日立建機に出資をした投資ファンド・日本産業パートナーズとは

日立製作所<6501>が、保有する建設機器大手の日立建機<6305>の株式51.5%のうち、26.0%を売却すると2022年1月14日に発表しました。売却先は投資ファンド・日本産業パートナーズ(千代田区)と伊藤忠商事<8001>。

売却額は1,825億円で、2022年6月に譲渡する予定です。伊藤忠商事と日本産業パートナーズは50.0%ずつを出資して合弁会社を設立。合弁会社が日立建機の株式26.0%を保有することになります。

日本産業パートナーズは、米投資ファンド・ベインキャピタル、ジャパン・インダストリアル・ソリューションズ(千代田区)とともに日立金属<5486>にTOBを実施し、成立後に日立製作所から保有する株式53.38%を2022年度中に譲受する予定です。

日立の組織再編に深く関与する日本産業パートナーズとはどのような会社なのでしょうか?この記事では以下の情報が得られます。

・日本産業パートナーズの概要
・投資先一覧
・業績推移

バブル崩壊後の選択と集中を目の当たりに

日本産業パートナーズは事業会社の再編やカーブアウト、中堅企業の事業再構築における資本提供、経営支援を専門に扱う会社です。これまで、オリンパス<7733>の携帯電話販売代理店ITX(横浜市)やソニー<6758>のパソコン事業だったVAIO(長野県安曇野市)、日本電気<6701>のプロバイダ事業NECビッグローブ(品川区)の買収や出資、経営支援を行っています。大手企業の再編を促すカーブアウト案件で陰の立役者としての活躍が目立ちます。

日本産業パートナーズの特異な性格は、創業者で現在も代表取締役社長を務める馬上英実(もうえ・ひでみ)氏の経験が反映されています。馬上氏は東京大学経済学部卒業後、ペンシルベニア大学ウォートン校でMBAを取得。日本興業銀行ロンドン支店・本店勤務を経て興銀証券コーポレートファイナンス部長を務めました。

日本がバブルの崩壊で苦境にあった1990年代後半に日本興業銀行の法人営業、興銀証券で仕事をしていた馬上氏は、大手企業の選択と集中を進める真っ只中にありました。大企業のカーブアウトに商機を見出して投資ファンドを設立します。

日本産業パートナーズはみずほフィナンシャルグループ<8411>の傘下にありましたが、これは興銀出身の馬上氏がファンド設立時に会社からの出資を受けたためです。2012年3月期にグループから外れ、みずほの影響力は低下しています。

2002年12月に1号ファンド(日本産業第一号投資事業有限責任組合)、2005年2月に2号ファンド、2008年7月に3号ファンド、2013年3月に4号ファンド、2018年3月に5号ファンドを立ち上げています。規模は3,200億円です。

■日本産業パートナーズ業績推移(単位:百万円)

2018年3月期 2017年3月期 2018年3月期 2019年3月期 純利益 2,440 1,016 385 468

※決算公告をもとに筆者作成

■投資先一覧

会社名 概要 出資時期 多摩電子工業株式会社 携帯電話関連機器・PC周辺機器等の製造販売を手掛ける多摩電子工業の事業承継 2021年8月 OMデジタルソリューションズ株式会社 オリンパスの映像事業のカーブアウト 2021年1月 奥村金属株式会社 古河電気工業グループの銅管・銅管加工事業のカーブアウト 2020年6月 日本アビオニクス株式会社 NECの子会社で電子機器事業を手掛ける日本アビオニクスのカーブアウト。
NEC保有分(議決権の50.3%)を取得 2020年1月 株式会社市川環境ホールディングス 環境・リサイクル事業(バイオマス含む)を手掛ける市川環境ホールディングスの事業承継 2018年10月 株式会社日立国際電気 日立国際電気をKKRと共同で非公開化の後、映像・通信ソリューション事業をカーブアウト。 2018年6月 アラクサラネットワークス株式会社 日立製作所とNECの合弁会社のカーブアウト。日立保有分(議決権の6割)を取得。 2018年3月 EMデバイス株式会社 NECトーキンのメカニカルリレー事業部門のカーブアウト 2017年4月 株式会社ナルミヤ・インターナショナル 子供服の製造加工販売を手掛けるナルミヤ・インターナショナルへの投資 2016年7月 九州三井アルミニウム工業株式会社 三井グループ傘下でアルミ素材事業を手掛ける九州三井アルミニウム工業のカーブアウト 2015年9月 VAIO株式会社 ソニーのPC事業(VAIO)のカーブアウト 2014年7月 NECビッグローブ株式会社 NEC傘下でISP事業を手掛ける子会社のNECビッグローブのカーブアウト 2014年3月 アイ・ティー・エックス株式会社 オリンパス傘下で携帯電話販売事業を手掛ける子会社のアイ・ティー・エックスのカーブアウト 2012年9月 株式会社すかいらーく レストランチェーン店の運営を手掛けるすかいらーくへの投資(Bain Capitalなどとの共同投資) 2011年11月 協和発酵ケミカル株式会社 協和発酵キリン傘下でバイオケミカル事業を手掛ける協和発酵ケミカルのカーブアウト 2011年3月 株式会社ジェイ・エー・エー 東証2部上場企業で業者向け中古車オークションの運営を手掛けるジェイ・エー・エーのMBO 2010年6月 ヤマハリビングテック株式会社 ヤマハ傘下で住宅機器の製造業を手掛ける子会社のヤマハリビングテックのカーブアウト 2010年3月 アルファナテクノロジー株式会社 日本ビクターのモータ事業部門のカーブアウト 2008年3月 オプトレックス株式会社 三菱電機と旭硝子の合弁企業で中小型液晶パネル製造業を手掛けるオプトレックスのカーブアウト 2008年2月 サンテレホン株式会社 東証1部上場企業で情報通信機器の専門商社であるサンテレホンのMBO 2007年3月 キューサイ株式会社 東証2部上場企業で食品加工品業を手掛けるキューサイのMBO 2006年12月 株式会社トヨタケーラム トヨタ自動車傘下でCAD/CAMソフトウェアの製造業を手掛ける子会社のトヨタケーラムのカーブアウト 2006年11月 エルナー株式会社 旭硝子関連会社で各種コンデンサ・プリント配線板製造業を手掛けるエルナーに対するPIPE投資 2006年4月 株式会社ユタカ電機製作所 新日本製鐵傘下で各種電源の製造業を手掛ける子会社のユタカ電機製作所のカーブアウト 2006年1月 国内信販株式会社 クレジット、カードローン、信用保証業務を手掛ける国内信販への投資 2004年5月 レーザーフロントテクノロジーズ株式会社 日本電気のレーザ加工機部門のカーブアウト 2004年3月 株式会社SIIマイクロパーツ セイコーインスツル傘下でマイクロ電池事業を手掛ける子会社のSIIマイクロパーツのカーブアウト 2003年11月

