
漢方薬大手のクラシエ(東京都港区)が、M&Aに踏み切った。
同社は2025年7月31日に、漢方薬をもとに商品化した飲食物や化粧品などを販売する「DAYLILY」(デイリリー)の企画、開発、運営を行うDAYLILY JAPAN (東京都中央区)を子会社化した。
クラシエの沿革では、山城製薬の経営権を譲り受けた1966年以降、主だった企業や事業の買収実績は見当たらない。
今回の企業買収を機にクラシエはM&Aを積極化させるのだろうか。
台湾の漢方文化や健康習慣を融合
DAYLILY JAPANは、台湾発のライフスタイルブランドとして事業を展開しており、女性向けに心と身体を養生する茶や菓子、気分を上げるライフスタイル雑貨、化粧品などの商品を開発。
現在は国内5店舗(誠品生活日本橋店、有楽町マルイ店、大阪ルクアイーレ店、札幌ステラプレイス店、博多マルイ店)と、オンラインストアで販売している。
一方、クラシエは「漢方を通じて日本に暮らす人々が理想とする健康的な暮らしを作ることをサポートする」との方針を打ち出しており、「漢方をライフスタイルとして広げていきたい」というDAYLILY JAPANの想いと合致しM&Aが実現した。
今後は、クラシエが長年培ってきた商品開発力や研究開発の知見と、DAYLILYが持つ台湾の漢方文化や健康習慣を融合し、新たな商品づくりや販路の拡大に取り組むという。
ヘアカラー大手のホーユー傘下に
クラシエは1887年に、東京の鐘ヶ淵で東京綿商社を設立したのがスタート。1889年に紡績工場を操業し事業を拡大、1893年に社名を鐘淵紡績に変更した。
1964年にカネボウハリスを設立し、菓子事業に進出したのに続き、1966年には 山城製薬の経営権を譲り受け、薬品事業に進出。1978年には漢方エキス錠シリーズ(八味地黄丸料エキス錠)を発売するなど業容を拡大していった。
2001年にカネボウに社名を変更したあと、業績が悪化。2004年に産業再生機構の支援が始まり、2005年には東京証券取引所、大阪証券取引所の上場が廃止となった。
2006年に産業再生機構による支援が終了し、アドバンテッジパートナーズ有限責任事業組合などの関連ファンドが新スポンサーとなり事業を拡大。
2007年に現在のクラシエに社名を変更し、2009年にヘアカラーや頭髪化粧品大手のホーユー(名古屋市)がファンドから株式を取得し親会社となった。

今後も漢方薬需要は拡大
クラシエはドラッグストアなどで購入できる一般用の漢方薬で高いシェアを持つほか、漢方薬で培った研究開発技術の、化粧品などのスキンケア製品への応用や、漢方薬や化粧品などの販売チャネルの相互活用などに強みを持っており、2024年12月末時点の年商は934億円だった。
このうち葛根湯や芍薬甘草湯などの漢方薬の薬品事業が39%、シャンプーや基礎化粧品などのトイレタリー・コスメティックス事業が36%、菓子やアイスクリームなどの食品事業が25%を占める。
主力の漢方薬については、クラシエが2024年12月にまとめた漢方薬の市場動向によると、漢方薬市場は一般用、医療用ともに過去6年間は拡大しており、2024年の市場規模は一般用が717億円、医療用は2140億円に達する見込みとしている。
今後についても高齢化や健康志向の高まりを受け、セルフケア(自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること)の定着が進むことで、漢方薬に対する需要は拡大すると見る。
こうした背景を踏まえ同社では、漢方の思想や考え方を取り入れることで、自然と調和した「医食美・快適」の領域で新たな価値創造を目指すとの成長戦略を掲げる。
今回のM&Aはこの戦略の一環であり、戦略実現に向けたM&Aは、今回限りではないとみてよさそうだ。
文:M&A Online記者 松本亮一
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