
「日本・東洋の古美術は、西洋美術と比べると地味でわかりにくい」という声に応え、2016年から古美術鑑賞の入門編となるシリーズ『はじめての古美術鑑賞』を開催してきた東京・南青山の根津美術館。その6回目として、「写経と墨蹟」の見どころを名品で学ぶ展覧会が、5月31日(土)から7月6日(日)まで開催される。
仏教の経典を書写した「写経」と、多くは禅の心得を書いた禅僧の書の「墨蹟」。一見して難しそうに思えるだけでなく、内容も決して易しいものではないが、ともに仏教に基づきながらも、ひたすらに書き写された整然とした書の「写経」と、書き手の個性までもが表れた大胆な筆跡の「墨蹟」には対照的な魅力があり、その一点一点を丁寧に見ていくと、それぞれに「推せる」ポイントが見つかるものだという。
今回の展覧会では、このふたつの対照的なジャンルの作品を、展示室を二分してともに並べることで、まずはその造形的な違いを目で見て実感できる展示構成がとられている。展示作品は、同館で所蔵する国宝や重要文化財を中心とした名品群。書としての見どころや歴史的な重要性といった鑑賞ポイントや専門用語について、わかりやすい解説が添えられているのもうれしいところだ。

重要文化財《華厳経 巻第四十六(二月堂焼経)》(部分) 日本・奈良時代 8世紀 根津美術館蔵
例えば、6世紀に仏教が日本に伝わって以来、祈りを込めて続けられてきた営みである「写経」には、同じように整然とした書写ながら、制作された時代による魅力の違いもあるという。奈良時代には、経文の書写を専門とした写経生たちによる謹厳で端正な書風が見られ、一方、平安時代に貴族たちが功徳を求めて作らせた壮麗な写経の遺品では、華やかな料紙装飾や温雅な和様の書風が見られ、時代の美意識もうかがえる。一方、禅宗の師から修行僧へ与えられた「墨蹟」は、書き手である高僧の禅の精神の表出として、その人柄が想像できるような個性的な書風や大胆な筆跡にふれられるのが興味深い。
難しいと思っていた写経と墨蹟だが、今回は個々の作品の何が、どのように優れているのかを学びながら、名品それぞれの魅力に迫る機会となる。同時開催展として、京都と大津を結ぶ街道の土産物として親しまれた素朴で愛らしい大津絵を紹介する展示もあるのでお楽しみに。

《鬼の念仏図》日本・江戸時代 18世紀 根津美術館蔵 ※展示室2『大津絵 つくられ方・たのしみ方』にて展示
<開催概要>
『企画展 はじめての古美術鑑賞―写経と墨蹟―』
会期:2025年5月31日(土)~7月6日(日)
会場:根津美術館
時間:10:00~17:00(入場は16:30まで)
休館日:月曜
料金:オンライン日時指定予約一般1,300円、大高1,000円
公式サイト:
https://www.nezu-muse.or.jp/