普段から「やりがいのある仕事がしたい」「成長できる仕事をさせてほしい」と言っていた若者が、まさか「お金」を理由に転職を決めるとは想像していなかった……。近年このようなケースが実は少なくありません。

今回は、横山信弘氏による著書『若者に辞められると困るので、強く言えません』(東洋経済新報社)から、現代の若者の「本当の欲求」について解説します。

「やりがい」よりも「お金」を重視する若者たち

失意のマネジャーと会ったことがある。彼女は悲嘆に暮れていた。手塩にかけて育てた部下が転職したのだ。その理由が、「お金」だった。

「この収入だと結婚しても子どもを持てない。夢は2人の子どもにマイホーム。

だから、転職を決めました」

このように言われたそうだ。しかもそれを聞いたのは、転職を決めた後だった。決意は固く、もう止めようがなかった。

「わが社で働いたって、それができるぐらいの収入はもらえるのに!」

マネジャーはそう嘆いていた。普段から「やりがいのある仕事がしたい」「成長できる仕事をさせてほしい」と言っていた。だから、まさか「お金」を理由に転職を決めるとは想像していなかった。

他にも「今の若い人って、お金よりも『やりがい』を重視しますよね? そう信じ込んでいたせいで、すっかり勘違いしていた」こう言っている経営者もいた。

では、実際のところはどうなのだろうか?

統計では「やりがい派」より「お金派」が急増中!

統計では、実は「やりがい」よりも「お金」である。「みんなの転職『体験談』」サイトが調査した結果では、その傾向は20~30代の若者に顕著だ。その割合は2019年以降に逆転し、ドンドン差が広がっている。

実際のデータを見てみよう。

・2017年 お金(45%) やりがい(55%)

・2018年 お金(48%) やりがい(52%)

・2019年 お金(51%) やりがい(49%)

・2020年 お金(52%) やりがい(48%)

・2021年 お金(50%) やりがい(50%)

・2022年 お金(56%) やりがい(44%)

・2023年 お金(59%) やりがい(41%)

「衰退途上国」とまで言われる日本に希望を持てなくなった、ということだろうか。ロマンチストよりもリアリストの若者が増えていることを、上司たちは心に留めておいたほうがいいかもしれない。

もちろん、誰だって「お金」も「やりがい」も両方を満たしたい。しかし、どちらかを選べと言われたら「お金」と答える人のほうが増えている、ということだ。

それに、誰だって「仕事に求めるものは何か?」と質問されて、「お金」とは、なかなか答えられない。相手の心証や周りの目も気になる。

だから、「私はお金よりも、やりがいを重視したいです」と言われても、十分に気をつけたい。その発言をどこまで真に受けたらいいのか、わからないからだ。

「お金」と「やりがい」ではスケール感が違いすぎる

ケースバイケースだが、私も「やりがい」より「お金」のほうを重要視したほうがいいと考えている。なぜなら、「お金」と「やりがい」とは、比較してはいけないほどスケール感が違うからだ。

雑談ネタとしてなら比較していいかもしれない。だが、真剣に考えるつもりなら、この後の文章をしっかり読んで、考える材料にしてもらいたい。

では「お金」と「やりがい」について、2つの切り口を用いて考えてみよう。(1)マズローの欲求段階説(2)資本/資産、」「マズローの欲求段階説」から考えてみよう。

まずは(1)の「マズローの欲求段階説」だ。人間の欲求を5段階に分けた、心理学者アブラハム・マズローの理論である。その5段階とは次のとおり。

①生理的欲求→食事・睡眠・排泄など、生理現象や生命にかかわること

②安全の欲求→健康や、安全に暮らせる場所、経済的安定にかかわること

③所属と愛の欲求→友達や恋人、仲間など精神的なつながりにかかわること

④承認(尊重)の欲求→他者から承認・尊敬されたいと思うこと(社会的地位や名誉)

⑤自己実現の欲求→自分の可能性を試したい、伸ばしたいと思うこと

一般的に「お金」と「やりがい」は、どの段階に属するのか? 「お金」は安全の欲求で、「やりがい」は自己実現の欲求だ。優先順位としては、もちろんお金が先にくる。

ただ、お金が増えることで承認欲求が満たされることもあるし、お金をたくさんもらうことで自己実現につながる人もいる。

お金は「安全の欲求」を満たすだけではない、ということも忘れてはいけない。

なぜなのか…やりがいのある仕事を求めていたはずの若手社員「給...の画像はこちら >>

横山 信弘

株式会社アタックス・セールス・アソシエイツ代表取締役社長

経営コンサルタント

※本記事は『若者に辞められると困るので、強く言えません』(東洋経済新報社)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。