
愛媛県の第二地銀、愛媛銀行<8541>の特徴として、2000年頃から、関連会社として、いくつかの投資事業有限責任組合(LPS)を設立していることが挙げられる。同行ホームページの「沿革」によると、その内容は下表のとおりだ。
設立・出資年 名称 2004年8月 投資事業有限責任組合えひめベンチャーファンド2004 2006年11月 えひめガイヤファンド投資事業有限責任組合 2013年3月 えひめガイヤ成長産業化支援ファンド投資事業有限責任組合 2013年8月 投資事業有限責任組合えひめベンチャーファンド2013 2014年9月 えひめアグリファンド投資事業有限責任組合 2018年3月 えひめ地域活性化投資事業有限責任組合
これらのファンドの設立目的を見てみよう。
2014年9月の「えひめアグリファンド」は、2006年に農林漁業者等を対象として投資を行う目的で設立した「えひめガイヤファンド」の後継ファンドである。以前は規制されていた農業法人への直接投資が可能となったのを受けて設立した。
2013年8月の「えひめベンチャーファンド2013」は、京都市のフューチャーベンチャーキャピタル<8462>と共同で設立した「えひめベンチャーファンド2004」の後継ファンド。愛媛県内を中心に将来大きく成長が期待できる企業に投資し、専門家を派遣するなどハンズオン活動を通じて企業価値の向上を図りながら株式上場を目指すことで、地域経済の発展への寄与を目的としている。
2013年3月の「えひめガイヤ成長産業化支援ファンド」は地域の1次産業と関連する2次・3次産業の融合による6次産業化に寄与すべく、農林漁業者と加工・販売業者との連携を支援し、資金面での援助を行い地域経済を活性化させることが目的だ。
2018年3月の「えひめ地域活性化投資事業有限責任組合」は、フューチャーベンチャーキャピタルと愛媛銀行の連結子会社であるひめぎんリースが管理運営・出資する「えひめ地域活性化ファンド」に、ゆうちょ銀行とともに出資した。同行の営業エリアである愛媛県をはじめ四国・中国地方に本社や主要拠点を置き、地方活性化への貢献が期待される新規性や成長性の高い未上場会社に出資することを目的としている。
2020年に、SBIインベストメントが設定・運営する「SBI4&5投資事業有限責任組合B1号」に1億円を出資した。2022年には、ひめぎんリースと2011年7月にフューチャーベンチャーキャピタルから独立したFVCアドバイザーズ(京都市)との共同出資で、SDGs(持続的な開発目標)を経営に取り込む瀬戸内地域の企業を投資対象とした「せとうちSDGsファンド」を設立した。
こぞってLPSに進出するワケ
LPSは、1998年11月に施行された「中小企業等投資事業有限責任組合契約に関する法律」に基づく。LPSの設立により、業務執行を行わない組合員は有限責任で出資でき、さらに2006年の法改正により、投資対象は中小企業だけでなく「事業者」であればよいことになった。加えて2019年10月には銀行法施行規則が改正され、銀行等の議決権保有制限(いわゆる「5%ルール」)の例外措置が拡充・新設された。
一見すると、預貸業務から投資回収業務に大きく舵を切ったかにも見える経営姿勢。実は愛媛銀行に限ったことではない。2019年12月には三重県を地盤とする百五銀行が、地銀として国内初の投資専門子会社「百五みらい投資」を設立した。2022年2月には山口フィナンシャルグループ3行(山口銀行、もみじ銀行、北九州銀行)と十六銀行、南都銀行、百十四銀行、愛媛銀行の4行が、地域企業の事業承継を支援するファンド「地域未来共創Searchファンド」を設立している。
このように、特に第二地銀ではエクイティビジネスに大きな活路を見いだしている。しかし、愛媛銀行としては、「ふるさとの発展に役立つ銀行」という基本理念は変わらず持ち続けているので、「新たな経営手法を実現した」ということだろう。
県内無尽5社が大合同して誕生
その愛媛銀行はもともと、1943(昭和18)年3月に愛媛県内の無尽会社5社が合併し、松山市に愛媛無尽として設立された。5社とは東豫無尽蓄積、今治無尽、松山無尽、常磐無尽、南豫無尽金融である。この愛媛無尽は1950年12月に伊予殖産無尽を買収(営業譲受け)している。
1951年10月に相互銀行法の制定で愛媛相互銀行となり、1989年2月に普通銀行に転換し、愛媛銀行となった。普通銀行となって以降は、2000年10月に北温信用組合と合併している。
無尽組織→相互銀行→普通銀行は、第二地銀が歩んできた“お約束”の発展の歴史である。そのうえで、新たな経営手法・地域貢献のあり方が試されているということになる。
文・菱田秀則(ライター)