
西武ホールディングス<9024>は、2022年6月に「ザ・プリンスパークタワー東京」や「苗場プリンスホテル」などのシティホテル・リゾートホテル、ゴルフ場、スキー場など全国の31施設を1,471億円で売却すると発表しました。
物件を取得したのは、シンガポール政府投資公社(GIC)。
今後も日本の入国規制が解除されることを見込んで、ホテル・旅館などの宿泊施設への投資に意欲を見せています。GICとはどのような投資ファンドなのでしょうか?
この記事では以下の情報が得られます。
・GICの概要
・ポートフォリオ
全体の17%が未公開株への投資
GICは、シンガポール政府が所有する投資会社テマセク・ホールディングス、シンガポール金融管理局と並び、政府の外貨準備を運用する3つの投資機関の1つ。1981年に設立されました。運用資産規模は公表されていないものの、ブルームバーグは86兆円相当を運用していると報じています。
2017年1月に最高経営責任者に就任したLim Chow Kiat(リム・チョウ・キアット)氏は、シンガポールの名門大学である南洋理工大学にて会計学を学びました。大学卒業後にポートフォリオマネージャーとしてGICに入社。債券、通貨、コモディティ部門の責任者に就任しています。
欧州、アフリカ、中東での投資経験があり、現在もフランス国債庁で戦略委員を務めるなど、幅広いフィールドで活躍しています。
GICは先進国株に14%、新興国株に16%、債券に43%、不動産に10%、未公開株に17%投資をしています。

エリア別でみると、日本は7%、アメリカが37%、ユーロ圏が8%、イギリスが4%などとなっています。
GICは20年の移動平均実質収益率を重視しており、2021年が4.3%でした。
アメリカを中心とした急速な利上げで株式市場は混乱していますが、GICは投資に積極的な姿勢を見せています。2022年9月にアメリカの商業用不動産REITであるストア・キャピタル(アリゾナ州)を140億ドルで買収すると発表。1株当たり32.25ドルで、20.4%ものプレミアムをのせての買収となります。
同じく2022年9月にギリシャを本拠地とするリゾート会社サニ/イコスグループの過半数の株式を22億7,000万ドルで取得し、戦略的提携を締結しました。
新興企業への投資も行っています。2022年9月シンガポールに拠点を置くモバイル決済サービスCoda Paymentsへの出資を決めました。共にニューヨークを拠点とするPEファンドSmash CapitalとベンチャーキャピタルInsight Partners、GICが合計で6億9,000万ドルを投じています。
物流特化型リートを2012年に上場
GICは2008年に770億円でウェスティンホテル東京を買収しました。
ウェスティンホテル東京はビール工場跡地だった恵比寿ガーデンプレイスの再開発事業と同時期に建設され、サッポロビール(東京都渋谷区)が所有していました。2004年にモルガン・スタンレー(ニューヨーク州)が運用する不動産ファンドが500億円で買収。それをGICが取得しました。
GICは新型コロナウイルス感染拡大前の2019年末に、中国系の投資会社ブライト・ルビーに1,000億円で売却しています。
ホテルへの出資はシェラトン・グランデ・トーキョーベイ・ホテルも有名。1998年4月の開業当時は大成建設<1801>が所有していました。2007年3月にモルガン・スタンレーとスターウッド・ホテル&リゾート(コネチカット州)の合弁会社が取得。現在はソフトバンクグループ<9984>傘下にあるフォートレス・インベストメント・グループ(ニューヨーク州)が、2013年8月に500億円で買収しました。
2017年9月にGICとインヴィンシブル投資法人<8963>が共同で取得しました。取得価格は977億円。GICの投資は515億円と言われています。
GICによる西武グループのホテル・リゾート施設の買収、ホテルや旅館に対する積極的な投資姿勢を見せているのは、日本のコロナ後の観光産業の盛り上がりに期待してのものでしょう。折しも空前の円安で、外国人観光客は訪問しやすい土壌が整っています。2022年9月7日から添乗員の同行を伴わないパッケージツアー受け入れを開始。秋冬の観光シーズン前に門戸を開きました。
また、GICは物流にも力を入れています。
2009年に物流不動産の開発、管理・運用を目的とした投資会社GLPを設立。日本法人である日本GLP(旧:GLプロパティーズ 東京都港区)を、GICが物件を所有する汐留シティセンター内に立ち上げました。物流特化型のJ-REITであるGLP投資法人<3281>を2012年12月に上場させます。
2022年2月末時点でGLP投資法人は86物件を所有し、取得総額は7,800億6,200万円。物件の稼働率は99.1%と堅調。鑑定評価額は9,838億3,800万円で、含み益は2,385億1,700万円、含み益率は32.0%に達しています。
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