【いよぎんHD】「愛媛統一」では終わらない?地銀再編の未来予想図は

愛媛県最大の地方銀行グループ、いよぎんホールディングス(HD)<5830>が2026年7月、第二地銀の愛媛銀行との経営統合で基本合意した。2027年4月をめどに持ち株会社体制の下で「2バンク体制」を構築し、地域金融力の強化を目指す。

両行はブランドを維持したまま、経営資源を共有する地域金融モデルを採用する見通しだ。今回の再編はゴールなのか、それとも…。

第二十九国立銀行から始まった再編の歴史

この統合は、人口減少や企業数の減少という地方銀行共通の課題への対応策である一方、伊予銀行にとっては決して突然の出来事ではない。同社の148年に及ぶ歴史を振り返ると、その歩みは「再編」の連続だった。創業から現在に至るまで、地方銀行再編を自ら主導しながら成長してきた。

伊予銀行の創業の地は、現在の本社所在地である松山市ではない。1878年に愛媛県初の銀行として現在の八幡浜市で誕生した、第二十九国立銀行に遡る。県都の松山市では同年に第五十二国立銀行が設立され、県内金融の二大勢力となった。

明治から昭和初期にかけて全国で銀行が乱立すると、金融恐慌や銀行法改正による最低資本金制度の導入を契機に再編が始まる。第二十九銀行も1933年に宇和島銀行を吸収。その後、大洲銀行、八幡濱商業銀行との合同を経て豫州銀行となり、南予地方の金融基盤を固めていった。現在の伊予銀行は、単一銀行が成長したのではなく、県内有力銀行を統合しながら形成された銀行なのである。

一方、松山市を本拠とする第五十二銀行は、1920年に八幡濱銀行を吸収合併し、その後も大野銀行、三津濱銀行を買収、さらに仲田銀行と合併して松山五十二銀行へ発展した。

地域金融機関を取り込み続けた

戦時色が強まる1930年代後半、政府は金融統制を目的に「一県一行主義」を推進。愛媛県では豫州銀行、松山五十二銀行、今治商業銀行の3行に集約された後、1941年9月に3行は合併して伊豫合同銀行となる。

1944年には伊豫相互貯蓄銀行を吸収合併し、県内銀行統合はほぼ完成した。現在の伊予銀行は、この伊豫合同銀行を直接の前身としている。1951年には「伊豫銀行」へ改称し、1990年には現在の「伊予銀行」となった。

その後も再編は続く。1992年には国内最後の相互銀行(現在の第二地方銀行)だった東邦相互銀行を合併。1999年には富士貯蓄信用組合を合併し、営業基盤をさらに拡大した。地方銀行では高度経済成長期以降、目立ったM&Aが減少したが、伊予銀行は地域金融機関の再編を通じて県内トップバンクとしての地位を固めてきた。

ただ、これは同行の拡大戦略と言うよりも、地域金融安定化のための救済合併に近い。県内中小地域金融機関の「駆け込み寺」となったのは、バブル経済期にも堅実な資金運用と貸付を貫き、バブル崩壊後も業績が安定していたからだ。2022年には持ち株会社「いよぎんホールディングス」を設立。銀行単体経営からグループ経営へ転換した。

【いよぎんHD】「愛媛統一」では終わらない?地銀再編の未来予想図は

過去最高益の裏にある危機感

現在のいよぎんHDの業績は好調だ。2026年3月期の親会社株主に帰属する当期純利益は742億円と過去最高益を更新。日本銀行の利上げを背景に貸出金利が改善し、170億円の自己株取得や増配も実施した。

しかし、経営陣の危機感は強い。決算説明会では、現在の収益構造について「資金利益は強い一方で、(銀行が融資の利ざや以外で稼ぐ)役務取引等利益が弱い」と率直に認め、「重要課題」と位置付けている。

地方銀行は、これまで貸出金利による利ざやで利益を稼いできた。だが、人口減少が進む地方では、貸出需要そのものが縮小していく。その対策として、いよぎんHDは「M&Aや事業承継の潜在需要を踏まえて法人営業体制を強化する」と明言した。

