マクドナルドの強さ コロナ禍で鮮明に

飲食業界が未曽有の危機に見舞われる中、日本マクドナルドホールディングス<2702>の業績が堅調に推移しています。2020年12月期の売上高は前期比2.3%増の2,883億3,200万円、営業利益は11.7%増の312億9,000万円となりました。

競合のモスフードサービス<8153>は、2021年3月期の営業利益を前期比62.3%減の4億円と予想しています。

マクドナルドがこれほど好調な理由はどこにあるのでしょうか。この記事では以下の情報を得られます。

・マクドナルドとモスバーガーの業績比較
・コロナ禍で強みを発揮できたマクドナルドの特徴

ハンバーガー業界は軒並み売上増となった緊急事態宣言

初の緊急事態宣言という異常事態に陥った2020年4月、飲食店の客数が急減しましたが、テイクアウト需要も取り込めるハンバーガー業界の強さが際立ちました。ファミリー層向けの持ち帰り商品が売れ筋となり、客単価が上昇して売上が前年を上回る結果となったのです。この現象はマクドナルド、モスバーガーともに同じでした。同じファストフード店でも牛丼の吉野家の売上と比較するとその差がわかります。

■月次売上推移(マクドナルド)

2020年 客数 客単価 売上高 4月 81.1% 131.4% 106.7% 5月 79.3% 145.3% 115.4% 6月 80.6% 120.1% 97.2% 7月 86.8% 116.4% 101.4% 8月 96.8% 116.1% 112.9% 9月 91.5% 116.2% 106.8% 10月 95.6% 115.7% 111.2% 11月 92.5% 118.5% 110.2% 12月 92.6% 115.7% 107.9%

■月次売上推移(モスフードサービス)

2020年 客数 客単価 売上高 4月 81.7% 127.0% 103.7% 5月 85.8% 130.7% 112.2% 6月 90.3% 117.7% 106.2% 7月 91.8% 116.1% 106.6% 8月 91.0% 113.1% 102.9% 9月 90.0% 111.4% 100.3% 10月 98.1% 118.8% 107.7% 11月 106.8% 109.8% 123.5% 12月 102.0% 115.6% 114.2%

■月次売上推移(吉野家)

2020年 客数 客単価 売上高 4月 99.0% 97.0% 96.0% 5月 90.8% 102.1% 92.7% 6月 81.1% 108.1% 87.7% 7月 89.8% 105.1% 94.3% 8月 80.2% 103.7% 83.2% 9月 87.6% 103.7% 90.8% 10月 92.4% 108.7% 100.4% 11月 90.3% 103.4% 93.4% 12月 84.7% 104.8% 88.8%

牛丼は家族で食べるニーズにマッチしづらく、ファミリー層の需要をうまくとらえることができませんでした。吉野家は5月から客単価が上がりますが、上昇幅は2桁増のハンバーガーには程遠い状態です。

■マクドナルド・モス・KFCの売上高比較

売上高(百万円) 前年比 マクドナルド 288,332 +2.3% モス 70,000 +1.5% KFC 86,500 +8.6%

*マクドナルドは2020年12月期、モスとKFCは2021年3月期予想

■マクドナルド・モス・KFCの営業利益比較

営業利益(百万円) 前年比 マクドナルド 31,290 +11.7% モス 400 ▲62.3% KFC 6,000 +25.4%

*マクドナルドは2020年12月期、モスとKFCは2021年3月期予想

ケンタッキーフライドチキン(KFC)は2020年1月から500円ランチを投入。日常利用を促してV字回復を果たしたことは有名です。KFCは回復期と巣ごもり需要が重なったことが好調の背景です。

注目したいのはマクドナルドの圧倒的な安定感です。

営業利益は3期連続の2桁増。3,000近い店舗が新型コロナウイルスの混乱に巻き込まれたにも関わらず、まるでそれを感じさせません。

■マクドナルドの売上高推移(2018-20年)

売上高(百万円) 前年比 2018年12月期 272,257 +7.3% 2019年12月期 281,763 +3.5% 2020年12月期 288,332 +2.3%

■マクドナルドの営業利益推移(2018-20年)

営業利益(百万円) 前年比 2018年12月期 25,045 +32.4% 2019年12月期 28,018 +11.9% 2020年12月期 31,290 +11.7%
マクドナルドの強さ コロナ禍で鮮明に
デリバリーで客数の減少を抑制したマクドナルド

コロナで営業利益率を上げたマクドナルド

テイクアウト需要をつかんだマクドナルドは客離れを客単価でカバーしたためフランチャイズ加盟店の売上が落ちず、閉店する店は14店舗に留まりました。2020年は48店舗のフランチャイズ店がオープンしています。2019年は35店舗。新常態で強みを発揮したマクドナルドは加盟店を増やしています。

マクドナルドは全世界で4万近い店舗を運営しており、経営ノウハウや従業員の教育制度を共有しているため、属人的な仕事が少なく、極めて効率的な経営をしている会社です。

■コロナ前後の原価率、販管費率(単位:百万円)

マクドナルド 売上高 営業利益 営業利益率 2019年12月期 281,763 28,018 9.9% 2020年12月期 288,332 31,290 10.9% モス 売上高 営業利益 営業利益率 2020年3月期
第3四半期 52,080 1,141 2.2% 2021年3月期
第3四半期 53,590 975 1.8%

モスと比較すると営業利益率の違いが鮮明になります。モスはコロナで営業利益率を0.4ポイント落としましたが、マクドナルドは逆に1ポイント上げています。

マクドナルドの従業員は2,083人で店舗数は2,924。1店舗あたり正社員0.7人で運営していることになります。一方、モスの従業員は1,351で店舗数は1,285。

1店舗当たり1.1人となる計算です。しかも、マクドナルドの全店舗に対するフランチャイズ比率は70%。モスは90%以上がフランチャイズです。

マクドナルドは社員の手がかかる直営店が多いにも関わらず、効率的な運営ができていることになります。この効率性がコロナ禍でも動じなかった理由です。

ポストコロナの飲食店経営は、店舗と従業員の生産性を高め、高利益体質の経営をする必要があります。

文:麦とホップ @ビールを飲む理由

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