
泉屋博古館(京都東山・鹿ヶ谷)は、中国古代青銅器・青銅鏡の世界屈指のコレクションで知られる美術館だ。そのなかから青銅鏡の名品を中心に、中国古代の洗練されたデザイン感覚、その背景となった神話や世界観を紹介する展覧会が、6月7日(土)から7月27日(日)まで、六本木一丁目にある泉屋博古館東京で開催される。
高度な文明が発達した中国古代では、優れた技術によって様々な文物がつくられた。そうした文物に施されたのは、現代の眼から見ても斬新で刺激的なデザインの数々だ。こうしたデザインは、どのような思想のもとに生まれたのかという問いを出発点とした同展は、「動物/植物」「天文」「七夕」「神仙への憧れ」という主に4つの観点から、デザインの背景にある物語を丁寧に読み解いていく。

重要美術品《鴟鴞尊》中国・殷(前13-前12世紀)泉屋博古館
例えば、デザインに登場する空想上の動物や実在の動物は単なるモチーフではなく、天と地をつなげる媒介としての性質が与えられていた。一方、植物は「世界樹」の思想にも通じ、古代人の信仰する生命力の象徴でもあったとか。また、世界で起こる様々な出来事を前もって知るための技術でもあった天文のモチーフは、出来事の前触れとして出現する霊獣とともに表現された。デザインに秘められたこうした謎に迫ることで、とっつきにくかった中国美術が親しみやすくなるところが、同展の大きな魅力のひとつだ。
さらに同展では、中国古代の物語やデザインが日本に与えた影響にも目配りする。不老不死を司る中国の仙女・西王母とも関係する七夕伝説は、人々の死と再生をめぐる思いやイメージを反映したもので、鏡の紋様にも影響を与えていた。同展では、現代の日本でもよく知られる七夕伝説の源とイメージの変遷を、中国古代の鏡や画像石、さらには日本の近世・近代絵画も交えて展観する。

上島鳳山《十二ヶ月美人》のうち《七月 七夕》(部分)日本・明治42年(1909)泉屋博古館東京
今回は同時開催として、2021年と2023年に京都の泉屋博古館で開催された「泉屋ビエンナーレ」の出品作も展示される。新進気鋭の鋳金作家たちが、中国古代青銅器からインスピレーションを受けて制作した作品群で、鋳金芸術の最先端を目撃できる点でも興味深い。
<開催概要>
企画展『死と再生の物語(ナラティヴ)―中国古代の神話とデザイン―』
会期:2025年6月7日(土)~7月27日(日)
会場:泉屋博古館東京
時間:11:00~18:00、金曜は19:00まで(入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜(7月21日は開館)、7月22日(火)
料金:一般1,200円、大学600円
公式サイト:
https://sen-oku.or.jp/tokyo/