今年の漢字に選ばれた「熊」。人が襲われるケースが相次ぎ、冬眠を迎えるはずの今の時期も市街地での目撃や被害が後を絶ちません。
訪ねたのは、岐阜県高山市に住む男性。11月、自宅のすぐ裏でクマが出たといいます。
「こんなにひどいのは初めてです」
(自宅裏でクマが出た田川昭彦さん)
Q.このひもは何ですか?
「向こうにクマよけの鈴があって、これを引くと鈴が鳴る。こっちもそうです」
Q.かわいい音ですけど逃げる?
「最近は来ないですね」
山裾にある男性の家。クマが出たのは、森と家の間にある柿の木のあたり。
(田川さん)
「木の皮が剝れている所がクマが何回か登って皮が剝れている」
Q.ここから登っていった?
「上の方まで登っていった」
Q.枝が折れたり木が裂けたりしているが?
「全部クマですね」
木に登ったクマは、柿の実をほとんど食べ尽くしていったと言います。男性が監視カメラを設置すると、夜な夜な山から下りてきた周辺をうろつく親子とみられるクマの姿が。11月までに計5頭が確認され、このうち2頭が仕掛けた罠の檻にかかりました。
(田川さん)
「こんなにひどいのはことし初めてです」
Q.来年どうしましょう?
「どうしたらいいんですかね…」
ドラム缶を壊され逃げられたことも
罠を設置したのは地元の猟友会。猟師歴46年のベテラン・脇谷雅彦さんは、親子で狩猟を生業としています。
(飛騨猟友会 脇谷雅彦さん 66歳)
「こちらが踏み板になります。奥からクマが入ってきて、手前にはちみつを置いて、はちみつを舐めるために踏板に足をかけると奥の扉が閉まって、捕獲されるという仕組みになっています」
(脇谷雅彦さん)
Q.檻にかかったらクマは出られない?
「そうです。出られないんですけど、特別にことしは…中を見ていただくと分かりますが」
Q.穴が開いていますね
「口と手で破っちゃったドラム缶を。考えられない。
檻を壊され、逃げられたことも。例年、地元で罠にかかるクマは1~2頭ですが、ことしは5頭を駆除。それだけ人里に侵入してきたという現実があります。
一晩で400~500個の桃を食べ尽くされる
近くの桃農家を訪ねても…
(つむぎ果樹園 前坂治臣さん)
「おそらく400~500個は食べられていたかな」
一晩で畑の桃を食べ尽くされる被害にあった前坂さん。その畑にはいま、桃の木は1本もありません。クマが覚えてまた来ると近隣住民に被害が出る恐れもあるため、全て切り倒しました。
(前坂さん)
「桃を作って経営している中で、(クマに襲われる)リスクを作ってしまうのは、責任がないわけではないと。今後は考えていかないといけない」
クマに襲われ1か月入院した男性は…
15年前に被害にあった大坪さんにクマの怖さを聞くと。
(大坪達也さん 61歳)
「これが上あごです。ここが牙。こちらが下あご。ガブっと噛まれた」
当時、市役所で有害鳥獣の駆除を担当していた大坪さんは、イノシシ用の罠にかかったクマを山に放そうとしたところ襲われ、1か月入院する重傷を負いました。
(大坪さん)
「クマスプレー持っているなと思って出した時にロックがかかっていて、これもうだめだなと。
Q.頭をつかまれて噛まれた?
「耳のあたりを噛まれて」
目のすぐ下を爪でやられ、あわや失明するところでした。
(大坪さん)
「やっぱりクマはでかい。何かしでかせばダメージも強いし、1回スイッチ入るとすごいクマは」
冬眠しているクマがいない?
クマの狩猟は、冬眠前に脂がのる今の時期が本番です。脇谷さんに、いつもクマ狩りを行うという場所を案内してもらいました。山へ入ると早速、ニホンカモシカが。
さらに車で奥へ進み、たどり着いたのは標高1100メートルの山の中。冬眠場所を探すクマが頻繁に現れ、猟師の間で「クマの渡り場」と呼ばれるスポットです。クマ撃ち用のライフルを持った脇谷さんに、カメラをつけて山へ入ってもらうと。
(脇谷雅彦さん)
「今のところ足跡ないですね。雪が夕べも降っているので、クマは動いていないかもしれない。どんぐりがなる年だったら、雪をどけてでも食べるからすぐ分かるけれど、エサがないので、じっとしているだけだと思います」
クマの痕跡は全く見つかりませんでした。
駆除されたクマには“ある特徴”が「冬眠できるクマではない」
捕獲したクマを食肉用に解体する、脇谷さんのジビエ工房を訪ねました。
(飛騨猟友会 脇谷将斗さん 39歳)
「これがクマですね」
Q.ピンク色が脂肪?
「そうですね。脂になります」
駆除されたこのクマにはある特徴が。
(脇谷将斗さん)
「上半身にいくにつれて、ちょっと脂が薄くなってきて。全体的に見ると冬眠できるクマではないですね」
冬眠前に蓄えているはずの脂も少なく、山でエサが見つからない実態も見えてきます。駆除され持ち込まれるクマは例年2~3頭のところ、今年はすでに27頭と10倍近くに増加。
クマのしゃぶしゃぶなどを提供 その味は?
続いて、ジビエ料理を提供するお店を訪ねました。
(山の幸うり坊屋 田中政亮さん 35歳)
Q.脇谷さんの仕留めたクマを提供されているが、どんな関係?
「僕は脇谷家の次男です」
Q.何人きょうだい?
「4きょうだいで、下に弟がいて妹もいる。みんな一緒に働いています」
Q.脇谷家はみんなクマに携わっている?
「そうですね」
一家はクマの肉を堪能できる料理店も経営しています。ここで頂いたのが…
(田中さん)
「クマのしゃぶしゃぶです」
Q.赤い部分が少なく、脂が多いですね
「しゃぶしゃぶにするクマは、冬の脂の乗った上質なクマを選んで用意している」
その味は…
(大石)
「うまい!臭みが全然ない。脂がくちどけが良くて、濃厚だけどさらっといける」
そのほかクマの串焼きや、クマ肉100%のソーセージも。
(脇谷将斗さん)
「猟師の立場からすると有害駆除じゃなくて、狩猟でとって美味しく食べてあげたい。
「クマが減ってきている」
全国でクマ被害が激増したことし。専門家は個体数の増えすぎを原因の一つに挙げますが、脇谷さん親子は違う見方を示します。
(脇谷将斗さん)
「間違いなく実感では、クマが減ってきていると感じていて、他の地域とは違うかと思いますが、きょう山にクマの足跡を拾いに行っても拾えなかった。山で足跡をこの時期に拾えなかったことはない」
Q.猟師としてはクマがとれなくなる?
「そうですね」
(脇谷雅彦さん)
「姿を見かけられたら射殺される。檻でとられることが常識的になってくると、確実に保護動物になってしまうと思う」
クマの被害が急増する中、ただ捕獲して駆除するのではなく、人里に出てこないようクマとどう向き合うのかを考える必要があります。

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