
キノコのホクト<1379>が、およそ10年ぶりとなるM&Aにふみ切る方針だ。
同社では前中期経営計画について「業績計画未達の要因は、エネルギー・原料高によるコストアップ対応の遅れと国内での販売量が予定を下回ったこと、予定していた海外工場の建設・M&Aが未達であったことが主」としているだけに、M&Aの実現に向け本腰を入れることなりそうだ。
売上高1000億円の大台に
M&Aは2029年3月期を最終年とする5カ年の中期経営計画の中に明記したもので、前中期経営計画中にM&Aが実現しなかったため、改めて新しい中期経営計画に盛り込んだ。
2026年3期を最終年とする5カ年の前中期経営計画では、最終年1年前の2025年3月期に売上高836億円、営業利益76億円を目指していたが、実績は売上高831億円、営業利益66億円に留まった。
目標未達の要因の一つがM&Aの不成立であるとし、最終年の2026年3期を待たずに、新たな中期経営計画を策定し、実現に向けたM&A計画を策定した。
その計画では、米国での生産、販売体制の強化と、加工品事業の拡大などを目的にM&Aを検討する。
生産面では2026年、2027年の2年間は、米国西部地域で新工場の建設準備を進め、2028年以降に、新工場(ブナシメジ年間3000トン規模)の稼働を始めるとともに、M&Aによってさらに生産能力を高める。
販売面では生産と同様に2026年、2027年の2年間は、代理店手数料の削減や、マーケティング活動の強化、値上げなどに取り組み、2028年以降にM&Aなどを活用して米国東部地域で拠点を獲得し販売を拡大する。
加工品事業では、新種の開発のほか冷凍キノコやサプリメントを中心にM&Aを活用してキノコ隣接領域や、非キノコ領域への展開を目指す。
こうした取り組みで2029年3月期には、売上高を大台の1000億円に乗せ、営業利益は100億円を目指す計画だ。
シェア拡大の余地は十分
米国のキノコ市場は成長を続けており、中でもホクトが扱うスペシャリティキノコ市場は拡大が急で、同社では2023年から2030年までの間の米国での年平均伸び率はキノコ全体の9.3%対し、スペシャリティキノコは同12.0%を見込む。
スペシャリティキノコは機能性の高いキノコで、カルシウムの吸収を助けるビタミンDや腸内環境を整える食物繊維が多く含まれるマイタケや、食物繊維やビタミン、ミネラルが豊富なエリンギ、食物繊維が豊富なブナシメジなどを指す。
ホクトでは、同社が手がけるキノコと同種類のキノコを安定量産できる競合他社が米国市場に存在せず、中国産や韓国産の輸入に頼っているため、シェア拡大の余地は十分にあると判断している。
キノコの研究、開発、生産、販売の一貫体制
ホクトは1964年に長野市でデラップス商事を設立、一般包装資材の販売を始めた。1968年にキノコ栽培用のP.P(ポリプロピレン)ビンの製造に着手し、1983年に長野市にきのこ総合研究所を設置。
この3年後の1986年にエノキタケ新品種ホクトM-50を開発したあと、ブナシメジやエノキタケ、ヒラタケ、マイタケ、エリンギなどを相次いで投入していった。
この間の主なM&Aは2件で、2013年にカレーやスープ、和食材などのレトルトパウチ食品の製造を手がけるアーデン(長野県小諸市)を、2017年にはキノコサプリメントを手がける米国のMushroom Wisdomと関連会社のサン・メディカ(東京都港区)を子会社化した。
同社はキノコの研究、開発、生産、販売を一貫して行っているのが強みで、同社が運営する、きのこ総合研究所では苦味の強かったブナシメジから苦味を取り除くなどの品種改良をはじめ、エリンギの肥満予防やマイタケの抗アレルギー作用、ブナシメジの動脈硬化予防作用などを明らかにしている。
現在はキノコの生産、販売を行う国内キノコ事業(2025年3月期の売上高約551億円)、同海外キノコ事業(同約77億円)、キノコの加工品を扱う加工品事業(同約81億円)、包装資材を扱う化成品事業(同121億円)で構成している。
M&Aは主に、売上高構成比10%ほどの海外キノコ事業で実施する予定で、今後構成比が大きく変わることもありそうだ。

文:M&A Online記者 松本亮一
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