【リゾート気分で起業!3選㊥】「周防大島」ハワイ移民を送り出した瀬戸内の島で起業ラッシュ!

瀬戸内海に浮かぶ屋代島(山口県周防大島町)は「周防大島」「金魚島」の愛称で親しまれる風光明媚な島だ。1970年には3万7000人を超えていた人口も、現在は約1万3300人と3分の1近くまで減少している。

過疎に悩まされている島だが、本土の柳井市と島を結ぶ大島大橋が1976年に完成し、1996年には無料開放された。2012年には島から1時間以内にアクセスできる岩国空港が再開業し、近年は「起業家の島」として注目されている。

【リゾート気分で起業!3選㊥】「周防大島」ハワイ移民を送り出した瀬戸内の島で起業ラッシュ!
島(手前)と対岸の本土を結ぶ大島大橋
島(手前)と対岸の本土を結ぶ大島大橋

元シェフの熱意が島の魅力を高める

同島で起業家の先駆けとなったのが、周防大島町を中心に12店舗を展開する「千鳥」の山崎浩一社長。山崎氏は高校卒業後、シェフとして修行を積んだ。フランスへ渡り本場で学んだ後、帰国してからはミシュランガイドに掲載された有名レストランなどで腕を振るった。

24歳で島に戻った山崎氏は、1995年に町営入浴施設(現「竜崎温泉ちどり」)のレストラン事業者募集に弟と共に応札。日帰り入浴がブームとなり、事業は大きく繁盛。これが千鳥グループの成長の足がかりとなった。

竜崎温泉を手始めに、山崎氏はシェフの経験を生かして、和食や洋食、スイーツの店を次々と出店。和食レストラン「お侍茶屋 彦右衛門」、イタリアンレストラン「グランカフェ シーブリーズ 1976 chidori」、コッペパン専門店「パンコッペ」、見た目にこだわった「瀬戸内花嫁たい焼き」など、多様な業態で人気店を築き上げた。

【リゾート気分で起業!3選㊥】「周防大島」ハワイ移民を送り出した瀬戸内の島で起業ラッシュ!
大島大橋を臨む「グランカフェ シーブリーズ 1976 chidori」
大島大橋を臨むレストラン「グランカフェ シーブリーズ 1976 chidori」

山崎氏は千鳥グループ以外でも、地元の特産品を生かした「みかん鍋」や「太刀魚の鏡盛り」を、発起人の一人として商品開発した。これらのメニューは、ビジュアルのインパクトと確かな味が特徴だ。

その背景には「後継者不足が周防大島の地域課題。

島を離れた人が帰ってきて、跡を継ぐことができるような状態にしたい」という強い思いがあったという。

地元産の柑橘類でジャムづくり

千鳥グループの成功を受けて、Uターン者による起業が相次ぐ。中でも最も知られているのが、「瀬戸内ジャムズガーデン」だ。

創業者の松嶋匡史氏は、実家の寺院で副住職に就くためUターンした妻の智明さんと一緒に移住。瀬戸内の温暖な気候を生かした柑橘(かんきつ)類の栽培が盛んなこの島で、地元の果物を使ったジャム作りに取り組んだ。

年間約180種類のジャムやマーマレードを手がけ、旬の素材を使った30品目の製品を常時販売している。カフェ併設のジャムショップもあり、観光客の人気スポットになっている。

松嶋氏はおよそ100年前に建てられた古民家を宿泊施設に改装した「おん宿 古今せとうち」も開業。観光客の誘致にも一役買っている。

起業家養成ビジネスも

起業を支援するビジネスも立ち上がっている。大野圭司氏は「100年続くふるさとをつくる」を経営理念に掲げ、小学生から大学生向けに自分の技で稼ぐための学び「起業育」を提供する「ジブンノオト」を立ち上げた。

大野氏は周防大島で育ち、広島の高校、大阪の大学に進学する。大阪の建設コンサルティング会社や東京のウェブサイト制作会社で働いた後に、Uターン。島でのフリーペーパーの発行や起業家養成塾の運営を経て、2013年にジブンノオトを設立した。

過疎地域を再生するため、次世代の起業家育成に取り組んでいる。中小企業庁から2015年に「地域活性化100」に選ばれ、2018年に「創業機運醸成賞」を受賞した。

2023年には経済産業省の中国地域から全国・世界へはばたく有望なスタートアップを支援する「J-Startup WEST」に選ばれるなど、行政からも注目されている。

ハワイ移民の「開拓者精神」が起業家を呼んだ

周防大島は1885年から「官約移民」として多くの島民がハワイに渡った歴史があり、1963年にはハワイのカウアイ島と姉妹島となった。こうした「開拓者精神」が起業家を育て、後押しする風土につながっている。

多くの起業家が成功したことで、企業誘致も相次ぐ。Web制作事業を手がけるモノサス(同渋谷区)は、永井智子副社長がUターンしてサテライトオフィスを開設。POSレジシステムを開発するビジコム(東京都文京区)も、島の閉校した小学校に開発拠点を設けた。

東京に本社を置く企業が、島での雇用を創出している。行政にもサテライトオフィスについての問い合わせが増えているという。

「起業の島」になったこととの因果関係は不明だが、2022年度の周防大島町の町民税収が前年度比6.7倍の32億円に跳ね上がり、伸び率で全国トップとなった。前年に複数の高額納税者が転入し、27億4100万円の納税があったからだ。

高額納税者は起業家に多いオーナー経営者の比率が高く、「起業家が起業家を呼んだ」との見方もある。

「起業家」が、過疎に悩む島に次々と新しいビジネスと雇用、マネーを生み出す好循環をもたらした。政府の「スタートアップ育成5か年計画」が目指す、起業による経済成長を実現した「モデルケースの島」と言えそうだ。

文・写真:糸永正行編集委員

【M&A Online 無料会員登録のご案内】
M&A速報、コラムを日々配信!
X(旧Twitter)で情報を受け取るにはここをクリック

【M&A Online 無料会員登録のご案内】
6000本超のM&A関連コラム読み放題!! M&Aデータベースが使い放題!!
登録無料、会員登録はここをクリック

編集部おすすめ