
▼人類の英知(シリーズ通してお読み下さい)
「人類の英知」シリーズ
宇宙の未来を決める要素(1) ~ 引力と斥力の綱引き
過去の本連載で書きましたが、宇宙の膨張は、地球上でボールを空に向かって投げることに例えられます。空に向かってボールを投げると、投げ上げる速度が十分でなければ引力に捕らえられて地面に落下してきますし、ある速度(=地球脱出速度)を超えれば重力を振り切って宇宙空間に飛び出していきます。
宇宙もこれと同じです。
しかしながら、宇宙は膨張しているだけではなく、膨張の速度が加速しているのです。すなわち、ボールが投げられた後に、引力とは反対の斥力エネルギーが加えられていることを示唆しています。
「宇宙項」は、この引力と斥力の綱引きを表現しています。アインシュタイン博士は、博士が創造した相対性理論は宇宙が静的ではないことを示唆していたのですが、宇宙は定常状態にあるとの信念に基づき、宇宙が定常状態になるように(恣意的な)宇宙項を加えてしまったのです。しかし、後年、宇宙の膨張の発見によってそれが間違いであることが判明し、そしてさらに、膨張が加速していることが判明し、宇宙項が復活したという経緯になります。
膨張を加速させていると思われる未知のエネルギーを物理学者は「ダークエネルギー」と呼び、その正体を探しています。
さらに、「ダークマター」と呼ばれる未知の物質があるとも推定されています。驚くべきことに、我々の宇宙の構成要素はエネルギー換算で以下のように推定されています。
- 68.3% ダークエネルギー
- 26.8% ダークマター
- 4.9% 既知の物質
そうです、人類は、宇宙の5%しか把握できていないのです。ダークエネルギーの斥力が引力ほど強くなければいつか宇宙は縮小に転じ、斥力が引力よりも十分に強ければ、宇宙は膨張を続けることになります。
宇宙の未来を決める要素(2) ~ 曲率

三角形の内角の和は180度であることを我々は知っています。しかし、実はこれは正しくありません。
「三角形の内角の和=180度」は、平面上という特殊な場合だけなのです。ゆがんだ空間では内角の和は180度以上にも未満にもなるのです。これは空間の曲率によります。曲率=0であれば180度、曲率>0(球の表面のようなもの。例えば地球の球面上)では180度超、曲率<0(例えば、馬のくらのようなもの)では180度未満になります。
では、宇宙の曲率はどうなっているのでしょうか? 壮大な疑問ですね。かつて、遠く離れた3つの山の山頂をつないで三角形をつくり、その内角の和を計測することで、空間が曲がっているかどうかを調査しようとした科学者もいました(もちろん、そんな精度ではとても計測できません)。
曲率=0であれば(厳密に0などということがあるのか想像しがたいですが)、宇宙はどこまでも広がっている可能性があり、曲率>0であれば、宇宙は地球の表面(果てはないが有限)のようかもしれません。
現在までの観測によると、宇宙の曲率は0に近いようです。
以上の記述は専門家ではない筆者によるものです。より詳しくかつ正確に学びたい方、松原隆彦氏『宇宙は無限か有限か』(光文社新書)がわかりやすくお勧めです。
さて、ここまで3回にわたり、アインシュタインが生んだ奇跡の理論、一般相対性理論について見てきました。次回の最終回では、相対性理論、アインシュタインにまつわるこぼれ話、そして、常識に挑戦し続けることの難しさについて書きます。