【東京海上HD】保険の「事前事後」領域拡大へ、建設コンサルのID&Eを買収

東京海上ホールディングス(HD)はメガ3損保のトップを走る。兼営する生命保険事業と合わせた収入保険料は6兆円を超える。

米国を中心に数多くの大型M&Aを手がけ、今やグループ収益の半分を海外で稼ぐ。その同社が今度は国内を舞台に、しかも保険以外の分野で初めて本格的なM&Aに踏み切った。

防災・減災のソリューションを強化

東京海上HDは11月中旬、建設コンサルタント最大手でプライム市場に上場するID&EホールディングスにTOB(株式公開買い付け)を行い、子会社化すると発表した。買付期間は11月20日~2025年1月15日。最大978億円を投じて全株取得を目指す。

東京海上HDは重点戦略の一つとして、事故の未然防止や疾病の予知検知といった保険事業の「事前」領域や、早期復旧、再発防止といった保険事業の「事後」領域での事業拡大を打ち出している。

今回の買収もその流れにあり、防災・減災の取り組みを強化することにある。具体的には、災害リスクの可視化、防災対策の実行、退避・避難、復旧・再建支援など、レジリエンス(災害への対応力)に関する総合ソリューションを一気通貫で提供するのが狙いだ。

ID&Eホールディングスは傘下に中核会社として日本工営を置く。日本工営が2023年7月に持ち株会社制に移行したのに伴い発足した。2024年6月期業績は売上高1589億円、営業利益141億円。

日本工営は1946年に設立。ダム・河川、道路、港湾・空港などの社会資本整備や都市整備にかかわるコンサルタント事業を国内外で展開し、大規模地震や集中豪雨などの災害から社会を守る技術サービスでも実績を積んできた。

グループ内には蓄電、再エネなどのエネルギー関連事業を手がける会社も抱える。

【東京海上HD】保険の「事前事後」領域拡大へ、建設コンサルのID&Eを買収
日本工営を中核とするID&Eホールディングスの本社(都内)

「事前事後」で2つの新会社を設立

東京海上HDは昨年11月に2つの新会社を設立した。一つが防災・減災領域の新規事業に特化した「東京海上レジリエンス」。自然災害の激甚化や人為災害が多発する中、企業活動の維持を後押する。

もう一つが「東京海上スマートモビリティ」。こちらは2024年問題に象徴されるドライバー不足による輸送力の低下、過剰な輸配送による交通渋滞などの社会課題の解決に取り組む。

東京海上HDは今年5月に策定した新中期経営計画(2024年4月~27年3月)で防災・減災とモビリティを事業の新たな軸とする方針を明確にした。防災・減災、モビリティはまさに「保険の事前事後領域」にあたる。

東京海上HDとID&Eは2020年8月以降、こうした防災・減災やモビリティなどの分野で協業を進めてきた経緯がある。

【東京海上HD】保険の「事前事後」領域拡大へ、建設コンサルのID&Eを買収

米国で大型買収を連発

損害保険業界では東京海上HD、MS&ADインシュアランスグループ(傘下に三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険)、SOMPOホールディングス(傘下に損害保険ジャパン)がメガ3損保と呼ばれ、国内シェアの9割を握る。

しかし、人口減や高齢化で国内市場は成熟化が著しい。主力の自動車保険が自動車保有台数の減少という逆風にさらされ、地震や台風などの自然災害の増加よる収支悪化のリスクも高まっている。

こうした中、各社がアクセルを踏み込んできたのがM&Aをテコとする海外事業。国内にあっては非保険事業の拡大による収益源の多様化だ。

海外M&Aは3メガ損保体制ができ上がる2010年代前後から活発化した。なかでも抜きんでたのが東京海上HDで、米国で大型M&Aを連発してきた。

米保険大手のHCCインシュアランスを9400億円の巨費を投じて買収したのは2015年。生損保を問わず、日本の保険会社として今も過去最大だ。

米国ではこれ以前にも2008年にフィラデルフィアを5000億円、2013年にデルファイを2050億円で買収し、着々と足場を固めてきた。2020年にはピュアグループを3250億円で傘下に収めた。欧州では2008年に買収した英保険グループのキルンを主軸に事業を展開している。

新興市場でも布石を打ってきた。2018年にタイ損保大手のセイフティを買収したほか、南アフリカの損保大手ホラードに22.5%を出資して経営に参画した。さらに2021年にはブラジルに現地金融グループと設立した合弁損保を開業した。

国内で初の本格的M&A

翻って、国内ではこれといったM&Aは見当たらず、今回のID&Eが本格的な買収案件の第一弾とみて差し支えない。

非保険事業で先行していているのがSOMPOホールディングス。2015年にワタミから買収した介護子会社などを統合して設立した「SOMPOケア」は現在、介護業界2位に成長し、グループのヘルスケア事業の柱を担う。

今夏にはコンビニジム「チョコザップ」を展開するRIZAPグループに約300億円を出資して話題を集めた。

注目される政策保有株売却

メガ3損保といえば、政策保有株の売却に注目が集まる。企業向け保険料の事前調整問題で取引先の政策保有株を持つことがなれ合いにつながっているとして、金融庁が売却を急ぐよう求めているからだ。

政策保有株は東京海上HD3.5兆円、MS&AD3.6兆円、SOMPO1.8兆円(2024年3月末、時価ベース)。東京海上HDは2030年3月までにゼロとする方針で、足元の2024年度は6000億円の売却を予定している。

売却資金は自社株買いなどを通じた株主還元のほか、M&Aを含めた成長投資の原資となる。拡大が続く海外保険市場の取り込みと並行し、保険の「事前事後」をキーワードとした第2、第3の買収案件も出番をうかがうことになりそうだ。

◎東京海上HDの主な沿革

年出来事 2002 東京海上火災保険と日動火災海上保険が統合し、ミレアホールディングスを発足 2006 日新火災海上保険が合流 〃シンガポールの保険グループ、アジア・ジェネラル・ホールディングスを買収 2008 東京海上ホールディングスに社名変更 〃英国保険グループのキルンを買収〃米損保フィラデルフィア・コンソリデイテッドを買収 2011 米ハワイの損保FICOHを買収 2012 米保険大手(生・損保)のデルファイ・ファイナンシャル・グループを買収 2015 米保険大手のHCCインシュアランスを買収 2018 欧州の再保険子会社2社(トウキョウ・ミレニアム・リーなど)を売却 〃タイの損保大手、セイフティを買収 〃南アフリカの損保大手、ホラードに22.5%出資 2020 富裕層向け米保険のピュアグループを買収 2021ブラジルで合弁損保会社を開業 2022 台湾の新安東京海上に追加出資して子会社化 〃カナダに設立した損保子会社が開業202411月、ID&Eホールディングスの買収を発表

文:M&A Online

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