ホームページの情報をもとに筆者作成

伊藤忠が日本産業パートナーズのSPCに融資する特殊なスキーム

日立製作所は日立建機の株式を売却した後も、25.4%の株式を継続して保有します。連結対象からは外れますが、日立建機は持分法適用会社として日立グループの傘下にあり、上場も維持されることとなりました。日本産業パートナーズと伊藤忠による今回の資本参加は、珍しいスキームが組まれています。

■ストラクチャー概要

日立建機に出資をした投資ファンド・日本産業パートナーズとは
伊藤忠商事「日立建機株式会社との資本提携及び特定子会社の移動に関するお知らせ」より

伊藤忠は子会社で金融サービスを提供する伊藤忠トレジャリーを通じて、日本産業パートナーズが設立した特別目的会社HCJホールディングス2に融資を実行。

HCJホールディングス2が50.0%、伊藤忠の投資会社シトラスインベストメントが50.0%を出資して合弁会社HCJIホールディングスを設立するというもの。このHCJIホールディングスが日立建機の株式26.0%を保有します。HCJIホールディングスの代表・職務執行者は日本産業パートナーズの馬上氏です。

HCJIホールディングスは2022年1月21日に日立建機の株式25.70%を保有する大量保有報告書を提出しています。大量保有報告書の中で、譲渡(2022年6月予定)実行後から5年間は株式の追加取得、譲渡を行わないことが記載されています。

日立建機の業績は、新型コロナウイルス感染拡大による景気減速の影響を強く受けています。2021年3月期の売上収益は前期比12.7%減の8,133億円となりました。

■日立建機売上収益と営業利益の推移

日立建機に出資をした投資ファンド・日本産業パートナーズとは
※「2021年3月期決算説明資料」より

しかし、中国や欧州、米国の景気回復の波に乗り、業績は回復する見込みです。2022年3月期の売上収益は前期比16.8%増の9,500億円を予想しています。純利益は402.9%増の520億円で着地する見込みです。

日立建機の業績回復のカギを握るのが北米事業です。伊藤忠商事は1973年に100%子会社MULTIQUIPを設立し、北米全土で小型建機や発電機を製造販売していました。

MULTIQUIPは米国政府や建設会社など4,000社の顧客を抱えています。また、伊藤忠は2020年3月に建設機械レンタルのBigRentzと資本業務提携を締結しました。BigRentzはアプリ経由でレンタルの予約、支払い、取引管理を行うプラットフォームを構築し、大手・中堅企業を中心に2,500社を超えるレンタル会社と提携しています。ユーザー数は25,000を超え、取引実績は11万件にも上っています。

日立建機は農業機械大手のディア&カンパニーとの業務提携を2022年2月末で解消します。日立建機はこれまで、ディア&カンパニーの代理店ネットワークを活用して北米市場でのシェアを高めてきました。提携解消により、単独での事業伸長を模索することになります。その点、伊藤忠の北米での販売ネットワークは強い味方となります。

また、日立建機は新車販売から部品交換などのメンテナンスから遠隔監視などのソリューションへと注力事業をスイッチしていました。建設機械のレンタルとソリューションの相乗効果にも期待ができます。

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