社長が逮捕された「かっぱ寿司」の流れ流れた資本提携史

大手回転ずしチェーン「かっぱ寿司」を運営するカッパ・クリエイト<7421>の田辺公己社長が前職のゼンショーホールディングス<7550>傘下の競合チェーン「はま寿司」から、仕入れ価格などの営業秘密を持ち出したなどとして逮捕された。田辺社長は3日に社長を辞任している。

かつては回転寿司のトップだったかっぱ寿司

カッパ社は1979年に創業者の徳山淳和氏が長野市で第1号店を開業。同年からチェーン展開を始めている。1999年から大型店舗の展開をスタート。席数が増えたことで1店舗当たりの販売額が伸び、2010年までは回転寿司業界トップの座に君臨した。

2007年3月には今回の事件の「被害者」となったゼンショーと資本業務提携している。ゼンショーはカッパ社株の31.25%を保有する筆頭株主となり、役員も派遣。店舗運営ノウハウの共有化による経営の効率化や共同購買の導入による仕入れコスト削減、人材交流による経営ノウハウの共有といったシナジー効果を狙った。

ところが同10月に業務提携を凍結。当時はカッパ社の業績が好調に推移しており、ゼンショーの助力に頼る必要もなかったことから単独での生き残りを選択したようだ。一方、ゼンショーはカッパ社との資本業務提携を決めた同3月に、「お家騒動」で分裂した創業家からあきんどスシロー(現・FOOD & LIFE COMPANIES)<3563>の発行済株式の27.23%を取得していた。

ゼンショーはカッパ社とあきんどスシローを経営統合し、巨大回転寿司チェーンの形成を目指していたのかもしれない。結局、スシローもユニゾン・キャピタル・グループや英ペルミラ・アドバイザーなどのPE(プライベートエクイティ)ファンドに奪われ、ゼンショーは回転寿司事業を傘下のはま寿司に集中する。

数々の資本提携はあれど、かっぱ寿司の再建は遠い

ゼンショーとの資本業務提携が頓挫すると、好調だったカッパ社の業績は低迷し始めた。2011年にスシローに追い抜かれると、くら寿司、はま寿司にも次々と抜かれて業界4位に転落する。

2013年11月に3期連続赤字に転落したカッパ社は当時の筆頭株主だったコメ卸最大手の神明(現・神明ホールディングス)の仲介で、同じく神明が筆頭株主の同業「元気寿司」との経営統合を模索する。

同月に2014年度中に元気寿司と経営統合することを前提に業務提携すると発表した。が、2014年10月に居酒屋「甘太郎」や焼肉「牛角」を運営する外食チェーン大手のコロワイド<7616>からのTOB(株式公開買い付け)を受けたことから、同社傘下に入ることを選択。元気寿司との経営統合交渉を白紙に戻す。

しかし、コロワイド傘下に入ってもカッパ社の業績不振は続く。2014年から現在までの8年間で5人の社長がカッパ社を去った。

2018年から2021年まで経営の指揮をとった小澤俊治元社長を除いては、在任期間2年が1人、同1年が田辺前社長を含めて3人と、短期間のうちに目まぐるしく社長交代している。この「信賞必罰型人事」による短期での解任を懸念した田辺前社長が、功に焦って違法行為に走った可能性もありそうだ。

度重なる社長交代の結果、経営方針も一貫しておらず、カッパ社の業績不振に拍車をかけている。そもそもコロワイドがTOBに乗り出した時点で、経費削減のために原材料費を削減した結果「安かろう、不味(まず)かろう」のイメージが定着したカッパ社の買収はリスクが高いと見られていた。しかも、カッパ社のTOBは、コロワイドが手がけた中ではレックスホールディングスに次ぐ大型買収案件だ。

それでもカッパ社を買収したのは、コロワイドがM&Aで成長してきた企業だから。

カッパ社の課題は承知の上で再建に乗り出したという。コロワイドは祖業の居酒屋事業だけでは長期的な成長は期待できないと、2012年に非居酒屋事業の拡大を狙って「牛角」などを展開するレックスHDを買収。都市部の飲食ビルを1棟借りし、傘下の3~5業態のチェーン店を出店する「多業態ドミナント戦略」で業績を伸ばした実績がある。

親会社コロワイドのM&A一覧

発表日 スキーム 内 容 2008年3月10日 事業譲渡 番能水産からまぐろの卸売事業を取得 2012年9月7日 第三者割当増資 「牛角」運営のレックス・ホールディングスを子会社化 2014年10月27日 株式譲渡 カッパ・クリエイトホールディングスをTOBで子会社化 2016年10月14日 会社分割 ハンバーガーチェーンの「FRESHNESS BURGER」事業を取得 2016年11月25日 株式譲渡 北米「牛角」事業を子会社化 2020年3月30日 事業譲渡 JFLAホールディングス<3069>傘下のアスラポートから「牛角」のエリアFC事業と直営6店舗を取得 2020年7月9日 株式譲渡 大戸屋ホールディングス<2705>をTOBで子会社化へ

カッパ社の買収から8年。同社の業績回復は遅く、さらには社長逮捕という不名誉な事件まで発生してしまった。コロワイドがカッパ社の再建を断念し、売却する可能性もありそうだ。

カッパ社は、どこへ流れて行くのだろうか?

【訂正】記事にカッパ社の買収がコロワイド最大の買収とありましたが、正しくはレックスHDでした。カッパ社はTOB案件としては最大でしたが、買収金額はレックスHDが上回っています。

文:M&A Online編集部

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