
東京ガス<9531>は、業務用ビル向けの中央監視システム(ビルオートメーションシステム)の設計から導入、保守までを手がける計装工事会社のトラストエンジ(東京都豊島区)を子会社化した。
2023年2月に策定した2026年3月期を最終年とする3カ年の中期経営計画の中で、主要戦略の一つに掲げたソリューション(問題解決)事業を本格展開するとの方針に沿ったもので、2024年のマンションの塗装、防水などの外壁工事や共用部分の内装工事を手がけるマルリョウ(東京都昭島市)などの子会社化に続くソリューション事業拡大に向けたM&Aとなる。
同中期経営計画では「ソリューションをブランド化し拡充することで、エネルギーに次ぐ事業の柱に育てる」との方針を明記しており、2026年3月期に法人向けソリューションの売上高を約2100億円(2023年3月期比10%増)に、家庭向けソリューションの売上高を約1000億円(同40%増)に高めるとしている。
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ワンストップ体制を整備
東京ガスは2022年に日本たばこ産業とジェイティ エンジニアリングから譲り受けた現場業務を効率化するソフトウエアJoyシリーズを活用して、工場、ビル、再生可能エネルギー施設、都市ガスインフラ、下水道などの幅広い業種の生産性向上をサポートしてきた。
トラストエンジは、特定のメーカーに依存せずにコストの削減や、高い柔軟性の実現が可能なJoyシリーズを活用し、ビルオートメーションシステムを数多くの業務用ビルに導入してきた実績がある。
東京ガスはトラストエンジの子会社化を機に、高い技術力とノウハウを持つトラストエンジの強みと、顧客との接点や信頼関係を持つ東京ガスの強みを活かして、Joyシリーズのソフトウエア開発から中央監視システムの導入、保守までをワンストップで提供する体制を整える。
東京ガスは中期経営計画の中で「エネルギー安定供給と脱炭素化の両立」「ソリューションの本格展開」「変化に強いしなやかな企業体質の実現」の三つの主要戦略を掲げており、ソリューションをブランド化するとの方針に沿って、2023年11月にソリューション事業ブランド「IGNITURE(イグニチャー)」を立ち上げた。
今後はJoyシリーズを活用したビルオートメーションシステムは「IGNITURE」の名称で、GX(グリーントランスフォーメーション=温室効果ガスを削減し、経済社会システム全体を変革する取り組み)とDX(デジタル技術で生活やビジネスを変革する取り組み)を取り入れた新たなソリューションとして提供する。
事業拡大のスピードアップも
東京ガスの2020年以降の主なM&Aは、Joyシリーズ事業の譲り受けやマルリョウなどの子会社化のほかにも、米国のシェールガス開発、生産会社のロッククリフ・エナジーの子会社化や、IDECの大規模太陽光発電関連子会社のIDECシステムズ&コントロールズの子会社化などがある。
2024年3月期は工業用の都市ガスの販売が減少したことや、電力の卸売りが振るわなかったことなどから売上高は2兆6645億1800万円(前年度比19.0%減)、営業利益は2203億800万円(同47.7%減)と厳しい結果となった。
2025年3月期の売上高は前年度比0.9%増の2兆6890億円とほぼ横ばいで推移するものの、営業利益は海外事業の減価償却費の増加などにより同46.9%減の1170億円と2年連続で大きく落ち込む見通し。
東京ガスでは、エネルギー業界で業種を超えた競争が進んでいるのに加え、GX投資に向けた環境整備の進展や、生成AI(人工知能)などのビジネスへの急速な活用などに伴って顧客の価値観が多様化しており、「従来と同じやり方で商品・サービスを提供していては、顧客のニーズに応えきれない時代に突入している」と分析する。
「ソリューション事業をエネルギーに次ぐ事業の柱に育てる」取り組みは今後、事業拡大に向けたさらなるM&Aなどによるスピードアップが求められることなりそうだ。

文:M&A Online記者 松本亮一
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