
2025年12月に開幕する、BunkamuraとK-BALLET TOKYOによるプロジェクト「K-BALLET Opto」の第4弾公演『踊る。遠野物語』のクリエーションが進行中だ。

2022年に始動し、現代社会にひそむ「語られざる物語」に身体表現で向き合ってきたK-BALLET Opto。これまで、プラスチック汚染、ヤングケアラーなどの問題を取り上げ、ダンスを通して社会と心の深層に迫る創作を続けてきたが、戦後80年の節目の年にあらためて取り組むのは、今年生誕150年を迎える柳田國男の『遠野物語』。12月の上演に向けてひとつの区切りを迎えたこの日のリハーサルでは、麿赤兒と彼が率いる大駱駝艦、また田中陸奥子という日本が誇る舞踏家たち、また将来を嘱望される歌舞伎俳優の尾上眞秀、音楽監督・作曲・尺八演奏を担う中村明一ら、K-BALLETのダンサーたちが一堂に会し、身体での表現をもって新たな『遠野物語』を誕生させるべく、探究する姿を垣間見た。

リハーサル冒頭、その場の空気をまるごと震わせるかのような中村の尺八が、稽古場に響きわたる。その後、飛行機のエンジンの音が不安を掻き立てる中、特攻隊兵、山澤太平を演じる K-BALLET TOKYOのプリンシパル・石橋奨也が、悲壮な覚悟を漂わせ、空へ──。

知覧から出撃した実在の東北出身の特攻隊員が許嫁に宛てた「ただ無性にあなたに会いたい」という言葉に想を得たという本作。その軸となるのは、彼とその許嫁の悲恋だ。許嫁・菊池響子役を務めるK-BALLET TOKYOソリストの大久保沙耶が、儚い中にも凛とした美しさを滲ませ、皆の目を釘付けに。

また、土の匂いを漂わせながら、地の底のエネルギーを放つような力強い身体表現で周囲を圧倒するのは、大駱駝艦の面々による山人。三山の女神、雪女、オシラサマをはじめとする『遠野物語』の不思議な存在が次々と登場、独特の世界観を作り上げる。



K-BALLETの精鋭ダンサーたちが表現するのは、「魂」。


リハーサル後の囲み取材で、森山は多彩な出演者たちとの創作についてこう述べた。「シーンの数が多く、フル稼働です。本当は皆と話しながら、意見を戦わせながらやりたいのですが、まずは僕が何をやりたいのかを皆に提示し、投げかけながら創作しています。その中で、一人ひとりの個性を出していきたい。皆が振付をどんどん自分のものにしていこうという姿勢を感じます」。プロジェクトが始動してから約2年。「ずっと『遠野物語』のことを考えていました。頭の中のイメージを、とにかく引き出しています」。
出自の異なるさまざまな才能をまとめ上げることの難しさについては、「面白さのほうが勝っている」ときっぱり。「ダンスを始めてから、クラシック・バレエの稽古もしましたし、自分の身体表現、創作の中で舞踏に近い表現をすることも。あるときは舞踏のように下へと向き、あるときはバレエ・ダンサーのように高く跳びたい、という思いでソロダンスをやってきたので、こうして舞踏の方、バレエの方と一緒に創作できることが嬉しい」。
リハーサルをリードしながら、たびたび叫び声をあげ、撥でリズムを叩き出し、皆の踊りを引き出す森山。音楽は、音源と生演奏を組み合わせるという。
「バランスが難しいですね。当然、音楽を作り上げてから振付けるというやり方もありますが、そうすると全部、音楽に寄せて作ることになる。それは、こうしたプロジェクトでは難しいと感じました。いま、中村さんと音楽チームに7割くらいを形にしてもらっていますが、今回は幸いにも、12月まで練り込む時間がある。生の音と音源、両方の強みを出していきたい」さらには、「この稽古場で生まれること、また、積み上げてきたことを活かすことの両方が必要。僕も何回か遠野に行かせてもらいましたが、そこでの音の感覚が、怖さだったり、いろんな要素になったりする。生の音を大事にしたいんです」とも。
K-BALLETのダンサーたちとの創作について尋ねられると、「とても素晴らしい若者たち。可能性に満ちていますし、誠実で真面目で、ひたむき。毎日ここに通わせてもらって、バーレッスンから見ていましたが、バレエダンサーには強いリスペクトがあります。K-BALLETからは、また新しい才能がたくさん出ていくだろうなという思いです」と満面の笑顔を見せる。
ジャンルも世代も超えた表現者の邂逅もみどころ

リハーサルでは、麿と眞秀が対峙する場面も。年齢差70歳の、ジャンルも世代も超えた表現者の邂逅に息を呑む。終盤での特攻隊員と許嫁の再会──石橋と大久保の切なさにあふれたデュエットは、優れたバレエダンサーだからこそ表現しうるシーン。「ただ無性にあなたに会いたい」という本作のキャッチコピー、生と死の狭間、また「会いたい」という思いが凝縮されたようなデュエットは、作中最大の見どころのひとつとなるだろう。

「『遠野物語』に内在する日本の死生観、死との向き合い方がある。亡くなったものと会いたい、話したい、一緒に踊りたいというその気持ちが、最大のテーマになれば。それは、向こう側の世界と、どう接していくか、これからどう生きていくかということに繋がると思います。怖い妖怪たちが出てくるだけの物語ではなく、祈りの中の『遠野物語』を、届けていきたい」と森山。
取材・文:加藤智子 撮影:渡邉肇
<公演情報>
K-BALLET Opto『踊る。遠野物語』
演出・振付・構成:森山開次
企画:高野泰樹
舞台美術・衣裳:眞田岳彦
音楽監督・作曲・尺八演奏:中村明一
作曲:吉田潔、アーヴィッド・オルソン
箏演奏:磯貝真紀
歌:菊池マセ
宣伝美術:横尾忠則(ポスタービジュアル)、森洋子
出演:
石橋奨也、大久保沙耶、他K-BALLET TOKYO、麿赤兒、尾上眞秀、田中陸奥子、森山開次
村松卓矢(大駱駝艦)、松田篤史(大駱駝艦)、小田直哉(大駱駝艦)、奥山ばらば、水島晃太郎、小川莉伯
2025年12月26日(金)~28日(日)
会場:東京・東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/k-opto4/(https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2560129&afid=P66)
【2026年東北ツアー】
■2026年1月9日(金)
会場:山形・荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館) 大ホール
■2026年1月12日(月・祝)
会場:秋田・あきた芸術劇場ミルハス 大ホール
■2026年1月15日(木)
会場:青森・SG GROUPホールはちのへ(八戸市公会堂) 大ホール
チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2524527(https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2524527&afid=P66)
■2026年1月20日(火)
会場:札幌市教育文化会館大ホール/北海道札幌市
■2026年1月18日(日)
会場:岩手・北上市文化交流センターさくらホールfeat.ツガワ 大ホール
公式サイト:
https://www.bunkamura.co.jp/orchard/lineup/25_opto_tohnomonogatari/