の機関や公務員の前で外国政府の利益代表としての活動をする「外国代理人」に、司法省への登録と公開を義務付ける制度。
「外国代理人」は、「機関・代表・従業員・使用人として、あるいは外国主体の指令・要望・コントロールを受けて活動する者で、上記の行為に従事する者」を指し、これには外国人だけではなく内国人も含まれる。また、「外国主体」には外国政府や外国の政党のみならず、アメリカ国外のあらゆる人や、外国法下で作られた団体、外国に本店がある団体も含まれる。
しかし、アメリカにおける外国代理人登録法については、「外国主体」の範囲が広範であること、どのような場合に代理人とされるのかが不明確であること、規制が報道機関や非営利活動法人等の活動に大きな悪影響を与えることなどの問題が指摘されてきた。
意見書は、日本において外国代理人登録制度を導入する場合にも、報道機関が取材源を秘匿できなくなるおそれがあり、外国代理人登録を回避するため外国政府や外国人等との関係を避けることが取材活動を妨げる可能性もある、としている。

また、外国人独自の視点に触れづらくなることから、日本国民の知る権利にとっても重大な問題をはらむ可能性も指摘している。
さらに弁護士に外国代理人登録を義務付ける場合にも、守秘義務と抵触する可能性があり、弁護士の支援を受ける権利を妨げ、裁判を受ける権利の侵害にもつながりかねないと意見書は指摘。
「また、外国人排斥の声が高まる状況において、外国代理人登録やその表示をすることにより対象となる者の評価を低下させ、その活動の支障となることも考えられる」(意見書から)
また、日本にはすでに自衛隊法など、外国の利益のために活動する者に対して一定の対応が可能な既存法制が存在すると指摘している。
「少なくとも、スパイに関しては一定の取組が既にとられてきており、それらの取組が不十分であることを示すような事例も報告されていないのであるから、人権侵害を引き起こし得るようなインテリジェンス機関の増強や外国代理人登録制度の導入に関しては、その必要性等について慎重かつ徹底的な審議が不可欠である」(意見書から)


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