本業の落語のみならず、映画や音楽など幅広いカルチャーに造詣が深い22歳の落語家・桂枝之進。自身が生まれる前に公開された2001年以前の作品を“クラシック映画”と位置づけ、Z世代の視点で新たな魅力を掘り起こす。
デニーロ×スコセッシの最強タッグ作
ルパート・パプキンを演じたロバート・デ・ニーロ
Everett Collection/アフロ
昔の作品でも見たことがなければ新作映画!
一周まわって新しく映った作品の数々をピックアップする「桂枝之進のクラシック映画噺」、今回は『キング・オブ・コメディ』(1982)をご紹介。
『タクシードライバー』(1976)や『ニューヨーク・ニューヨーク』(1977)などに続く、マーティン・スコセッシ監督と俳優ロバート・デ・ニーロのタッグ作だ。
主人公は、有名TVスター、ジェリー・ラングフォード(ジェリー・ルイス)の追っかけをするうちに誇大妄想を膨らませ、自分もスターの仲間入りができると思い込んだ“自称”コメディアンのルパート・パプキン(ロバート・デ・ニーロ)。
陽の当たらない人間の精神性をあぶり出す作風として、本作のルパート・パプキンは『タクシードライバー』のトラヴィス・ビックルと比較して語られることが多い。
一見陽気なテンションのキャラクターとして描かれるパプキンだが、空想と現実が入り混じるその性格の裏側には、救いがたい闇が見え隠れする。
『キング・オブ・コメディ』という痛快なタイトルと内容との乖離から、公開時の興行成績は芳しくなかった。しかしマイナーな傑作として、現在に至るまで業界内での評価は非常に高く、2019年に公開された『ジョーカー』に多大な影響を与え、本作へのオマージュが数多く見受けられるほどだ。
TVショー出演のために誘拐計画を実行⁉︎
肥大化した自意識を抱えて生きているパプキンは、家に帰るとジェリー・ラングフォードやライザ・ミネリの等身大パネルに向かいトークを繰り広げ、大勢の群衆が描かれた書き割りを前に、妄想の中でひとり喝采を浴びている。
同居する母親が「静かにして」と口を挟むのが、残酷にも空虚さを際立たせている。
まるで思春期の子供のような、自己陶酔を続ける人生は見ていて悲しくなった。
「デモテープを持ってこい」というジェリーの何気ないひと言を真に受けて事務所に押しかけ、都合よく妄想を膨らませた挙句に、昔から好きだった女性リタ(ダイアン・アボット)を連れてジェリーの別荘まで押しかけてしまうパプキン。
彼を駆り立てる猛烈なエネルギーの裏側には、その分だけ何か逃げたい現実があるのではと感じた。映像には見えない恐ろしさが浮かんでくる。
ジェリーの別荘で冷たく突き放されたパプキンは、ジェリーを人質に取り、代わりにTVショーに出演する犯行計画を企てる。
「どん底で終わるより、一夜の王になりたい」
そこから物語は急展開していく。
狙い通りTVショーでスタンダップ・コメディを披露することになったパプキン。
彼の中に記憶されたジェリーのコメディアンとしての抑揚を引き出し、模倣的な立ち振る舞いをするが、肝心のネタは自身の生い立ちについてだった。
ここで初めて、パプキンという人間の辻褄が合っていく。その見事な構成に固唾を飲んでネタを見守ったが、劇中の観客の笑いはどこか乾いているように思えた。
理解し難く本来なら関わりたくないはずなのに、感情移入し、希望を見出してしまうのがこの男の不思議な魅力だ。
果たしてパプキンは一夜の王になれたのか、ステージの上で何を思ったのか。
ひとりの芸人として、深く共感できる作品だった。
『キング・オブ・コメディ』(1982)The King of Comedy 上映時間:1時間49分/アメリカ
スターを夢見る34歳のルパート・パプキン(ロバート・デ・ニーロ)は、有名コメディアンのジェリー・ラングフォード(ジェリー・ルイス)の大ファン。出待ち中に熱狂的女性ファンのマーシャ(サンドラ・バーンハード)からラングフォードを救い出したことで、強引に自分を売り込むことに成功する。「事務所に電話をしてこい」と言うラングフォードの言葉を鵜呑みにしたパプキンは、早速オフィスに乗り込むものの、秘書からまったく相手にされず追い返されてしまう。