「公益社」の燦HD、葬儀最大手が業界再編を先導 2年連続で上場の同業者を買収へ

「公益社」を中核とする葬儀最大手の燦ホールディングス(HD)が業界再編のアクセルを踏み込んでいる。昨年は「家族葬のファミーユ」のきずなホールディングス、今年は冠婚葬祭業のこころネットの買収を繰り出した。

買収対象の両社はいずれも上場企業。葬儀業界ではコロナ禍を契機に葬儀の小型化・簡素化が大きな流れとなる中、再編機運が高まっており、こうした動きを先導する形だ。

こころネットの買収を発表

燦HDが10月24日に子会社化を発表したこころネットは、葬儀事業をはじめ墓石などの石材事業、婚礼事業、生花事業と、幅広く手がける。福島県を地盤とするが、近年は県外での事業展開に注力している。2025年3月期業績は売上高0.8%増の101億円、営業利益13.5%増の7億4600万円。

こころネットはM&Aに積極的なことで知られる。これまで茨城県、栃木県、山梨県で地元の葬儀会社を、ベトナムでは墓石販売会社を買収してきた。今回は一転、攻守所を変えて燦HDの傘下に入ることになった。

燦HDはこころネットを取り込むことで、出店地域の相互補完や葬儀以外の周辺事業での相乗効果創出につなげる。株式交換の手続きで2026年2月1日付で同社を完全子会社化する予定。これに伴い、こころネットは東証マザーズへの上場が廃止となる。

昨年は家族葬のきずなHDを傘下に

燦HDとして過去最大のM&Aとなったのは昨年10月、東証グロース上場で「家族葬のファミーユ」を展開する、きずなホールディングスの子会社化だ。TOB(株式公開買い付け)などに総額約150億円を投じた。当時の売上高(2024年3月期224億円)の7割近くに相当する社運を賭けた大型買収だった。

狙いは家族葬領域の強化。故人に所縁のある多くの参列者が集まる従来タイプの一般葬にとどまらず、新領域の家族葬を含めた幅広い葬儀形式・価格帯をカバーする態勢づくりを一気呵成に進めるものだ。

家族葬については燦HD自身、2023年に「エンディングハウス」と名付けた新ブランドを立ち上げ、緒に就いたばかりだった。

きずなHDは2000年に東京都内で設立し、新ジャンルの家族葬に乗り出した。現在、1日1組限定の家族葬会館「家族葬のファミーユ」を中心に11都道府県に150を超えるホールを展開。燦HDによる買収当時の売上高は121億円(2024年5月期)。

売上高500億円に迫る

燦HDは2022年5月に策定した創業100周年(2032年)に向けた長期ビジョンで、「葬儀事業の拡大」と「ライフエンディングサポート事業の拡大」を2本柱に据えた。このうち、「葬儀事業の拡大」に沿った施策展開が一連の大型買収というわけだ。きずなHD、こころネットの両社を傘下に収めることで、売上高は500億円に迫る。

「公益社」の燦HD、葬儀最大手が業界再編を先導 2年連続で上場の同業者を買収へ
燦ホールディングスの業績推移

高齢者人口の増加を背景に葬儀需要は今後も継続的な拡大が見込まれる一方、コロナ禍以降、家族葬の広がりに象徴されるように葬儀の小規模化・簡素化の動きが定着し、葬儀単価の低下が加速。さらにネット系仲介業者が台頭し、受注競争も激化しており、葬儀各社は事業基盤の再構築が急務になっている。

葬儀関連のM&A、最多ペースで推移

こうした中、葬儀とその関連業界を対象とするM&Aも活発化している。今年は燦HDによるこころネットの案件を含めて5件(上場企業の適時開示ベース)を数え、2019年の4件を上回り、過去10年で最多ペースで推移中だ。

広済堂ホールディングスは9月、神奈川県で葬儀場を運営する横濱聖苑(横浜市)、セレモライフ(同)の2社を子会社化すると発表した。

取得日はいずれも11月1日付。広済堂HDは印刷業を祖業とするが、東京都内で斎場・火葬場を展開する東京博善(東京都港区)を子会社として抱える。

マンション分譲の穴吹興産は6月、霊園企画・運営のエムジープランニング(神奈川県小田原市)や石材製造のMG石材(静岡市)などを傘下に置くMGグループを子会社化した。新規霊園開発の加速や既存霊園の販売力強化につなげるという。

霊園や納骨堂を販売・運営するニチリョクは9月、事業ポートフォリオ見直しの一環として、家族葬専用式場「ラステル新横浜」(横浜市)を、葬儀や仏壇・仏具事業などを手がける金宝堂(東京都渋谷区)に売却した。

葬儀大手の顔ぶれは?

葬儀会社は葬儀社専業の事業者と冠婚葬祭全般を手がける事業者に大別される。前者は燦HD、広済堂HDに加え、名古屋を地盤とするティアが株式を上場している。

後者の冠婚葬祭全般の事業者としてはサン・ライフホールディングス(神奈川県が地盤)、平安レイサービス(同)、燦HDの傘下に入ることになったこころネットが上場するほか、ベルコ(大阪府池田市)、日本セレモニー(山口県下関市)、セレマ(京都市)、アークベル(新潟市)、レクスト(名古屋市)などの非上場大手が割拠している。

「公益社」の燦HD、葬儀最大手が業界再編を先導 2年連続で上場の同業者を買収へ
葬儀関連を対象とする主なM&A

文:M&A Online

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