【ヤマトホールディングス】CL(コントラクト・ロジスティクス)事業とグローバル事業でM&A 活用

宅配便最大手のヤマトホールディングスはいま、事業の選択と集中、そして新たな成長分野での事業拡大も視野に入れた大きな節目にある。

ヤマト運輸が「宅急便」をスタートさせたのは1976年のこと。

それから半世紀近くがたち、アマゾンやZOZOなどeコマースがここまで人々の日常に欠かせなくなったいま、宅配サービスのない時代のことを想像するのは難しい。

しかし、1976年当時は、まさに画期的なサービスだった。民間企業が全国に配送網を整備して、個から個への運送を可能にすることなど、誰も考えつかなかったのである。

そこには旧運輸省による規制との戦いもあったのだが、ここでは触れない。ここからは直近の話。2023年10月、ヤマト運輸はカタログやダイレクトメールを配送する「クロネコDM便」、受取ポストに投函する「ネコポス」という2つのサービスについて、日本郵便へ移管すると発表して、世間を驚かせた。

なぜなら、両社はかつて両サービスが扱う小型・薄物の荷物をめぐって熾烈なシェア争いを繰り広げ、日本郵便がヤマト運輸にシェアを奪われる、という経緯があったからだ。ライバル企業、というより不倶戴天の敵。しかし、背に腹は代えられなかった。

この歴史的な移管劇の背景には、運輸業界が抱える、いわゆる「物流2024年問題」がある。2024年4月からトラックドライバーの年間残業時間が上限960時間に制限されることにより、輸送能力が不足し、モノが運べなくなる可能性が懸念されるという事態である。

そこでヤマト運輸は、事業の集約化に踏み切った。

それが「クロネコDM便」「ネコポス」の移管であり、今後も日本郵便とは冷凍・冷蔵トラックや郵便ポストの共同利用、郵便局でのヤマト運輸の荷物受取など、協業を深める構想がある。

まさに、節目と言うべきだろう。

顧客企業のロジスティクス企画に参画・支援する事業に注力

このような経営の節目にあたり、当然ながら一方では攻めの姿勢もある。2024年2月に発表した中期経営計画において、ヤマトホールディングスは今後3年間の成長計画の一環として、M&Aを積極化することを表明した。

Eコマースが底堅く成長する一方、宅配便については同業間での競争が激化している。そのようなマーケットの現状にあって、成長領域である CL(コントラクト・ロジスティクス)事業とグローバル事業については、M&Aを活用し、事業拡大に取り組む、としている。

CLとは、在庫管理や流通加工、顧客企業のロジスティクス企画に参画・支援する事業を指す。

つまり、一般的な宅配事業とは違う、BtoBビジネスである。

中期経営計画では、2024年3月期に売上高2100億円を見込むグローバル事業とCL事業を、3年後の2027年3月期には同6600億円、3倍増を想定している。実にアグレッシブな計画であり、これについてはM&Aなしには実現は難しい水準と言える。営業利益への寄与度も、M&Aによって400億円のプラスを見込んでいることから、戦略の柱の一つと言っていいだろう。

ヤマトホールディングスは、これまでM&Aにさほど積極的ではなかった。しかし、既存事業に大きな伸び代が見込めない以上、新たな成長分野について自前主義にはこだわらないというのは、大きな節目にあるべき戦略だろう。

現に、日本郵便との協業に、すでにその一端が現れている。

「KURONEKO Innovation Fund」に注目

同時に注目しておきたいのが、2020年に立ち上げたコーポレート・ベンチャー・キャピタル・ファンド(CVCファンド)「KURONEKO Innovation Fund」である。独立系ベンチャーキャピタル大手のグローバル・ブレインと共同で運営するこのファンドは、おそらくホールディングスにおけるM&Aを含む資本提携に、少なからぬ影響をもたらすのではないだろうか。

ここまでの出資案件をいくつか紹介する。

出資対象 事業内容 シックスティーパーセント アジアのブランドを集約した越境ファッションECサイト「60%(シックスティーパーセント)」などを運営 アクセルスペースホールディングス 小型衛星を活用したビジネスを展開する SiLC Technologies, Inc. 光半導体技術を活用したICチップ型LiDAR(ライダー)を開発する スタイルポート VR技術による仮想空間で不動産物件の内覧が可能なシステムや住宅の購入検討において必要な資料やコンテンツをクラウド上に集約するプラットフォーム機能を備えた空間コミュニケーション・プラットフォーム「ROOV(ルーブ)」を提供する

Eコマース、宇宙、半導体、DXと、投資対象はさまざまで、必ずしも運輸業とダイレクトにはつながらないビジネスもある。しかし、共通項は「未来型ビジネス」という点で、おそらくこれからも案件は増えていくだろう。


本業と非本業を合わせて、ヤマトホールディングスの事業戦略は拡大を目指す。M&Aないし資本提携は、そのテコの一つとして、同社を『「運ぶ」を通じて、「豊かな社会の実現」に貢献する』未来へドライブしていくことになる。