
全国で居酒屋を運営する鳥貴族ホールディングス<3193>が、2022年9月13日「やきとり大吉」を運営するダイキチシステム(大阪府大阪市)の全株を、サントリーホールディングス(東京都港区)から取得することを決めました。譲渡実行日は2023年1月4日を予定しています。
ダイキチシステムは直営店を持たず、フランチャイズ加盟店のみで全国500店舗超を展開する珍しい会社。鳥貴族はこの買収によって、1,117店舗(鳥貴族直営店385店舗+鳥貴族フランチャイズ加盟店232店舗+ダイキチシステムのフランチャイズ加盟店500店舗)の巨大居酒屋チェーンへと変貌を遂げます。
しかし、新型コロナウイルスの影響は少なからず残っており、特に居酒屋の商環境は依然として厳しいまま。鳥貴族が大胆な買収へと至った理由はどこにあるのでしょうか。
この記事では以下の情報が得られます。
・買収の背景
・ダイキチシステムの業績
サントリーの主要な取引先である鳥貴族とのM&A
鳥貴族が買収を決めた理由は主に3つあると考えられます。
1つ目はダイキチシステムの業績が堅調で、コロナ禍にも関わらず営業利益を出していること。2つ目はフランチャイズ加盟店のみという居酒屋店の運営会社としては特殊な形態であること。3つ目は「やきとり大吉」が繁華街から外れた小規模、路面店を中心とした出店形態で、駅前空中階型大型店を出店している鳥貴族と客層が異なることです。
そして、今回の買収の背景には、サントリーホールディングスの思惑が大いに関係していると考えられます。
買収の背景から説明します。居酒屋店はビール会社にとって重要度の高い取引先です。そのため、大手居酒屋運営企業は、ビール会社が出資をしているケースがほとんど。
そのため、ワタミは運営する居酒屋「ミライザカ」でサントリーのモルツを、「三代目鳥メロ」でアサヒスーパードライを提供しています。アサヒビールは2008年3月に株式を市場で買い付け、サントリーが独占していたワタミの市場を奪い取りました。この株式の取得は、ワタミ側から持ち掛けられたものであることが明らかになっています。
居酒屋を運営する側にとって、ビールの銘柄そのものは決定的な集客装置にはなりません。どのメーカーを選んでも同じです。そのため、”良くしてくれる”ビール会社と契約を続けることがほとんどです。ワタミがアサヒビールに株式の買い付けを持ち掛けたのは、サントリーが独占していると競争原理が働かないことを危惧したものと考えられます。
鳥貴族はサントリーが2.24%の株式を保有しています。提供しているビールはもちろんモルツです。鳥貴族はコロナ禍においても業績は堅調で、2022年7月末の段階で自己資本比率が34.3%でした。鳥貴族の財務状態が悪化し、サントリー以外のビール会社に対して第三者割当増資を行うことは考えられません。
サントリーとの関係が強固なものであれば、鳥貴族の市場を他社に奪われることはないでしょう。そして、サントリーが鳥貴族との信頼関係を高める目的で恩を売ったのが、今回のM&Aだと考えられます。
ビール会社は飲食店のM&A話をよく持ち込むことで知られています。ビール会社にとっては、廃業を考えている店舗を救って取引先が減るのを防ぐことができます。店舗の拡大を考える居酒屋オーナーはM&Aの話に飢えています。M&Aが成立すれば、ビール会社と居酒屋オーナーの信頼関係に厚みが増すという好サイクルが生まれるわけです。
コロナ禍でも20%近い常識外れの営業利益率
ダイキチシステムのホームページによると、2001年にサントリーと業務提携を結んだとあります。この時点でサントリーに株式を譲渡したものと予想できます。
ダイキチシステムはカリスマ経営者・辻成晃氏が創業しました。飲食店経営者としては珍しく、当初から直営店は1店舗も持たずに独立支援システムを核とした事業を展開。1977年12月の開業から30年で1,000店舗を超えました。
「やきとり大吉」が50店舗を超えるころになると、各フランチャイズオーナーがビール会社と価格競争を繰り広げるのを目の当たりにし、契約会社をサントリーに絞り込んで効率化を図ったといいます。
辻成晃氏がダイキチシステムを立ち上げたのは、30歳を過ぎたころ。2001年は還暦を迎える手前のタイミングであり、サントリーへの株式の譲渡は事業承継の毛色が濃かったものと予想できます。
2001年に牟田稔氏がサントリーからダイキチシステムに出向。2005年に専務、2008年に社長に就任しています。牟田稔氏はサントリーの営業系出身で、「やきとり大吉」の店舗数拡大に一役買いました。現在のダイキチシステムの社長は呉田弘之氏。呉田氏はサントリーの人事部長などを務めました。営業ではなく、人事や管理部門系の出身者です。
営業系の人材を送り込まなかったのは、ダイキチシステムが店舗数を拡大できず、縮小傾向にあったことが関係していると考えられます。下のグラフを見ると、コロナ前から純利益が縮小しているのがわかります。
■ダイキチシステム純利益推移

2020年に入って利益は大幅に縮小しました。
利益が縮小傾向にあるとはいえ、ダイキチシステムはコロナ禍でも営業利益を出している数少ない居酒屋企業です。
■ダイキチシステム売上高と営業利益

突出して高い営業利益率も白眉。ダイキチシステムの2021年12月期の営業利益率は17.9%でした。コロナ前の2019年12月期は24.9%です。なお、鳥貴族の2019年7月期の営業利益率はわずか3.3%。鳥貴族が著しく低いように見えますが、ダイキチシステムの高さがむしろ”異常”。ワタミの2019年3月期の外食事業の営業利益率は2.4%でした。多くの居酒屋チェーンでは、5%以下の水準が普通です。
鳥貴族は今後、北海道や東北、北陸、中四国、九州、沖縄など未進出の地方都市への出店を強化するとしています。
鳥貴族とダイキチシステムの出店形態が異なるのも魅力的。「やきとり大吉」は住宅街などの路面店、10坪程度の小規模店が中心。鳥貴族は繁華街のビルの空中階などに出店しています。リピーター客が大部分を占めるダイキチシステム、新規客がメインの鳥貴族で顧客の取り合いが起こりません。
今回の買収は、鳥貴族にとってメリットの高いものとなりました。
麦とホップ@ビールを飲む理由