地方銀行では珍しく、M&Aを単なる付帯サービスではなく、今後の成長戦略の中核に据えた格好だ。これには愛媛県特有の産業構造も影響している。県内には造船、海運、製紙、食品、農業機械など全国有数の競争力を持つオーナー企業が数多く存在する一方、経営者の高齢化が進み、後継者不足は深刻さを増している。

こうした企業に対し、単に融資を提供するだけではなく、第三者承継やM&Aを含めた解決策を提案することが、新たな金融サービスとして求められている。

「事業承継・成長支援ファンド」で第3の選択肢を提供

その象徴が、グループ会社のいよぎんキャピタルが運営する「いよぎん事業承継・成長支援ファンド」だ。同ファンドは後継者不足企業や成長資金を必要とする地域企業を対象に、株式への投資を通じて事業承継や企業価値向上を支援することを目的としている。

2023年に初号ファンド、2024年に2号ファンド、2026年には3号ファンドを設立し、継続的に事業承継支援の体制を拡充している。3号ファンドでは、M&Aや事業承継支援だけでなく、投資後も経営に深く関与するハンズオン支援による企業価値向上も掲げている。

事業承継といえば、「親族への承継」か「第三者への売却」という二者択一で語られることが多い。事業承継ファンドは、その中間に位置する選択肢だ。

一時的にファンドが株式を保有し、経営改善や組織整備を進めたうえで次世代へ引き継ぐ。地方では後継者不足に加え、人材や資本の不足を抱える企業も少なくない。銀行グループがファンド機能を持つことは、地域企業にとって新たな選択肢となる。

いよぎんHDでは、法人営業担当者が経営者との日常的な対話を通じて事業承継ニーズを把握し、必要に応じてグループ会社や外部専門家と連携する体制を整えている。

今後は、M&A仲介だけではなく、事業承継コンサルティングや企業価値評価、成長投資、PMI(買収後の統合プロセス)まで含めた総合サービスへ発展していく可能性が高い。いよぎんHDが、こうした役務取引等利益を向上させるためにも、規模拡大のための業界再編に向けた動きは不可欠となりそうだ。

【いよぎんHD】「愛媛統一」では終わらない?地銀再編の未来予想図は
(いよぎんHDの公表資料を元にM&A Onlineが作成)
(いよぎんHDの公表資料を元にM&A Onlineが作成)

愛媛銀行統合はゴールではない?

さて、いよぎんHD自身のM&Aに話を戻そう。同行の歴史を振り返ると、その成長は常に再編とともにあった。

戦前は県内銀行を統合して自らが大きくなり、戦後は相互銀行や信用組合を取り込み、愛媛県内でシェアを高めてきた。今回の愛媛銀行との経営統合は、そうした148年の歴史の延長線上にある出来事と言える。

この経営統合は、再編の終着点なのだろうか。必ずしもそうとは言い切れない。四国では現在、香川県の百十四銀行、徳島県の阿波銀行、高知県の四国銀行がそれぞれ独立経営を続けている。2022年度の四国4県の名目県内総生産は合計で約14兆7000億円と、茨城県1県の14兆5000億円に近い。経済規模から見れば、地銀の数はまだ多いとも言える。さらなる再編の可能性もありそうだ。

熊本県の肥後銀行と鹿児島県の鹿児島銀行が統合した九州フィナンシャルグループや、茨城県の常陽銀行と栃木県の足利銀行が統合しためぶきフィナンシャルグループなど、県境を越えた地銀の再編が続く。

瀬戸内経済圏という視点に立てば、中国地方最大級の地銀グループであるひろぎんホールディングスとの連携可能性を指摘する市場関係者もいる。

愛媛銀行との統合によって誕生する新グループは総資産12兆円超となり、地方銀行グループとして全国有数の規模に躍り出る。今後、四国や瀬戸内地域の金融再編を議論するうえで、中心的な存在となることは間違いなさそうだ。

文:糸永正行編集委員

【いよぎんHD】「愛媛統一」では終わらない?地銀再編の未来予想図は
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