
トム・クルーズが主演を務める超大作『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』がいよいよ公開になる。本作はこれまでのシリーズの集大成的な要素がある一方、新たなシリーズのはじまりを予感させる展開や、新要素が盛り込まれたドラマが描かれる。
前作からシリーズに参加したヘイリー・アトウェルは自身の役割を“観客の代表”と語る。私たちは彼女と共にミッションに参加し、チームのドラマを体験し、そこにある感情と想いに触れることになるだろう。
本作は、圧倒的な作戦遂行能力を持つエージェント、イーサン・ハント(トム・クルーズ)と仲間たちが実現不可能な作戦=ミッション・インポッシブルに挑む人気シリーズの最新作。現在、イーサンたちは“エンティティ”と呼ばれる人工知能の破壊を目指している。
エンティティは高度に発達し、世界中のあるゆるデータを収集・学習した末に“自我”を持ったAIで、世界中のあらゆるサイバー空間に進出し、各国の防衛ラインを突破。核兵器の発射システムすら手中におさめている。当初、大国はエンティティの奪取を狙っていたが、エンティティの進化速度は圧倒的で、イーサンはエンティティの“完全破壊”を目指して、AIのソースコードが格納されている場所にアクセスできる鍵を入手した。
ふたつのパーツで構成される鍵をついに手に入れたイーサンは、エンティティのソースコードが、この世界のどこかにいる潜水艦の内部にあることを知る。潜水艦はどこに眠っているのか? まだ進化の歩みを止めず、人間に反旗を翻したエンティティは何を仕掛けてくるのか? 人類滅亡のカウントダウンが始まる中、イーサンと仲間たちは新たなミッションに挑む。

本作でアトウェルが演じるグレースは、スリと泥棒のプロフェッショナル。ターゲットを盗むための身のこなし、タイミング、相手の意識を逸らすワザに長けており、イーサンの入手した鍵を奪取しようとする過程でチームに出会い、ついには自身もIMF(Impossible Mission Force=イーサンたちが所属する秘密機関)のメンバーになった。しかし、彼女はまだ新人だ。
「そうですね(笑)。グレースはエージェントになってまだ日が浅く、“観客の代表”の立場でもあるんです。ですから、劇中で急にミッションを伝えられたり、自分が何かをすることになると、慌てて『え? なに? それってどういうこと?』ってなってしまう(笑)。その点でグレースはとても親しみやすいキャラクターでもあるんです。彼女は盗みのスキルはとても高いのですが、まだ時間をかけてゆっくりと学んでいる段階で、失敗もします。一方で彼女はまだ経験が浅いので、自分が挑戦していることが人間の生死に関わる極めて重要なものだとまだ完全に理解できていない部分もある。時には緊張を隠して、勇気をもって立ち向かおうとする側面もあります。だから観る方によっては、グレースを見て『彼女は本当に大丈夫なの?』と思うかもしれません(笑)。でも、そこに面白さが生まれるのだと思います」
本作ではエンティティのソースコードの入手と完全破壊が最終目的になるが、そこまでの道のりは過酷で、イーサンたちの動きを阻止しようとする力が幾重にも働く。相手は世界中のネットワークをほぼ掌握しているAIだ。チームはあらゆる交信手段を奪われたも同然で、相手を信じてそれぞれに行動するしかない。
「まず何より、イーサン・ハントというキャラクターが常に“自分よりもチームのことを考えている”という設定があるのがとても重要だと思いますし、トムもそういう人なんです。自分のためではなく、チームのために、まだ見ぬ未知の人のために……それこそが目標なのです。
実際の撮影では、完全に出来上がった脚本が渡されるのではなく、ストーリーやキャラクターの大きな目標やゴールはしっかりと決まった上で、俳優やスタッフが現場でアイデアを出し合って撮影することができました。私たちはスタッフ、キャストに関係なく一体感を出すためには何が必要なのか、楽しさをもっと出すにはどうすれば良いのか、いろんなことを試して、挑戦することができました。それはとても大きかったです。
そうして撮影された映像を最終的にトム、監督のクリストファー・マッカリー、編集のエディ・ハミルトンが最も正しいかたちに、最もチームの感情が表現できるように仕上げてくれた。それが一体感に繋がっているのだと思います」
最新作を読み解くキーワードは“信頼”

