大黒柱を失った家族に対する公的保障である「遺族年金」。子の要件がない遺族厚生年金は、受給権が失権しないかぎり、生涯払われ続ける可能性があります。

しかし、離婚や再婚などが絡んでくると、複雑なルールはさらに複雑に……みていきましょう。

複雑怪奇な「遺族年金」受け取りのルール

一家の大黒柱が亡くなった際、残された家族に対する社会保障として支払われる遺族年金。誰がもらえるのか、かなり複雑です。

まず国民年金に由来する遺族基礎年金。死亡した人に「生計を維持されていた」、「①子のある配偶者」「②子」が受け取ることができます。

「生計を維持」とは、「①生計を同じくしていること=同居していること(別居していても、仕送りをしていたり、健康保険の扶養親族であるなどの条件下であれば認められる」「②収入要件(前年の収入が850万円未満、または所得が655.5万円未満であること)を満たしていること」という2つの条件を満たしている状態のことをいいます。

ここでいう子は、「18歳になった年度の3月31日までの子」「または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある子」。

子のある配偶者が遺族基礎年金を受け取っていたり、子に生計を同じくする父または母がいる間は、子の受給権は停止となります。

次に厚生年金に由来する遺族厚生年金。こちらも死亡した人に生計を維持されていたことが第一条件。そのうえで、最も優先順位の高い人が受け取ることができます。優先順位は「①子のある配偶者」「②子」「③子のない配偶者」「④父母」「⑤孫」「⑥祖父母」の通り。

「①子のある配偶者」が遺族厚生年金を受け取っている間は、「②子」の受給権は停止となります。

ただ「妻を亡くした夫」の遺族厚生年金の受給権は、55歳以上であることが条件。55歳未満の場合は、「②子」に遺族厚生年金が支払われます。

「③子のない配偶者」においては、「30歳未満の妻」は5年間のみ受給。「夫」は55歳以上に限り受給できます(受給開始は60歳から)。同じく「④父母」「⑥祖父母」も55歳以上であることが条件。また受給開始は60歳からです。

離婚、再婚、子がいない…複雑さ増す「遺族年金ルール」

なんとも複雑怪奇な遺族年金。さらに「遺族年金、もらえると思ったのに……」と年金事務所に相談しにいったところ、1円も遺族年金がもらえないことが判明、そんなことも。

年収45万円だったという、42歳のサラリーマン夫を亡くしたという女性。あまりにも突然の不幸で何もやる気が起きなかったといいますが、夫の死去により、さまざまな手続きが山積み。

――少しずつでもやらないと

そのひとつが遺族年金の手続きでした。ふたりには子がいなかったので、請求できるのは遺族厚生年金だけ。

遺族厚生年金の支給額は死亡した人の老齢厚生年金の報酬比例部分の3/4。また報酬比例部分の計算では、厚生年金の被保険者期間が300ヵ月未満の場合は、300ヵ月とみなします。女性の場合、ざっと計算したところ、年間62万円ほどの遺族厚生年金がもらえる見込みだったといいます。

しかし年金事務所に相談しにいったところ、「あなたの場合、遺族年金は支給停止となります」と思ってもみないことを告げられたといいます。

――えっ、何かの間違いでは? 私、悪いことでもしていました?

実は、亡くなった夫は再婚。先妻には小学生の子がいて一緒に暮らしています。

そして亡くなった夫は、毎月養育費を払っていました。

このような場合、先妻との子と後妻は生計を維持していないので、先妻との子に遺族基礎年金と遺族厚生年金、後妻には遺族厚生年金の受給権が発生。子に遺族基礎年金の受給権があると、後妻の遺族厚生年金の受給権は停止となり、子に遺族厚生年金が払われることになります。また子の遺族基礎年金は、生計を同じくする実母(夫からすると先妻)がいるため支給停止となり、受け取ることができません。なお、子が高校を卒業するころ、遺族厚生年金の受給権はなくなり、後妻の遺族厚生年金の支給停止は解かれます(図表)

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複雑な遺族年金のルール。

離婚・再婚が絡んでくるとさらに複雑になります。実際に遺族年金が支給されるかどうか、年金事務所や相談会などで確認するのがおすすめです。

[参考資料]

日本年金機構『遺族基礎年金(受給要件・対象者・年金額)』

日本年金機構『遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)』