アトウェルが語ったことは本作を楽しむ上でとても重要だ。というのも、本作は“信頼”が最大のキーワードになっているからだ。
これまでの『ミッション』シリーズでは、イーサンと仲間たちはいかにして相手を出し抜き、相手より先に目的を達成したり、時には倒すのかを考えてきた。しかし、本作の敵エンティティはプログラムなので実体がない。さらにエンティティは人間を直接に攻撃するのではなく、人間を罠にかけ、対立させ、分断を生むことで状況を有利に運ぼうとする。
あらゆる作戦と変装を駆使してターゲットを罠にかけてきたイーサンたちが、最新作では“相手を信頼できるか?”を常に問われる。これまでなら相手を倒した。銃で撃った。ダマした。しかし、本作ではそうすればエンティティの思うツボだ。いかにして、疑心暗鬼や不安に打ち勝ち、相手を信頼し、相手を説得し、これまでと違う選択をして、AIの裏をかくかが重要になる。
「このシリーズは約30年続いていますが、その間に観客のマインドも変化したと思います。観客はアクションはもちろんですが、キャラクターたちの関係もたくさん見たいと思っているのではないでしょうか。単に危険な状況からサバイバルするだけでなく、キャラクターの成長や変化も求められますし、現代では、善と悪の関係もそう単純なものではなくなってきていますから、単に悪者を倒せば終わり、というわけにもいかなくなってきています。
ですから、本シリーズではアクションもたくさん挑戦しましたが、人間同士の繊細なコミュニケーションが何よりも重要だと思いましたし、『ミッション:インポッシブル』シリーズが本来的にもっているパーソナルな人間関係をしっかりと表現したいと思いました」
本作では深刻な状況が地球規模で訪れ、緊張感は極限まで高まり、イーサンも仲間たちも言葉を失うほどのプレッシャーにさらされる。
「俳優の眼というのは、それだけですべてを語っているようなところがありますよね。感情や表現のちょっとしたニュアンスを、相手とどのような状況で、どれぐらいの時間、見つめ合うのかで表現するわけです。
また、おっしゃる通り、本作ではあまりにも深刻な状況が訪れますから、そこに直面した人間が言葉を失ってしまう。何か言葉を発することで安っぽく聞こえてしまう状況もあると思います。現実の世界でも、あまりにも大きなことに直面すると言葉が出てこないことってあると思うんです。そんな時でも、人間が見つめ合うことで、伝わるものがあると思うのです」
言葉が出てこないほどの状況に直面し、人類滅亡の瞬間が迫る中で人間は何ができるのか? 彼らはAIの考える人間の行動パターンを逸脱し、相手を信頼し、分断を避け、エンティティの予想を裏切ることができるのか? イーサンとチームがこれまでにとってきたすべての選択がこの物語に集結し、彼らはシリーズ最大の危機に立ち向かうことになる。

俳優陣とクルーの信頼とチームワークの中心にいるのはトム・クルーズだ。以前、筆者がサイモン・ペッグにインタビューした際、彼はこう語った。
「トムは僕らがアクションをするとなると、信じられないぐらいソワソワして、ぎこちなくて、心配性になるんだ(笑)。トムがやっているスタントと比較したらまったく問題ないようなことでも、彼はすごく心配する。
トムの母性は本作でも健在だったようだ。
「サイモンの言う通りです(笑)。トムは本当に紳士的な人で、自分もトレーニングを積んで撮影に挑むけど、撮影に参加する全員がとにかく安全に、というのが彼の信念なんです。だから、何かアクションが終わるたびに、トムは親戚の叔父さんみたいに心配してくれて『大丈夫だった?』『ええ、大丈夫』『本当に大丈夫だった?』『本当に大丈夫!』『本当に? 無理してない?』ってやりとりになるんです(笑)。私はトムのことを心から信頼していたし、撮影で何をするのかすべて把握していて、トレーニングもしっかりと受けることができたから、何が起こっても安心していたんです。
一方でトムは、あんなにすごいことをやっているのに、いつも周囲の人が問題ないか、大丈夫かを聞いて回っていて、撮影中にスタッフの誰かが遠くでクシャミをすると、トムは演技をとめて“Bless you(お大事に!)”と言ってから演技を再開するんです(笑)。彼はキャストのことも、スタッフのこともよく知っているし、家族のこともまですべて知っていて、いつも仲間のことを思ってくれる。俳優として本当に演技のしやすい状況でした」
『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』
5月23日(金) 公開
※5月17日(土)~22日(木) 先行上映
(C)2025 PARAMOUNT PICTURES.